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それぞれの修行


 私はラゴンのエロジジイに言われた通り、北に向かって歩いていた。最初に出くわした狼のようなモンスターにも襲われたが、他にも熊やありえないくらい大きな虫などにも襲われた。確かに、ここで生き抜くには力が必要だ。極限に近い状況でのサバイバル生活が、私を強くするのか。


 そう思えば、あのラゴンさんもこの物騒な森で住んでいる。あの人の強さがどれくらいか分からないが、ヴァーギンさんの師匠だからそれなりに強いと思う。だから、生き残ることができるのだろう。


 さて、小屋に着いた。確かにそれなりに見た目はよく、部屋の中も整っている。ここを拠点に生活すれば雨風はしのげることができる。それだけで十分。あとは、生きるために頑張ろう。




 エクスが修行用の小屋に向かって数時間が経過した。ティノは慌てながら周りをキョロキョロしていた。


「どーした? エクスのねーちゃんが心配か?」


「はい。もし、何かあったら私不安で」


「気持ちは分かる。じゃが、生きて戻ると信じて待つのも信頼の一つの形じゃ。ま、気長に戻って来るのを待つがいい」


 と言って、師匠はお茶を飲んだ。師匠はお茶を飲んで一服した後、再びティノの方を向いた。


「で、嬢ちゃんはどうするんじゃ? 強くなりたいのか?」


 ティノは師匠の問いに対し、少し間を開けて答えた。


「強くなりたいです。ですが、私にはエクスさんみたいな剣の技術は持っていませんし、体力的にも劣っています」


「確かにの。嬢ちゃんは剣士には向いていない」


「だから、得意とする魔力の技術を上げるために、もう一度ベトベムへ戻って、魔力の勉強をしようと思っています」


 そうか。ティノもティノなりに考えているようだ。ティノも魔力に関しては俺が出会って来た魔力使いの中でも、上位に入るほどの強さだ。もし、ティノが魔力に関して学び直しすれば、きっと大きな戦力になる。


「得意分野を伸ばすわけじゃな。自分でそう決めたのなら動きなさい。エクスのねーちゃんのことは安心しろ。わしがちゃんと見張っておるから」


「エッチなことをしたらすぐにあなたを倒しに行きますからね」


「真剣に修行するエクスのねーちゃんの邪魔はしないわ! ま、とりあえず自分で道を決めたのなら、それに従え。もし迷ったり、エクスのねーちゃんに会いたいならいつでも戻って来なさい」


「はい。では、エクスさんのことをよろしくお願いします」


「うむ。嬢ちゃんが自分で道を決めて強くなることを、わしの方から伝えておくから」


 師匠がそう言った後、ティノは再び頭を下げて出て行った。これでしばらく……いや、何年か師匠と二人きりか。まさかまた、師匠と過ごすことになるとは。まぁ、師匠は俺が剣になったことを知る由もないか。


「ヴァーギン。お前どーしてそんな姿になっとるんじゃ?」


 師匠が俺の方を向いてこう言った。嘘だろ? 師匠は俺に触っていない。だから、脳内で会話をすることができないはずなのに。


「何を思っているのか知らんが。とりあえず触るぞ」


 と言って、師匠は俺に触れた。今なら師匠にいろいろと話せるかもしれない。


(師匠。お久しぶりです)


「おわっ! 何じゃ、ヴァーギン! いきなり頭の中で話しかけるな! そーやらないと話ができないのか?」


(そうです。俺が話をできるのは、俺に触れた人だけです。脳内で話をするような感じになりますが)


「ジジイには難しいやり方じゃ。ま、ここにはお前とわししかいないし、口で話しても大丈夫じゃろ。お前にはわしの言葉が聞こえているよーだし」


(確かにそうですね)


 俺がそう言った後、師匠はお茶を飲んで深いため息を吐いた。


「わしゃー最初はビビったぞ。お前がド田舎の裏ギルドに殺されたってニュースを聞いたから。もう二度と会えないと思ったぞ」


(普通はそうですね。ですが、いろいろとあったんです。話しても信じてくれるか分かりませんが、あの世の女神様みたいな人が俺を剣として、再びこの世界に転生してくれたのです)


