14. 王宮からのの招待状
コーナー侯爵が辺境伯に到着すると、クロエの帰郷祝いということで、みんなで賑やかな夕食会をした。
ダンはルカの隣に座りヴァンパイア国について色々と質問し、ロイはクロエとメイの間に座って魔の森について興味津々で話を聞いていた。
夕食会が終わるとすぐに、大人達は執務室に入って話し合いをしていたが、少し経ってからクロエとルカが呼ばれた。
クロエとルカが執務室に入ると、なぜかみんなが笑顔で2人を迎えた。そして、2人がソファに座ると辺境伯がクロエに向かって真面目な顔で話し始めた。
「クロエ、帰ってきたばかりで急な話なんだが、クロエの婚約者を決めたいと思う」
(えぇ~!まだ私10歳だけど、もう婚約者決めるの?)
「実は、近々ヒューマン国の王家からクロエを王太子妃にと打診がくるかもしれないんだ。その前にクロエの婚約者を決めておいたほうが良いという私達の判断だ。そしてクロエの婚約者にルカ君の名前が上がっていて、ルカ君からは了承を得ている。あとはクロエの気持ちだけだ」
クロエはルカの顔を見上げ「いいの?」と、無言で顔の表情だけでルカに問い掛けた。
「今は、俺がクロエの婚約者として側にいた方が良いと思う。そしてそれがベストだ。クロエが将来、真実の愛を見つけたとかで婚約破棄しても構わない。その時は遠慮なく自分の幸せを選択したらいい」
「そんな都合よく……。ルカにはなんのメリットもないでしょ!」と、クロエはルカに向かって大きい声で言ったが、ルカは穏やかな声で返した。
「シルバーズ侯爵家は、魔国に忠誠を誓っている。王女の娘を守るために婚約者になることは負担でも何でもない。それにな、3年も一緒に修行した妹弟子を見捨てることなんかできないだろ。俺たちにはまだ恋愛とかいう気持ちはないけど、互いに信頼はあると自負してるが、クロエはどうだ?」
「確かにルカのことは信頼してる。背中を預けられる相手だと思ってるよ。でも、そんな甘えていいいのかな……。ルカに申し訳ない……」
クロエは下を向いて、ブツブツと言いながら、師匠の顔を問うような顔で見上げた。
「クロエ、ルカは強制されて婚約者になるのではない。ルカの意思じゃ。ルカはクロエの婚約者になるかどうか自分の気持ちを決めるために、3年間儂らに同行したんじゃ。そしてルカはクロエの婚約者になることを決断した。だから、あとはクロエの気持ち次第じゃ」
クロエはみんなの顔を見まわした後、目を瞑り集中して考えた。そしてクロエは立ち上がりルカの前に立つと、ルカの目を見て真面目な顔で頭を下げた。
「ルカ、不束者ですが、婚約者としてよろしくお願いします!」
次の日の朝、クロエとルカの婚約が辺境伯からみんなに伝えられると、みんなは大喜びで祝福した。
ダンとロイは、「俺達はもう兄弟だ!」と、ルカを引きずって訓練場で雷魔法と氷魔法を披露し、ロイはブツブツと言いながらルカの闇魔法を検証していた。クロエとメイはそんな光景を訓練場の側の芝生に座って眺めていた。
「なんだか、帰ってくるなりバタバタと婚約者が決まっちゃったわ」
「クロエ様は、ルカ様が婚約者になるのは嫌なんですか?」
「嫌ではないんだけど……。ルカに申し訳なくて……」
クロエは訓練場を見つめながら呟いた。
* * *
クロエがブラウン辺境伯領へ戻ってきて半年が経った。
ダンは最終学年になる前の春休暇に帰省していたが、名残惜しそうにヒューマン国の王立学院へ戻っていった。そして、ロイは昨年からヒューマン国の王立学院に入学する予定だったが、急遽変更してヴァンパイア国の魔法学院に留学ていた。そしてその入学試験であまりにも成績が優秀過ぎたため、2学年飛び級して魔道具専攻科へ入りギークな道を突き進んでいた。
