3 天使の祠
タイトルを、「『ジャンヌ・ダルク』を原案にしたゲームの世界に転生して救国の大聖女になる」から、『転生聖女剣士ージャンヌ・ダルクを原案にしたゲームの世界に転生して救国の大聖女になるー』に変更しました。
私は三本杉のもとにある祠に向かって走った。
「聖女だ!」
「聖女がこっちに来るぞ」
まずいことに三本杉の方向には敵がいた。
敵兵が私を指さして叫んだ。
「聖女一人を殺れば、敵兵を30人殺したのと同じだ」
「こいつがいると、完全に息の根を止めない限り、治癒魔法で敵は復活してくる」
「高い能力を有する聖女なら、将にも匹敵するぞ」
別の意味で聖女は一騎当千だ。
聖女がいる限り負傷兵はすぐに戦列に復帰できる。ある意味、兵士を不死身化するのが聖女の役割だ。戦略的には重要なポジションだ。
だから負傷者が誰に助けを求めればいいのか一目でわかるように聖女はすぐに聖女とわかる目立つ格好をさせられる。白地のドレスの中心には聖教会のシンボルである金の十字の刺繍がある。縁取りはスカイブルーだ。
ただ、それは聖女は前線には出ないということが前提でのことだ。戦場でこの格好をしているのは、殺して下さいとマーキングをしているのと同じだ。
私はあっと言う間に十数人の兵士に囲まれた。
それでも私は繰り出される槍や刃をくぐり抜けて祠に向けて進んだ。
「聖女様、お戻り下さいー!」
後方から味方の兵士が私に呼びかける。
確かにこんな格好で一人で敵地に向かうなど自殺行為にしか見えないだろう。
だが、やらねばならないのだ。
この世界がゲームの通りだとすると、私がチートな能力を開花させるには、あの大天使ミヒャエルの祠にある剣を手にするしかないのだ。撤退してしまえば、この北部地域は敵の支配下になり、再び大天使ミヒャエルの剣を手にする機会は奪われてしまう。
そして、敵の侵攻は早くしかも強烈で、私の能力が開花しない限り数ヶ月でこの国は滅びてしまう。
そうすると遅かれ、早かれ、私も処刑される運命となる。
私は前に進んだ。
いくら転生前に練習をした中国武術の剣術や日本の剣道の素養があっても多勢に無勢であり、受けきれず、かわしきれずに、斬られ、刺されていく。
「ヒール!」
「ヒール!」
「ヒール!」
「ヒール!」
「ヒール!」
回復魔法の連続がけで、斬られても斬られても私は前に進んだ。
「こいつしぶといぞ」
「回復魔法の連続かけなんて反則だ」
「きりがない」
「一斉にみんなで突け、回復の余地を与えずに、即死させろ」
私の包囲の輪が小さくなってゆく。
「「「聖女様ー!」」」
「チッ」と私の横にいた敵兵が舌打ちをした。
援軍が来たのだ。
私に群がる兵士を引き剥がすように、味方が薙ぎ払ってくれる。
そのすきに、私は包囲網から離脱した。
「あっ、待て!」
私は足にまとわりつくドレスを引きちぎり、ミニスカートのようになった聖女服で駆けた。
眼の前に祠が見えた。
「捕まえてやる!」
低い姿勢から私の露わになった太ももめがけて敵兵がタックルをしてきた。
その首をすくい上げるように剣を振った。
敵兵の首がボールのように飛んだ。
首から吹き出した血で白い聖女服が赤く染まった。
そうして、やっとの思いで祠に着いた。
中に入ろうとすると、祠の入口には石の扉があり、扉は閉じていた。
「どういうこと?」
原作のゲームには扉は無かった。
そのまま祠の奥まで入れたのだ。
扉を開こうノブのようなものに手をかけて引いた。
だが、開かない。
今度は押してみた。
動かない。
「へへへへ、そんなところに逃げ込んでも無駄だ」
気がつくと後ろは敵兵だらけだった。
万事休すだ。
私は扉を背にして剣を構えた。
私を助けに来た兵士たちの姿はもうどこにも見えない。
(みんな殺られたんだわ)
私の行動のせいで命を落とした兵士たちのことを思うと心が痛んだ。
(でも私が覚醒しないとこの国は滅びる)
敵兵は槍を構えていた。
一度に大勢で突くつもりだ。
敵から奪った量産品の剣一本ではとても防ぎきれないだろう。
私は後ずさりをした。
背中にひんやりとした冷たい石の感触がした。
すると、するりと扉が回転した。
私は背中から転がるようにして祠の中に入った。
(えっ、何?)
この扉は回転扉だったのだろうか。
だが、私が入ったのを見て、すぐに敵も入ってくるはずだ。
私は、敵が入って来る瞬間に刺そうと扉の横に身を潜めた。
しかし、誰も入ってこない。
怒声や扉を叩く音は聞こえるが、石の扉は微動だにしない。
(私だけが入れたの?)
原作のゲームでは石の扉はなかった。
(ここは本当にゲームの世界なの?)
細かいところが私が覚えていた原作のゲームとは違っていた。
(だとすると、大天使の剣を得ても私の能力が開花しなかったらどうしよう)
だが、ここまで来たら、それを心配してもしょうがないことだ。
私は意を決すると祠の奥へと進んだ。
(この先に大天使ミヒャエル像があり、その像の前に剣が奉納されているはずだわ)
私は祈るような気持ちで歩を進めた。
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