ジャッジメントライトのボス、ザム・ブレークファート
とてつもなくとんでもないことを私とティノちゃんは聞いてしまった。ジャッジメントライトのボスの名前、そしてそいつが元ギルドの戦士であったこと。
「そいつ……ザム・ブレークファートがどうしてあんなことを始めたんですか?」
私がそう聞くと、ラゴンさんは再びため息を吐いた。
「わしにも分からん。あいつは修行を終えた後、連絡を取らんかったからの。ただ、予想できることがある」
「予想?」
「あいつはクソが付くほどの真面目じゃった。曲がったことが大嫌い。犯罪ももちろん、裏ギルドや汚職をする連中も殺すほど嫌いじゃった。クソ真面目で頑固。まぁ、テレビとか漫画とかで見る子供向け作品の典型的な性格じゃな」
「殺すほど……物騒ですね。でも、実際に殺してはいませんよね?」
「本当に殺してたんじゃよティノちゃん。各地からやりすぎだって声が上がったが、奴は全然気にしていなかったようじゃ。むしろ、自分の言うことやることに文句を言う奴を毛嫌いしていたじゃろう」
ラゴンさんはお茶を飲み、ザムのことを話し続けた。
「あいつは正義のために剣を学びに来たと言っていた。手にした力と才能をギルドや世の中のために使おうと考えていたんじゃろう。だが、この世の不条理な現実を知ってしまったんじゃろう」
「理想と現実が違うって理解したんですかね?」
「多分な」
ラゴンさんはあくびをし、私とティノちゃんにこう言った。
「もし、奴と戦うことになったら遠慮なくやってくれ。どんな事情があっても、悪に染まった奴は悪じゃ。わしのことは気にせず、スパってやってくれ」
「分かりました。絶対に奴の居場所を突き止めて、斬り倒します」
「頼むぞ。もし、終わったらまたここに来てくれ。エッチな服を用意して待っているから」
ラゴンのエロジジイがこう言った直後、私とティノちゃんはエロジジイに向かって同時にドロップキックを放った。
「最後の最後で何言うんですかあなたは!」
「着るわけないじゃない。用意していたら、斬りますね。服とあなたを」
「冗談じゃ冗談! とにもかくにも……二人とも、この三年間でかなり体つきがエッチになったのう。どうじゃ? 風呂に入って来い」
「お風呂に隠しカメラがあるんでしょ? 入るわけないじゃない」
「行きましょうエクスさん。こんなエロジジイに構うのは時間の無駄です」
「そうね。それじゃあラゴンさん、お世話になりました」
私はそう言って、ラゴンさんに頭を下げた。エロジジイだけど、お世話になったし、最後は礼儀よくしないとね。
「うむ。二人の活躍を願っているぞ。それとヴァーギン。再び会えて本当によかった」
ラゴンさんはそう言って、私たちを見送った。
その後、私は近くの村へ行き、情報を集めた。三年間の間でジャッジメントライトが弱体化したのは分かったけど、他の情報が分からない。
「ほう。ベトベムはかなり再興したのね」
「はい。私が戻った時にはすでに五割ほど戻っていました」
ティノちゃんは私にこう言った。ティノちゃんは魔力の勉強を学び直しするためにベトベムに戻ったのだ。それからはベトベムのギルドで活躍したと言っていたため、その目でベトベムが戻るのを目の当たりにしたと言うわけか。
「今、ベトベムはどんな感じになっているの?」
「テロ対策で防災機関がかなり強化されました。ジャッジメントライトが襲って来ても、前みたいなテロは起きないでしょう」
「そうね。二度あることは防がないと。そうだ。ギルドにいた裏切り者はどうなったの?」
私がこう聞くと、ティノちゃんは思い出しながら答えた。
「かなり処分されましたね。四割ほどのギルドの戦士が奴らの手にかかっていました」
「四割。結構多いわね。それで、ギルドはどうなっているの?」
「対ジャッジメントライトのための組織が作られました。私はエクスさんと合流するまではその組織に入っていました」
「ようやくギルドが重い腰を上げたと言うわけね」