「ジョン、王宮から厄介なものが届いたわ……」
レーナが手紙を持って執務室に入ってくると、執務室で仕事をしていたジョンは手を止めて手紙を受け取った。
「王宮からの招待状?王太子の側近と婚約者候補を選ぶ、10歳から15歳までの貴族の子息令嬢を集めた茶会か。うちの子供たち全員が対象に入ってるな。ロイはヴァンパイア国に留学しているから出席できないと断れるが……。王妃から直々の招待状、断れるか?」
ヒューマン国の王族はかなり腐敗していた。国王と王妃は贅沢三昧で国費を湯水のように使い、王太子も周りは甘言しか言わないような者で固めていて王太子教育も全く進んでいないという噂だった。クロエとルカの婚約届の申請は、ヴァンパイア国ではスムーズに受理されていたが、ヒューマン国への届け出は未だに受理されていなかった。辺境伯家からも苦情を申し入れていたが王宮からは何も返答がない。
レーナはソファに座り、少しの間考えていたが、パッと顔を上げると決心したような顔でジョンに言った。
「ジョン、以前からの計画、そろそろ進めてもいいんじゃないかしら。王家の出方次第だけど……」
ジョンは腕を組むと、う~んと唸りながら頷いた。
「そうだな、頃合いかもしれんな。茶会の件はクロエの意思にまかせよう。出席するなら、王都にいるダンにエスコートさせる。あとは王妃がどう出てくるかだな……」
辺境伯夫妻はクロエを執務室に呼ぶと、王宮から茶会の招待状がきたことを伝えた。
「お茶会?王太子の側近と婚約者候補の選定ですか……。私は婚約者がいるから候補からは外れるんですよね?」
「いや、実はヴァンパイア国ではクロエとルカ君の婚約届は受理されているんだが、ヒューマン国では未だに受理されていなんだ。王妃がクロエを王家に手に入れるために止めているんだろ……。お茶会へ出席したら、無理やり王太子の婚約者として王宮に囚われるかもしれん。仮病でも何でも使って欠席してもいい。お茶会へ出席するかどうかはクロエが決めていい」
辺境伯は心配そうな顔でクロエの返答を待ったが、クロエは笑顔で答えた。
「私、お茶会に出席します。ヒューマン国の同世代の方たちがどんな方たちなのか知りたいですし、お友達ができるかもしれないから少し楽しみです!」
レーナは、心配そうな表情で首を横に振った。
「王宮で王妃が何か罠を仕掛けてくるかもしれないわ。敵もこの機会を狙ってくるかもしれないし、危険よ……」
「お母様、私、少し強くなったんです。以前は敵に狙われるかもしれないという恐怖心で必死に魔法訓練して自分を追い詰めていました。だけど師匠に会って悲観的に考えることをやめることが出来たんです。闇魔法の修行をして少し自信が付いたからかもしれません。私、敵が怖いからっていう理由で外に出ることを諦めるのは嫌なんです。自然体で自分の人生を楽しもうと決めたので怖くはないですし、自分の意思でそこに行くので……。えっ、お母様?」
クロエがレーナを見ると、ポロポロと涙を流してクロエを見つめていた。
「クロエ、成長したのね……。そうね、私も何を怖がっていたのかしらね。クロエ、行ってらっしゃい。そして楽しんできなさい。はっ!そうとなったら、クロエの茶会用のドレスを作らなきゃ!お茶会まで時間が無いわね。クロエ行くわよ!」
レーナは執事にドレスを仕立てる準備をするように伝えると、ウキウキした顔で衣装部屋にクロエを引きずっていった。
辺境伯はクロエの成長を喜びながらレーナとクロエを見送ると、コーナー侯爵へ魔信書を送るためペンを執った。
「いつでも計画が実行できるように、俺も動くか……」
誤字脱字報告ありがとうございました




