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最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である  作者: megane-san


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15. 王太子の婚約者候補

 王宮でのお茶会当日、クロエは朝早くから張り切る侍女達に磨かれてようやく準備が整い、辺境伯夫妻に見送られて、護衛兼侍女のメイと一緒に王都のタウンハウスへ転移してきた。


クロエはタウンハウスの玄関ホールに転移すると、ダンはすでに準備を整えクロエを待っていた。


「ダン兄様、遅くなりました!」


小走りでダンの前まで来ると、ダンはクロエを見てピシッと固まっていた。


「ダン兄様?」


「クロエ、別人に見えるわ……。誰かと思ったよ~。俺の妹、美しすぎるわ~」


クロエは、艶やかな黒髪をハーフアップにして、光沢のある白い生地で作られた腰の後ろに大きなリボンのついた可愛らしくもシンプルで少し大人っぽいドレスを着ていた。


「ダン兄様も素敵です。クラバットとチーフを私の目の色に合わせてくれたんですね」


「妹を初めてエスコートするからな。少し気合入れたわ」


ダンは父親譲りの黒髪に金色の瞳で背も高く、クロエの紅い瞳と同じ色のクラバットに黒のタキシードを身に着けた姿はどう見ても15歳になったばかりとは思えない立ち姿であった。


そう、ブラウン辺境伯家族は全員が美男美女なのである。


ブラウン辺境伯のジョンは、黒髪に切れ長の金色の瞳で身長は198㎝。筋肉隆々で土・火・雷の3つの魔力を持つこの国では有数の力を持つ人物であった。


そしてその辺境伯夫人のレーナは、銀髪に紫の瞳を持つ傾国の美女とまで言われた女性であった。しかし、氷と風の魔力を持って髪を振り乱しながら敵と戦う姿は、皆が目を逸らしてしまうほどのガクブルな魔女そのもの……。


次男のロイは、レーナの色を受け継いでおり、長髪の艶やかな銀髪に濃い紫の瞳を持つ、見た目だけは長身の美しい貴公子のようだが、魔道具作成に夢中になっているときのロイは工房に籠りきりで1週間風呂にも入らず目だけギラギラさせているヤバイ奴であった。



ダンは少し照れながらクロエに腕を差し出し、クロエはダンにエスコートされながら馬車に乗った。


王宮のお茶会の会場にダンとクロエが入ると、先に到着していた令息令嬢達は一斉に2人を見た。


「お兄様、何だか私達、注目されてますわよ……」


「俺たち、王都のお茶会なんてほとんど出ないから珍しがってんじゃないか?」


2人が会場内に足を進めると、令息令嬢達からコソコソと会話している声が聞こえてきた。


「ダン様だわ!背も高くて鍛えられている立ち姿が恰好良すぎますわ~!」


「あれ、辺境伯家のご令嬢だろ。初めて見たけど、10歳には見えないよ……。どうみてもデビュタント済ましてる令嬢だよ。美しすぎる……」


お茶会に出席している令息令嬢は、王妃や王太子に見初められようと頑張って着飾ってきているようだったが、どう見ても年相応の10歳から15歳の容姿だった。しかし辺境伯で鍛えられているダンとクロエは、まわりの令息令嬢達よりも頭ひとつ背が高くスラッとした立ち姿は周りを圧倒するようなオーラを醸し出していた。


みんながザワザワしていると、王妃と王太子、そしてピンクのドレスを着たビースト国の王女が一緒に会場に入ってきた。


「今日は王太子の側近と婚約者候補を選定するための顔合わせのお茶会ですが、皆さん緊張しないで楽しんでくださいね。そうそう、今日はビースト国の王女も参加されていますので交流を深める機会にしてください」


王妃はみんなに向かってそう言うとチラリとクロエに視線を向けたが、クロエは気が付かないふりをして視線をスィーツの置いてあるテーブルに固定した。(王妃様、こっち見てるわ~。性格悪そう~)


ふと視線をずらすと、王妃の横に立っているビースト国の王女と目が合った。王女が視線をクロエの隣に向けたかと思うと王女は目を大きく見開いてダンを見つめていた。


令息令嬢達が挨拶のために王妃や王太子の周りに集まり始めると、王女はこっそりと気配を消しながらダンとクロエの側へ来た。


「ビースト国王女のシルビアと申します。ブラウン辺境伯家のご活躍はビースト国まで伝わっていますよ」


シルビア王女はホワイトタイガーの獣人で、白いフワフワの耳がピコピコ動くのがとても可愛らしいかったが、ビースト国騎士団の訓練に参加しているらしく、将来は騎士団長になること目指して鍛えていると話してくれた。ダンとシルビア王女は、騎士団の訓練について話が盛り上がっていたが、周りからコソコソと「獣人がダン様に取り入ろうとしてるわ」「なんで獣人なんかが参加してるんだよ」と悪口が聞こえてきた。


耳の良いシルビア王女は聞こえてないふりをして、クロエにこそっと「また今度、お話しましょ」というと、王妃の隣の位置に戻りアルカイックスマイルを顔に張り付けて座っていた。