「信じるも何も、実際に死んだはずのお前とこーやって話ができる。信じるしかないじゃろーが」


 と言って、師匠は煎餅の袋を開け、一枚の煎餅を取り出して食べ始めた。


「で、あのエクスのねーちゃんとはどこで出会った?」


(俺が殺された田舎です。エクスはそこのギルドの剣士として働いていました)


「そーかいそーかい。田舎の娘がお前以上の才能を持っていたってわけか。世界は広いのー」


(始めてエクスと会った時、剣筋を見た時、俺も世界は広いと思いました。俺より才能のある剣士がいることを知って、少し興奮しました)


「確かにな。エクスのねーちゃんはお前より剣の才能がある。だから、強くなった後のエクスのねーちゃんを見るのが楽しみじゃ。きっと、とんでもない強さになるぞ」


 師匠は笑いながらこう言った。どうやら、師匠も強くなったエクスの姿を想像し、どれだけ強くなったかを見るのが楽しみの用だ。


「で、ジャッジメントライトの方はどうじゃ? エクスのねーちゃんとあの嬢ちゃんが暴れまわっているようじゃが」


(暴れた結果、幹部の一人が動きました。ですが、今のエクスでは勝てません)


「だったら、お前が生きていても勝てなかった可能性があったわけじゃ。ふーむ……わしもとんでもないバケモンを育ててしまったよーじゃのー。あんなことになるなんてな」


 とんでもないバケモン。俺はその言葉を聞き、師匠に弟子入りした時のことを思い出した。師匠は子供の頃の俺に向かって、こう言っていた。


 力の使い方は人それぞれだ。それを己のために使うか、他人のために使うか考えろ。だが、力を得て己のために使っても、世の中は思い通りに動くとは限らない。


 最初、俺はその言葉を聞いてあまりピンとこなかった。だが、成長していくうちに、俺はこの言葉の意味を少しだが理解した。たとえ強くなっても、世界を強さで回すことはできない。自分一人の力で、世の中を変えることはできない。きっと、師匠は過去に誰かを育てたが、酷く後悔するような出来事があったのだと俺は思った。だが、話をしても何も言ってくれなかった。


(師匠。そろそろ話してもらってもいいでしょうか? 過去に誰を育て、強くしたのかを)


 俺の言葉を聞き、師匠は動きを止めた。そしてしばらくしてため息を吐き、俺の方を向いた。


「今なら言えるか……分かった。過去に育てたバカ弟子の話をしよう」


 と言って、師匠は過去に育てたある弟子のことを話した。その話を聞き、俺は大きな衝撃を受けたような気持ちとなった。




 イテテ。初日でこれか……食事のために弱そうなイノシシを襲ったが、逆に返り討ちにされた。やはりこの森に住むモンスターは皆強く、感がいい。敵がすぐに襲い掛かって来たと把握したらすぐに戦闘準備になり、反撃する。その動きがとてつもなく早い。


「はぁ……これだけか」


 思わず私は声を漏らした。目の前にある皿代わりの木片の上には、一切れのイノシシの薄い肉があった。イノシシに反撃をしたのはいいけれど、結局取れたのはこの薄い肉だけだった。もう少しまともな武器があったら、確実に倒せるのに。イノシシと戦うために使った武器は、近くに落ちていた木の棒。そして、ナイフの形に似た石ころ。強敵と戦うには、武器が必要だ。それさえあれば、とりあえずどうにかなるだろう。


「明日また頑張ろう」


 私はそう言って自分を励まし、薄い肉を一口で食べた。


 翌朝は大変だった。自分の腹の音で目が覚めたのだ。空腹の状態で、私は武器を探しに森へ出かけた。モンスターの気配を察するため、私は常に魔力を解放して歩いていた。だけど、魔力を使ったらエネルギーが減る。カロリーが高い物を食べないと、すぐに魔力がなくなっちゃう。うーむ。やはりこの修行、精神的にも肉体的にもきついな。これさえ乗り越えれば、どうにかなるとは思うけど。


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