4話 昔来た病院
「玲花ちゃん?」
「ん、あっすみません..。」
目を覚ますとそこには彩芽さんがこちらを見ている。
「いやいいんだよ、疲れてたもんねぇ
夜ご飯できたから持ってきたんだけど、起こそうか迷ってて」
「すみません。いただきます。」
「もしよかったら、時間できたからお話聞こうか?
あっ、食べながらでいいよ。」
私のここまでの経緯を彩芽さんに話した。
彩芽さんは、うんうんとうなづきながら親身に話を聞いてくれた。
「なるほど..。私は玲花ちゃんとは学年が違ったから、詳しいわけではないけど、玲花ちゃんのお母さんが病気で入院していたのは本当だよ。後は私が知る限りではお父さんも一緒に暮らしてたと思うけど」
「お父さん?」
「少なくとも玲花ちゃんのお母さんがまだ玲花ちゃんの家にいる時は一緒に住んでいたはずだよ。
その後、離婚とかしたのかもしれないけど。」
「お父さん..。いつまで一緒に住んでたんだろう」
「もしかしたら私のお母さん、ここの女将なんだけど、お母さんなら何か知ってるかも。」
「そうなんですか?」
「うん、お母さん、一度もこの村から出たことないから。この村のことなら知ってることも多いかも。」
「じゃあもしよかったら話を聞いて見たいです。」
「うんいいよ!でも今日はお休みとっててね。明日のお昼くらいならいるんだけど、」
「わかりました。じゃあ問題なければ明日のお昼頃お話しできると助かります。」
「うんわかった、伝えておくね。」
「あと、すみません。私の中学生の頃のことは何かわかりますか?」
「あー中学は同じなんだけどね。1年間しか被ってないしねー。その頃はすごく関わりがあったわけじゃなかったなぁ。それに玲花ちゃんはあんまり学校に来てなかったみたいだよ。」
「そうだったんですね。なんでかはわからないですよね?」
「理由はわからないなぁ。バス停にいるのを何度か見かけたことはあるから、お見舞いには行ってたんじゃないかな?」
「ありがとうございます。ちなみにこの辺に総合病院みたいな病院ってありますか?」
「総合病院...っていうほどでもないけど、比較的大きな病院なら車で30分〜40分くらいのところにあるよ。お母さんが入院していた病院知ってるの?」
「いえ、そうじゃないんですけど..」
私は彩芽さんに夢の話をした。
「そういうこともあるんだね。そうしたら、私が知ってる病院の住所渡しておくね!」
「ありがとうございます。」
私は彩芽さんから近くの総合病院の住所を教えてもらい、明日の朝行ってみることにした。
身体的にも精神的にもすごく疲れていたので今日はそのまま寝て休むことにした。彗花もミルクを飲み、満足そうに寝ている。
翌朝、私は朝早い時間に起床する。
昨日の疲れは随分と取れた。心地の良い朝だ。
「おはよう。よく寝れた?」
襖をノックし彩芽さんが顔を覗かせる。
「はい。よく寝れました。ありがとうございます。」
「朝ごはん持ってきたからね。病院行ってみるんでしょ?食べてからいきな。」
「すみません。ありがとうございます。」
私は彩芽さんからいただいた朝食をいただき、外出の準備をする。
準備が整ったら部屋を出て、彩芽さんに声をかける。
「じゃあちょっと行ってきます。お昼頃には戻りますので。」
「うん、わかった。女将には言ってあるから。戻ったら声かけてね。」
「はい。ありがとうございます。」
[河之宿]を出ると、少し霧がかかった静かな山々。
朝方のこの村もすごく気持ちが良い。
川の音が少し聞こえる。
私は一度大きく深呼吸をして、バス停まで歩く。昨日のお昼は暖かかったが、朝は少し肌寒い。
バス停に着き、バスを待つ、他の乗客はいないようだ。恐らくここの村の人達が村の外に出ることは少ないのであろう。バス停に人が並んでいるのを見たことがなかった。
しばらくするとバスが来る。
