第7話 親友
ここは暗い部屋の中、お父さんの罵倒する声、頬の痛み。
そうだ私は中学生の頃、
ーお父さんから暴力を受けていたー
私はいつも暗い部屋の中で1人、お父さんが帰ってきたらまたぶたれてしまう。学校にも行かせてもらえない。
部屋の外ではお父さんと誰かが口論をしている。
怖い。苦しい。助けて欲しい。
私の唯一の楽しみはお母さんのお見舞いに行くこと。
お母さんはいつも私に優しく笑顔を見せ、私と話をして嬉しそうにしていた。
お父さんの話はお母さんには話せなかった。
お母さんに心配してほしくなかったから..。
だが、そんなある日、お父さんは言った。
「母親の入院先が変わった。もうお見舞いにはいくな」
私は絶望した。私はこれからどうすればいいのか。
そんなことを考えながら今日も1人、私はただ部屋にいる。
私ははっと我に帰る。
そこは夕陽に照らされた私の家の跡地。
私は全てを思いだした。
この村で生まれ育った私は、中学生の頃、母の入院と父からの暴力で精神を病んでしまった。
私の今の母は私を救おうとこの村まで来てくれていたのだ。
確かに悲しくて辛い記憶だったが、今の私には全てを理解することができた。
父親への憎しみもない。当時、母の入院と仕事に育児、父もいっぱいいっぱいだったのだろう。
彗花も落ち着きを取り戻しすやすやと眠っている。
私は宿へ戻るため、来た道を歩く。
宿へ戻ると、宿の前に2人の人影がある。
1人は品田君だった。もう1人は、、
「れいちゃん!」
その女性は私を見るなり私に抱きついた。
私はその人をギュッと抱きしめる。
「ちいちゃん..久しぶり。」
それは私の親友、杉浦千波ちゃん。
記憶を取り戻した私は思い出す。ちいちゃんは中学生になっても何度も心配して私の家まで来てくれていた。
気を病んでいた私は素っ気ない態度でほとんど顔すら合わせなかったのに。
「ちいちゃん、ごめんねごめんね。
私今さっき記憶を全て取り戻したの。
ちいちゃんには謝ることだらけで..。」
「いいの。大丈夫。れいちゃんが元気でいてくれて本当に嬉しい。」
2人は涙を流し抱き合った。
その後は品田の計らいで、ちいちゃんと2人でご飯を食べることになった。
昔遊んだ頃の楽しい話。
ちいちゃんの現在の話。
ちいちゃんは今、上京して歯科助手として働いているらしい。品田から連絡を受けて、すぐにこの村に帰ってきてくれたのだ。
そして、私は母のことを相談した。電話で連絡をしたが母は取り乱し何度も私に謝ってきたこと。
「何かれいちゃんに対して罪の意識があるのかもね。
電話じゃなくって一度会って話してみたら?」
「そうだよね。うん、そうしてみる。」
「ちいちゃんは今日はどうするの?」
「2日間も休んじゃったから今日帰るつもり」
「え!?今日?」
「うん、今日。」
「家に着くの遅くなっちゃうよ?」
「ははは、大丈夫よ。私は一人暮らしだし。
まだまだ二十代、少しの夜更かしくらい平気よ。」
「また向こうでもご飯とか誘ってね!彗花ちゃんにも会いたいし。」
「うん、わかった!」
ちいちゃんと話していると時間が経つのが早い。
すぐにお別れの時間となってしまった。
「じゃあれいちゃん。今日は会えてよかった。
これからも元気で幸せでいてね。」
「うん、ありがとう。ちいちゃん。」
私はちいちゃんと抱き合い、ちいちゃんは車に乗って帰って行った。
「よかったね。玲花ちゃん」
彩芽さんも一緒にちいちゃんをお見送りしてくれていた。
そして翌日、私は朝ごはんをいただいた後、身支度をして宿を出た。宿の外には、女将さん、彩芽さん、品田君がお見送りのために集まってくれていた。
「玲花ちゃん、いつでも帰ってきなね。次来る時は昔の友達たちもみんな呼んでおくから。」
「ありがとうございます。女将さんも3日間本当にありがとうございました。次はちゃんと泊まりにきます。」
「いいえ。これからも色々なことがあると思うけど頑張って。」
「品田君も色々とありがとう。本当に助かりました。」
「うん。また何か困ったことがあったら相談してよ。」
みんなに見送られ、私はバスに乗り込んだ。
「けいちゃん、私、この村に来てよかったよ。」
彗花も楽しそうに笑っている。
私は満足した気持ちで帰路についた。
私は東京の自宅に帰宅する。
一旦、荷物などを下ろし、一息ついた。
久しぶりの自宅に一気に疲れが出たので千葉の実家に行くのは明日にしようと考えた。
千葉といっても東京寄りなので電車で行けば30分くらいだ。
だが念の為、母に電話しておこうと思い、携帯を取る。
またうまく話が伝わらなかったらどうしようと不安はあったが、ちいちゃんもきっと話せばわかると言ってくれていたのを思い出し、気持ちを奮い立たせ電話を掛ける。
意外に母はいつもと同じ様に電話に出る。明日行きたいと伝えると、母も問題なく了承してくれたので一安心だった。
私は明日に控えその日は早めに寝ることにした。
完結までもう少しです。
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