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1話 不思議な夢

 私は時々、不思議な夢を見る。

それは、私の知らないある場所で小さな女の子が話しかけてくる夢。


 夏の暑い日、目の前には川がある。その川は幅は広いが浅く、水は透き通っている。

川に沿うように住宅が並んでいる。

水のせせらぎ、鳥の声、風が心地よい。

私はなぜが動けない。

周りを見渡すのが精いっぱいだ。

そんな私に、女の子は話しかける。

「ちぃちゃんはどこにいったの?」

「ちいちゃん?ちいちゃんって誰?」

「ちいちゃんとお話ししたいなぁー」

話が通じているのかわからないが、女の子はいつもそんな話をしている。


 この夢は目が覚めても覚えている。だが不思議なことに女の子の顔は覚えていない、いや[認識できていない]という方が正しいだろうか。いつもこの夢から覚めると不思議な感覚に陥る。


これから話すは話は、私が失った記憶の欠片を集めていく物語。



 私の名前は久保田(クボタ) 玲花(レイカ)

都内に住む24歳のシングルマザー、この子の名前は彗花(ケイカ)。生後6か月の女の子だ。


 私はもともと千葉県にある実家で暮らしていたのだが、学生のころから両親とはなぜか距離感を感じており、安定した職に就いているわけでもないのに家を飛び出し東京都内の小さなワンルームに最近引っ越し、この子と二人、静かに暮らしている。


 19歳~22歳くらいのころは親に迷惑をかけ、夜遅くまで遊んだりしていたものだ。

この子はそんな中授かった子だったので、両親には怒られたりもしたものだが、私にとってはこの子が私の唯一の救いだった。

 両親も今では彗花のことを可愛がってくれている。結局は可愛くない孫なんていないんだろうと思う。


 両親とは距離感を感じると前記で話したが、両親だけでなく友達や親戚、私は誰に対しても自分とは違う世界に住んでいるかのような感覚に陥ることがある。

その理由は私の過去にある。


―私には14歳以前の記憶がないー


 母が言うには14歳の頃に交通事故にあい記憶を失ったそうだ。

確かに私が覚えている最初の記憶は病院のベッドの上だった。


知らない場所。知らないおばさんとおじさん。そもそも自分が誰かもわからないのだ。

唯一わかることは、ある程度の日本語の概念や常識的な感覚。

例えば、生まれたての赤ちゃんは、そこが「人間が作った病院という建物である」という概念もなく、目の前にいる助産師さんやお母さんは自分と同じ「人間」である。という概念もないはずだ。

ただそこに生まれた完全0の存在。


 でも私には記憶も知識もないが、なぜか病院で目が覚め、目の前には知らない人たちがいる、おそらく自分の関係者であろうということや、自分が異常な状態で存在していることは理解できた。


 そして、その後何年たっても記憶が戻ることはなかった。

だが私は、そこまで深く考えてはいなかった。記憶は戻らないが、私には家族がいて、帰る場所があった。それに高校にも通うことができ、比較的早く日常生活が送れるようになった。20歳~の頃は親に迷惑を掛けたりもしたが、少し遅めの反抗期程度のものだった。



そして子供が生まれ、半年が過ぎ、子育てにもずいぶんと慣れてきた。

そんなときだった。これまで気にしてこなかった私の過去について気になったのは。

それは、気持ち的な余裕ができたからだろうか。それともあの「夢」のせいだろうか..



 ある日私は、千葉から東京への一人暮らしを始めて、役所に転居届を出していなかったことを思い出し、彗花を抱っこ紐で抱え、役所まで来た。


住所変更の手続きを完了して、記念に転居前の住民票を取っておいたのだが、私はその住民票のある異変に気付く。


住民票には「住民となった年月日」の記載があるのだが、私の年月日だけ私が記憶をなくしたころの年月日が記載されていた。

両親は実家を購入した時だろう、それより何年も前から住民となっているのに…


私は両親に確認しようかとも思ったが、きっとその頃の私は施設に入院したりもしていたので、一時的に住所を移していたんだろうと考え、確認することはなかった。

本当は聞いてきたことが崩れてしまうのではないかという恐怖があり気にしないことにしたのだ。


だが、数日がたったある日、私はまた夢を見る。今日はいつもの川の前ではなく、私は実家にいる。

いつもの夢と同じように、私は動くことができない。

女の子はいつもと違い私の脇に引っ付きそわそわしながら周りを見ている。

「ここはどこ?」

「ここは私の実家だよ」

「知らない、れいちゃんここ知らない」

「れいちゃんって私のこと?」

自分の名前を呼ばれたのかと思い、私は驚いた。女の子に質問したが、返答はなかった。


いつもと似てるけど、いつもとは違う夢。

あの夢はどういうことなんだろうか。

私は目を覚まし起き上がると、住民票のことがやけに気になっていた。

だが、両親に直接聞くことには抵抗があった。

その為、私はもう一度役所に行くことにした。

役所につくと今日はいつもより混んでいる。番号札をとり、椅子に座って待つ。

彗花も今日は機嫌があまり良くない。

「けいちゃんごめんね。すぐ帰るからね~」


私の番号が呼ばれ、窓口に行く。

「すみません。住民票のことで伺いたいのですが。」

私は住民票を見せ、今の住所になる前の前歴を確認したい旨を話す。

少し不思議な顔をされたが、書面上どうなっているか知りたいということで理解をしてもらった。


「それでしたら[戸籍謄本]を取っていただければ確認できますよ。」

こせきとうほん..公的書類の知識のない私には聞きなれない書類だが、その書類を取れば住所歴を確認できるとのことだった。

申請書を書き取得を依頼する。少し席で待つよう促され椅子に座る。


今更になって心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

そして、それを感じ取る様に彗花もぐずる。

「大丈夫よけいか。大丈夫」

彗花と自分自身を落ち着かせるようにそう言い聞かせた。


少しすると番号を呼ばれ、書類を受け取る。

「戸籍謄本ですね。1通300円です。」

会計を済ませ、一旦椅子に座り、その書類をよく見る。

「岐阜県…」

私の出生戸籍は岐阜県となっていた。そして..

「817条の2..。裁判確定..。従前戸籍、母:吉永 千絵..」

私には817条というのも、この書類の記載のこともよくわからないが、これだけはすぐに理解した。

―私はお母さんとお父さんの本当の子供じゃなかったんだ―


携帯で817条の2というのを調べたが、どうやら「特別養子縁組」であることの条文らしい。

私は帰り道を歩きながら、頭の中を整理する。

意外と、両親が本当の親ではなかったことに対する悲しみや嫌悪感はなかった。

なぜならば、もともと私と父母は何となく距離感があると感じていたし、本当の親でなくても育ててもらった事実に変わりはない。


だが、そうすると私の過去に何があったのか。本当の両親はどこにいるのか。そんなことが気になっていた。

彗花は落ち着いており、静かにこちらを見つめている。

次回〉

・母への確認

・記憶を探す旅へ


読んでいただきありがとうございます。

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是非宜しくお願い致します。

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