私は乗り込み席に座る。川沿いを進むバスの座席で川を眺めて待つ。
40分ほど走り、病院前のバス停にて降りる。
「この病院かなぁ」
彩芽さんから聞いていた通り、東京の病院などと比べてしまうとかなり小さいが、山の中にある病院としてはそこそこ大きい、3階建ての病院だった。
駐車場に停まっている車は少ないが、開いているようだ。
私は、周りを見渡しながら、おそるおそる病院に入る。
一階ロビーは思っていたより広く、待合所や総合案内などがある。
私は少し歩き、2階へ上がるエスカレーターの手前で立ち止まる。
「ここは..。」
そこは見覚えのある景色。
夢の中で見たような人の多さはないが、そこは間違いなく夢で見た場所。
その時だった、私の頭の中で何かが猛烈に光る。
思い出した。私が小学校5年生の頃、私のお母さんは入院した。私が大好きだった優しいお母さん。お母さんに会いに来るため、小学校5年生、6年生と何度も通ったこの病院。その後は...。
思い出した記憶はそこまでだった。
私には母・父とこの村の今は無いあの家で育った。
父は仕事に忙しくあまり構ってもらえなかったが、その分、母は私にたくさんの愛情をくれていた。
私は病院を出て周りを囲う山々を見ながら一呼吸する。
全てを思い出したわけでは無いが、私は私の過去をある程度思い出し、納得した。
私は家族に愛されこの村で生まれ育ち、友達も多くいた。そして母は病気になった。
中学校では学校にあまり行ってなかったようだが、おそらく母親の病気による精神的な理由だろう。
そして母の死、記憶喪失へと繋がる。
父親はどうなったのか。少し気になったが、母の言葉を聞く限り、おそらく中学校の頃に離婚か何かをしたのだろうと思った。
彗花は何故か怪訝な表情でこちらを見つめていた。
私はバスに乗って宿に戻ると彩芽さんが迎えてくれた。
「お疲れさま。大丈夫だった?」
「はい。無事に辿り着けました、ありがとうございました。」
「じゃあ女将呼んでくるから部屋で待ってて。」
「はい。」
私は部屋に戻り、彗花の世話をして、女将さんがくるのを待った。
少しすると女将さんがやってくる。
「こんにちは。吉永 玲花さんね?」
女将さんは私に優しく微笑みかけるとお辞儀をした。
「こんにちは。今は久保田 玲花と言います。
この村で育った私や私の家族のことを聞きたいのですが..。」
「玲花さんは覚えてないかもしれないけど、わたしはあなたのこともよく覚えているわ。
小さい頃はよく彩芽と仲良くしてた。
あなたのお父さんとお母さんのことも昔から知っているわ。」
「そうなんですか?」
「ええ、年は違うけれど、2人ともここが地元だからね。」
「私の父と母ははどんな人だったんですか?」
「あなたのお母さんは昔から変わらず心優しい人だったわ。あなたの事を本当に可愛がってたわ。
お父さんはリーダーシップがあって頑張り屋で、仕事も地方まで行ったり忙しかったみたいね。
・・・でもそれもあってか、あなたが大きくなってきてからはあまりうまくいってなかったみたい。」
「母が病気になってからですか?」
「ええ、あなたが1人になっても、中々帰って来れないみたいでね。」
「それで..」
「私も一つ聞きたいんだけど、いいかしら?」
「..? はい。」
「さっき今は久保田と言ったけど、もしかして、今のあなたのお母さんは久保田芳恵さん?」
「...!?」
私はそれを聞いて驚いた。久保田芳恵は私の今の母の名前だったから。
「はい。そうです。」
「そうだったんだ。芳恵さんがあなたを引き取ったのね。」
「もしかして母もこの村の生まれなんですか?」
「ううん。芳恵さんはちがうわよ。」
「じゃあ何故母のことを..?」
「・・」
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