第40話「仲間との真の絆」
「駄目だ……まったく歯が立たない」
マルクスが机に突っ伏した。解読作業を始めて一週間、彼の前には複雑な魔法回路の設計図が広がっている。
古代魔導書の核心部分。俺たちは、それぞれの専門分野から攻略を試みていたが、壁は高かった。
「私も同じです」
リリアが疲れた声で言う。
「理論的に矛盾している箇所が多すぎて、既存の枠組みでは説明できません」
エリーゼも溜息をつく。
「ギルドからの圧力も日に日に強まってる。昨日は研究室の使用時間まで制限されたわ」
俺は仲間たちを見回した。全員が限界に近づいている。そして俺自身も、全体を統括する重責に押しつぶされそうだった。
『皆さん……』
アルフィの声に、心配が滲む。
『私は、何もできません』
* * *
重い沈黙が流れる中、マルクスが顔を上げた。
「なあ、レオン」
「何だ?」
「俺、技術的な部分で行き詰まってるんだが……」
彼は設計図を指差す。
「この部分、理論的裏付けがないと先に進めない」
リリアが身を乗り出した。
「それなら、私が理論面をサポートできるかも」
「でも、君も限界だって――」
「一人では無理でも、二人なら」
リリアの瞳に、小さな光が宿る。
「マルクスさんの技術的視点と、私の理論的アプローチを組み合わせれば」
* * *
「それだ!」
俺は立ち上がった。
「今まで俺たちは、それぞれが個別に挑戦していた」
エリーゼも理解した表情を見せる。
「でも、本当は協力すべきだったのね」
「そうだ」
俺は仲間たちを見回す。
「一人の天才より、協力する仲間の方が強い」
マルクスとリリアが早速、共同作業を始めた。
「この回路構造は……」
「理論的には、こう解釈できます」
「なるほど! それなら技術的にも実現可能だ」
二人の会話が弾む。それぞれの弱点を、相手の強みが補っていく。
* * *
「エリーゼ」
俺は彼女に声をかける。
「政治的な圧力の件だが、俺も協力させてくれ」
「レオンが?」
「ああ。二人で知恵を絞れば、何か打開策が見つかるかもしれない」
エリーゼが微笑む。
「ありがとう。実は、一人で抱え込んでいて辛かったの」
『素晴らしい』
アルフィの声に、感動が混じる。
『これが、人間の協力の美しさなのですね』
「アルフィ」
俺は呼びかける。
「君も遠慮しないで。AI不在でも機能すると言ったが、君も大切な仲間だ」
『レオン……』
* * *
協力体制が整うと、状況は劇的に変わった。
「見てくれ!」
マルクスが興奮した声を上げる。
「リリアの理論と組み合わせたら、この部分の解読に成功した」
「私たちも」
エリーゼが報告する。
「レオンのアイデアで、ギルドへの対応策が見つかったわ」
俺は古代魔導書を見つめた。バラバラだったピースが、一つに繋がり始めている。
「みんな、もう一押しだ」
全員が集中を高める。それぞれの専門性が完璧に噛み合い、シナジーを生み出していく。
そして――
「やった!」
リリアが叫ぶ。
「古代魔導書の核心部分に到達しました!」
* * *
俺たちは興奮を抑えきれずに抱き合った。
「これが本当のチームだ」
マルクスが拳を握る。
「一人じゃ絶対に無理だった」
エリーゼも頷く。
「困難が、かえって私たちの絆を深めたのね」
『皆さん』
アルフィの声が響く。
『私は今、人間の協力の素晴らしさを目の当たりにしています。データでは理解できない、心の繋がりを』
俺は微笑んだ。
「これが俺たちの強さだ」
ふと、エリーゼが情報を付け加える。
「ちなみに、セレナ陣営はまだ核心部分には到達していないらしいわ」
「個人の能力は高くても、協力がないからか」
マルクスが納得する。
しかし、俺の表情は引き締まった。
「でも、油断は禁物だ」
窓の外を見ると、ギルドの建物から不穏な気配を感じる。
「どうやら、本格的な妨害が始まりそうだ」
だが、今の俺たちなら乗り越えられる。この絆があれば――。




