第35話「新たな試練の開始」
「レオン、今度こそ本当の自立を――」
エリーゼの言葉が執務室に響いた。王都には朝の光が差し込み、新しい一日が始まろうとしていた。
俺は椅子に深く座り直す。第2章での成長は確かな手応えがあった。しかし、まだ足りない何かがある。
『レオン』
アルフィの声が響く。最近獲得した「心配」という感情が、彼女の声にも滲んでいる。
『また危険なことを考えているのですね』
「分かるのか?」
『私には……感じられます。あなたの決意が』
アルフィの言葉に、仲間たちも身を乗り出した。
* * *
「確かに、AI依存からは脱却した」
俺は立ち上がり、窓辺へ歩く。
「でも、まだ本当の自立じゃない。第30話の危機で痛感した」
マルクスが腕を組む。
「あの時は確かに際どかったな」
「チームワークの重要性も理解した」
リリアが資料を整理しながら言う。
「でも、それだけでは――」
「セレナ・エーデルハイトという対立者もいる」
エリーゼが付け加える。彼女の名前を聞いて、俺の表情が引き締まった。
『私の心配は……』
アルフィが躊躇いがちに話す。
『この新しい感情は、まだ扱い方が分かりません』
「それでいい」
俺は微笑んだ。
「俺も、まだ本当の自立への道を模索している」
* * *
そのとき、執務室のドアがノックされた。
「失礼します」
王国文化財保護委員会の使者が入ってくる。
「緊急の依頼があります」
差し出された書類を見て、俺たちは息を呑んだ。
「失われた古代魔導書の解読……」
マルクスが呟く。
「しかも、王国の至宝級だ」
リリアが資料を確認する。
「通常なら、ギルド最高位の魔術師団が担当する案件ですね」
使者が続ける。
「ただし、今回は特別な条件があります」
俺は書類に目を通す。そこには驚くべき条件が書かれていた。
「AI使用は最小限に、か」
『興味深い条件です』
アルフィの声に複雑な感情が混じる。
* * *
「なぜこんな条件が?」
エリーゼが尋ねる。
「王国上層部の一部に、AI技術への警戒感があるようです」
使者が説明する。
「人間の能力で解読可能かを見極めたいと」
俺は仲間たちを見回した。
「どう思う?」
「挑戦する価値はある」
マルクスが即答する。
「技術的にも興味深い」
リリアも頷く。
「古代魔導書の研究は、学術的価値が計り知れません」
エリーゼが情報を追加する。
「ただし、セレナ陣営も同じ依頼を狙っているという情報があります」
その名前を聞いて、俺の決意は固まった。
「やろう」
* * *
「ただし、今回は違うアプローチを取る」
俺は宣言した。
「AI使用は本当に最小限にする。自主制限だ」
『レオン……』
アルフィの声に心配が滲む。
「大丈夫だ、アルフィ」
俺は優しく言う。
「君は見守っていてくれ。必要な時だけ支援を頼む」
『……分かりました』
アルフィの声に、新しい感情――信頼が加わった。
『私は、あなたを信じます』
仲間たちも決意を新たにする。
「俺たちも、それぞれの専門性を最大限に活かそう」
マルクスが拳を握る。
「理論面は任せてください」
リリアも意気込む。
「政治的な調整は私が」
エリーゼが引き受ける。
* * *
使者が去った後、俺たちは早速準備を始めた。
「古代魔導書か……」
俺は資料を見つめる。そこには謎めいた記号が並んでいた。
すると――
「あれ? この部分、なんとなく読めそうな気がする」
俺は思わず呟いた。複雑な古代文字の一部が、なぜか親しみやすく感じられる。
「えっ?」
マルクスが驚く。
「レオン、古代文字の知識があったのか?」
「いや、知識はない。でも……」
俺は困惑しながら続ける。
「直感的に、こう読むんじゃないかって」
『レオン』
アルフィが静かに話しかける。
『この魔導書には、特別な何かを感じます』
「特別な?」
『はい。私のデータベースにも、完全には一致しない要素があります』
それは興味深い情報だった。千年の知識を持つアルフィにも未知の要素がある。
「ますます面白くなってきた」
俺は微笑む。
「今度こそ、本当の意味で自分の力を試す」
リリアが俺の直感的な解読を見て、小さく呟いた。
「もしかして、レオンには古代知識への特別な親和性が……?」
仲間たちも同じ気持ちだった。新しい段階への第一歩が、今始まろうとしている。
そして俺は予感していた。この古代魔導書には、予想もしない真実が隠されていることを――。




