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敖霜枝  作者: 白玖黎
9/9

敖霜枝


 黎明(れいめい)元年、晩冬。



「あ、お客さん! また会ったネ!」


 いろいろと落ち着きのなかった冬も終わりが近づき、人の都は以前と同じ活気を取り戻しつつあった。

 なかでも再び隊商(キャラバン)がやってきたというのは注目を集め、市場は朝からずっと人であふれ返っている。

 久々に気が向いて市場に(おもむ)いた敖丙(ごうへい)は、そのなかに見覚えのある姿を見つけて駆け寄った。


「花屋のおじさん、こんにちは」


 店主はにっこりと笑い、満足げにうなずく。


「聞いたヨ。国が変わったんだって? 大変だっただろう。おかげで、商売はしやすくなったんだけど」


 見ると、店先に並べられた植物の種類が前よりも増えている気がした。

 路地裏に小ぢんまりと露店(ろてん)を出していた花屋も、今では大通りの目立つところに立派な店を構えている。

 花屋はあれから随分と繁盛(はんじょう)しているようだ。


「そういえば、この前一緒にいた友達は? 今日は来ていないノ?」


 あまり触れてほしくない話題を振られ、敖丙はぴくりと肩を震わせる。


哪吒(なた)は、仕事が忙しくて……来れないんです。最近はずっと、そんな感じで……」

「そっか。それは残念だネ」


 もれた声は低く、力を感じさせない。

 本当のことを言うわけにもいかず、咄嗟(とっさ)に嘘をついてしまった。


 彼はもう戻ってこない。

 だって、あのとき(まぎ)れもなく死んだのだから。


 今からでも、訂正(ていせい)したほうがいいだろうか――。


「おや? 仕事、もう終わったみたいだヨ」


 ほら、と。

 不意にかけられた言葉に、敖丙は無意識に背後を見た。

 振り向いた視線の先にあった後ろ姿を見た瞬間、心臓が大きく跳ねる。


 あの日以来、一度も会っていない。

 二度と会うことはないと思っていた彼が、変わらぬようすでそこに立っていたからだ。


 ふわりと、冷たい風が前髪を巻き上げた。


 彼はこちらを振り返ることなく歩き出し、人混みのなかに消えていこうとする。


 ――もう二度と、逃げはしない。


 そう思い、敖丙は懐かしい背中に向かって走り出した。




 菊の花が咲くまで、あともう少し。



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