「ジャッジメントライトに関してあれこれ言う邪魔者がいなくなりましたからね。今、ギルドは自由にやれています」
ティノちゃんは三年分の情報誌を持って来ながらこう答えた。この三年間で世界は大きく動いたようだ。いい方に動いたため、ジャッジメントライトを追い込むことができるだろう。そう思っていると、外から悲鳴が聞こえた。
「どうかしたのかしら?」
「行ってみましょう」
私とティノちゃんが外に出ると、三人の覆面の男が女性を人質に取り、何か叫んでいた。
「逃走用の車と金を用意しろ! 今すぐにだ!」
どうやら何かやらかして、逃げる用意をしているのか。私は近くにいたギルドの戦士に話しかけた。
「あいつら一体何者?」
「ジャッジメントライトの戦士だ! 我々が追いかけていたのだが、この村に逃げ込んで……え? あれ? あなたは……」
そのギルドの戦士は私の名前を言おうとしたので、私は静かにするようにとジェスチャーをした。私は持っていたモンスターの素材で作った剣を手にし、奴らに近付いた。
「おい、そこの女! これ以上近付くとこの女の命はないぞ!」
「それ以上暴れると、あんたらの腕と足はないわよ」
私が言葉を返すと、ジャッジメントライトの戦士は一瞬動揺した。だけど、すぐに私に向かって叫んだ。
「ふざけたことを言うなよ! 俺が手に持っている物が見えないのか?」
ジャッジメントライトの戦士はそう言って、手にしている包丁を人質の女性の首筋に近付けた。女性の悲鳴が周囲に響き渡る。危機的状況だが、この状況なら簡単に打破することができる。
「見えるわよ。安物の包丁」
「だったら俺たちの言うことを聞け!」
「雑魚の命令に従うつもりはないわよ」
そう言って、私は素早く包丁を持ったジャッジメントライトの戦士に近付き、剣を抜いた。
「え……いつの間に……」
そいつは動揺しているためか、自分の両手が斬り落とされていることに気付かなかった。
「さ、やってみなさいよ」
「やってみなさいよって……え? うわァァァァァ!」
ようやく自分の両手が斬り落とされたことを理解したようだ。私はそいつを蹴り倒し、残りの二人を睨んだ。
「さ、かかって来なさい。ハンデで、先に攻撃を仕掛けてもいいわよ」
「ふ……ふざけるな!」
「この女、俺たちが殺してやる!」
残りの二人は小さなナイフを取り出し、私に向かって走り出した。そんな小さなナイフで私を倒せると思っているのだろうか? 私は素早く剣を振り、そいつらの両手を斬り落とした。
「な……なァァァァァ!」
「そんな……バカな……」
斬られた二人は情けない声を上げながら、その場に倒れた。そんな時、人質だった女性が私を見て声を上げた。
「あ……あなたは……あなたはエクス・シルバハートさん! この三年間、姿を見せなかったけど、まさかここにいたとは……」
女性の言葉を聞き、周りにいた人たちは歓声を上げた。
「本当だ! 写真で見た時よりかなりたくましい感じになってるよ!」
「うわー、すげー美人だ」
「スタイルもいい。グラビアアイドルみたいだ」
「本物だ! すげー、写真持ってくればよかった」
私は笑いながら周りの人を見ていた。そんな中、ティノちゃんが現れた。
「何か大きな騒動になっていますね」
「おお! あそこにいるのは天才魔力使いのティノ・オーダラビトだ! 彼女もここにいたのか!」
「三年前、各地で活躍していたあの二人がここにいるぞ!」
「奇跡だ! 俺、運を使い果たしたかもしれない」
私とティノちゃんの存在に気付いた人たちが、大きな声で騒ぎ始めた。照れるけど、まぁ仕方ない。それに、三年ぶりにティノちゃんやラゴンさん以外の人に接するから、久しぶりに誰かと話したかったのよねー。
「どもー。エクス・シルバハートです。いろいろありましたが、また悪人を斬りまくるので、応援の方をよろしくお願いします」
私がそう言うと、周りの人たちは再び歓声の声を上げた。
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