「ここの貴族連中は偏った価値観のやつばっかりだな。やっぱ、無理だわ」


ダンは小声で呟いた後、クロエをエスコートして王妃と王太子に挨拶をしに向かった。


「ブラウン辺境伯家長男のダンと申します。そして妹のクロエです」


ダンが挨拶をすると、クロエは完璧なカーテシーでお辞儀をした。


王妃は扇を口元にあてながら、クロエを上から下まで舐める様に見ると、ニヤニヤした顔で口を開いた。


「貴方がクロエさんね。貴方はアーサーの筆頭婚約者候補なのよ。ぜひ後でお話したいわ」


ダンはポーカーフェイスを保ちながら、(想定内だしな~という雰囲気で)王妃に向かって笑顔で答えた。


「妹にはすでに婚約者がおりますので、大変有難いお話ですがお断りさせていただきます。王宮にはすでに婚約届を提出済ですが、手違いがあったのかまだ受理されていないようですね。そのせいで王妃様もクロエにまだ婚約者がいないと勘違いされたのでしょう。アーサー殿下もクロエのようなお転婆よりも、しっかりと淑女教育されたご令嬢の方が相応しいかと思いますが……」


クロエはチラッと王妃の隣に座っている王太子を見ると、じっとクロエの顔を凝視していた王太子とバッチっと目が合った。


「母上!俺はこいつがいい!」

 

アーサー王太子はクロエを凝視しながら、指をさして大声で喚き出した。


「あらあら、アーサーも気に入ったようね。王太子妃はクロエさんで決まりね」


王妃は意地悪気な目をクロエに向けると、強引に侍女達にクロエを別室に連れて行くように指示した。そしてクロエはダンの耳元でコソッと囁くと、侍女に連れられて別室に移動した。


「兄様、想定内よ。メイも影の中に入ってくれているわ。1時間経って私から連絡がなかったら予定通りにお願いします」



会場から離れた王宮の奥まった部屋に通されると、侍女はお茶の準備をして部屋を出ていった。


(あらぁ、お茶に眠り薬はいってるわね。まぁ、これも想定内だけど。)


クロエは修行中に師匠から毒や薬についての感知魔法も学んでいたのですぐに薬には気が付いたが、王妃の策略を暴くため、お茶に入った薬で眠ってしまったフリをしてソファに横になった。


「メイ、そこで見ててね。もし私が捕まったらお兄様にすぐ知らせて」


クロエが独り言のように呟くと、メイは影をサムズアップの形に変えてクロエに答えた。


しばらくすると、王妃と黒いマントを着た男が部屋に入ってきた。


「簡単に捕らえられたわね。こんな大人びた容姿をしてても10歳の子供よ。じゃあ後はアーサーの婚約者にふさわしく洗脳をお願いね」


王妃が部屋を出ていくと、黒いマントを着た男がクロエが横になっているソファの側に来て、クロエに魔力封じのブレスレットをはめようと膝を折り屈んだ。その瞬間、身体強化したクロエはマントの男の手首を取り、マントの男はクロエににねじ伏せられて床に突っ伏した。


「お生憎様。ちょっと捕らえる方法がテンプレ過ぎませんか?」


クロエは光魔法の結界牢で男を捕え、そのまま辺境伯に転移しようとしたが、男はクロエの結界を破り時空間魔法で姿を消した。


クロエは「逃げられたか~」といいながら、「まっ、これも想定内よ」と、王宮の中を鼻歌を歌いながら少し寄り道してお茶会の会場に戻った。


ダンはクロエがお茶会の会場に現れると、ホッとした顔をしてクロエに駆け寄った。


「兄様、ごめんなさい失敗して取り逃したわ。結界牢で捕えて辺境伯城に転移しようと思ったんだけど、隙をつかれて時空間魔法で消えてしまったわ」


「クロエが無事ならいいさ」と、ダンとクロエはニヤリと笑って王妃の前に移動した。


「王妃様、美味しいお茶をありがとございました。それでは私達はこれで失礼いたします」


王妃はクロエ見て驚いた顔をしていたが、クロエが王妃に笑顔を向けると、王妃は青い顔をしながら王宮の奥へ小走りで入っていった。


王妃は自室に戻ると、爪を噛みながらイライラと部屋を歩き回った。


「どういうことなの!あんな小娘一人捕まえられないなんて、あの男も信用ならないわね。せっかくお爺様が魔国に聖女を送り込んで、魔国に内紛を起こして乗っ取ろうとしたのに上手くいかないわ。魔国と魔の森がヒューマン国のものになれば宝石が手に入れ放題なのに……。でも魔王も、まさか前魔王妃の偽聖女がヒューマン国から送られた刺客とは思っていないようだし……、まだ機会はあるはずよ。あの偽聖女に妻を殺された地底族の男も、真相を知らずに魔国に復讐しようしてるし。あの小娘さえ何とか手に入れて洗脳してしまえば、魔国と戦える戦力を持てるはずよ。そして魔力の強いアーサーの子を産ませるわ。ふふっ。この私が頑張らないとね……」


王妃はブツブツと独り言を言いながら、歪んだ表情で笑っていた。



誤字脱字報告ありがとうございました

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