第41話「セレナとの共闘」
轟音と共に、研究室全体が激しく震動した。
「何だ!?」
マルクスが慌てて立ち上がる。古代魔導書から放たれた魔力の波動が、室内を駆け巡っていた。
俺は素早く状況を把握する。
「防衛機構だ! 核心に触れたことで発動したらしい」
壁面に浮かび上がる古代文字。それらが放つ光が、徐々に殺意を帯びていく。
「まずい、このままでは――」
リリアの顔が青ざめる。
その時、隣の研究室からも同じような轟音が響いた。
「セレナ陣営も同じ状況か」
エリーゼが扉を開けて確認する。
廊下には既にカイル・ウィンザーが立っていた。
「レオン! 大変だ、セレナたちも防衛機構に襲われている」
* * *
俺たちは急いでセレナの研究室へ向かった。
そこでは、彼女のチームが必死に防御魔法を展開していた。しかし、古代の力は現代魔法を軽々と突破していく。
「このままでは持たない!」
セレナが歯を食いしばる。
俺は彼女と目を合わせた。一瞬の沈黙の後、互いに頷く。
「今は協力するしかない」
「……分かったわ」
セレナも状況を理解している。
カイルが安堵の息をつく。
「良かった。二人が協力すれば――」
『レオン、セレナさん』
アルフィの声が響く。
『防衛機構のパターンを分析しました。単独では突破不可能です』
* * *
俺たちは二つのチームを統合し、対策を練った。
「防衛機構の攻撃パターンは三層構造になっている」
セレナが冷静に分析する。
「第一層は物理攻撃、第二層は魔法攻撃、第三層は――」
「精神攻撃だ」
俺が引き継ぐ。
「直感的に感じる。第三層は解読者の心を直接攻撃してくる」
セレナが眉を寄せる。
「直感? 根拠は?」
「ない。でも確信がある」
通常なら、ここで議論になるところだ。しかし――
「……いいわ。あなたの直感も考慮に入れましょう」
セレナが珍しく譲歩した。
* * *
作戦が決まった。
「私のチームが論理的に第一層と第二層を解析する」
セレナが指示を出す。
「その間に、レオンのチームは――」
「第三層の精神攻撃に備える」
俺が続ける。
「マルクスとリリアは防御魔法の強化を。エリーゼは両チームの連携調整を頼む」
『興味深い協力パターンです』
アルフィが感心する。
『論理と直感、両方のアプローチを組み合わせることで、より強力な対抗策になっています』
作戦開始。セレナチームの精密な解析が、防衛機構の第一層を見事に無力化していく。
「さすがだ」
俺は素直に感心する。
「ありがとう」
セレナも小さく微笑む。
「でも、第三層はあなたの領域ね」
* * *
第三層の攻撃が始まった。
目に見えない圧力が、俺たちの精神を締め付ける。
「ぐっ……」
セレナのチームメンバーが苦しむ。
「集中しろ!」
俺は叫ぶ。
「これは恐怖じゃない。古代の試験だ。俺たちが本当に知識を扱う資格があるかを問うている」
その言葉に、みんなが顔を上げる。
「なるほど」
セレナが理解する。
「防衛じゃなくて、試験……その発想はなかったわ」
俺たちは恐怖と戦うのではなく、試験に答えることに集中した。
すると、圧力が徐々に和らいでいく。
「やった……」
リリアが安堵の声を漏らす。
* * *
防衛機構が完全に停止した。
研究室に静寂が戻る。
「あなたの直感的アプローチ……」
セレナが複雑な表情で俺を見る。
「悪くないわね」
「君の論理的分析がなければ、第一層も突破できなかった」
俺も率直に認める。
二人の間に、わずかな理解が生まれた瞬間だった。
「でも」
セレナが続ける。
「これで私たちの競争が終わったわけじゃない」
「分かってる」
俺は頷く。
「でも、今日証明されたことがある」
「何が?」
「異なるアプローチにも、それぞれ価値があるということだ」
セレナは少し考えた後、小さく頷いた。
「レオン……あなたのAI技術の理解、思っていたより深いのね」
セレナが意外そうに言う。
「今日の協力で分かったの。あなたはAIを道具として使っているのではなく、真のパートナーとして理解している」
俺は驚く。セレナのAI技術への見方が変わり始めている。
『セレナさんの分析能力も、私たちには学ぶものが多いです』
アルフィが率直に認める。
『論理と直感の融合……これが未来のAI活用のあり方かもしれません』
カイルが満足そうに微笑む。これで少しは、二つの陣営の緊張が和らぐかもしれない。
「でも競争は続くのね」
セレナが最後に言った。
「ただし、今度は単なる対立ではなく、お互いを高め合う競争にしましょう」
しかし、古代魔導書の解読競争は、まだ始まったばかりだった――。




