ヴァーギンの師匠
修行のために剣聖の森にきたのはいいけれど、この森に生息する狼たちに襲われた。しかも、こいつらは勘がいいのか、私の攻撃をよくかわす。これだけ頭のいい狼がいるなんて思いもしなかった。
「エクスさん、誰かが来ます!」
と、ティノちゃんがバリアを張りながらこう言った。一体誰? こんな状況で誰が来るってのよ!
そう思っている中、ティノちゃんが張っているバリアが音を立てて破裂した。それを見たティノちゃんは驚く顔をしており、私も嘘でしょと思いながらその場で立ち尽くしていた。そんな中、狼が私に向かって襲い掛かって来た。その寸前に私は我に戻り、力を込めて剣を横に振るった。だが、奴らは攻撃に勘づいて後ろに飛び上がって攻撃をかわした。
「クッ……強すぎる」
「何なんですか……こいつらの異常な強さは? 勘は鋭い、攻撃力は高い。ただの狼じゃありませんよ」
私とティノちゃんが苦戦していると、謎の魔力が近付いて来た。目の前に着地したのは七十ぐらいのおじいちゃん。そのおじいちゃんはあくびをしながら狼の前に歩いた。
「おい、可愛げのないわんこ共よ。レディーには優しくしろい。激しくするのはベッドの上だけで十分じゃ」
このおじいちゃん、最後の一言にとんでもないことを言い放った。だが、この時のおじいちゃんから感じる魔力に似たオーラを私は感じた。そのオーラを狼たちも感じ取ったのか、一目散に逃げて行った。
「ふぃー、ジャッジメントライトを斬りまくる女剣士で有名なエクス・シルバハートも、この森に住む狼相手には少し荷が重かったようじゃの」
このおじいちゃんは私のことを知っているようだ。見た感じ仙人みたいなおじいちゃんだけど、かなり強い魔力を感じる。このおじいちゃん、ただの人じゃない。
「助けてくれてありがとうございます。私がエクス・シルバハートです。あなたは一体何者ですか?」
「この森の主じゃよ。わしの名はラゴン。ま、こんな所で立ち話はしたくないから、わしの住処へご案内しよう」
そう言って、ラゴンさんは歩き出した。とりあえず、剣聖の森の主と言ったから、何かこの森に関して知っているのだろう。そう思いながら、私はラゴンさんの後を付いて行った。
ラゴンさんの家は小さな小屋だった。だが、煙突やトイレもあるようだし、それなりに生活基準は満たしているようだ。
「一人でこの森に住んでいるんですか?」
「まーの。森にはいろいろある。腹が減ったら狩りで肉を取り、寒くなったら獲物の皮で服を作り、のどの渇きには川から流れる水をろ過すれば大丈夫じゃ。さ、家におあがり」
と言って、ラゴンさんは私とティノちゃんを小屋に入れた。中を見て、私は驚いた。新築のようにピカピカだったからだ。森の中とはいえ、テレビや冷蔵庫、洗濯機も置いてあった。
「電機は通っているんですか?」
「わしは魔力を極めた。だから自家発電。金もかからないし、結構便利じゃよ」
ラゴンさんは笑いながらこう言った。その時、ティノちゃんが驚く声を上げた。私はティノちゃんに近付いた。ティノちゃんは、ある写真を見て驚いたようだ。
「これって、ヴァーギンさんですよね? 生前の姿、雑誌の写真で見たことがあります!」
写真立てを見て、私も驚きの声を上げた。そこには、ヴァーギンさんとラゴンさんの姿が映っていたからだ。驚く私とティノちゃんに近付き、ラゴンさんがこう言った。
「驚いたか? こー見えて、わしはあの英雄ヴァーギンを鍛えたジジイなのじゃ」
この言葉を聞き、私はラゴンさんがどれだけ強いか把握した。そんな中、ティノちゃんがあることを思い出したかのようにこう言った。
「今思い出したんですけど。昨日、どこにいましたか?」
何でこんなことを聞くんだろうと思ったけど、私も昨日のことを思い出した。あれは、お風呂に入っていた時のことだ。かすかに声が聞こえたが、忘れないように脳裏に焼き付けている。
「昨日? はて? 一体何のことか分からんのー」
「エクスさんの体はどうでしたか?」
「ええ乳じゃったのー」
ここでようやく理解した。昨日の覗きの犯人はこの人だってことを!
「いろいろと話をする前に、ボコボコにしてもいいでしょうか?」
「私も手を貸すわ。ティノちゃん」
私とティノちゃんは怒りのオーラを発しながら、エロジジイに近付いた。エロジジイは慌てもせず、後ろに下がっていた。
「露天風呂に入るからそうなると思うよ。わしは。ええ体の子を見たら、誰だって覗きたくなる」
「しょーもない言い訳をしないでください」
「大丈夫じゃよ。わし、ボインには興味あるけど、子供のようなペッタンコの胸を見て興奮しないから」
「一度あの世へ送ってあげますよ!」
ティノちゃんは怒りを爆発させながら叫んだ。
はぁ……相変わらず師匠は変わっていない。エクスとティノが覗かれたって言って叫んだ時、俺は師匠が原因だと把握した。あの人、若い美人が村に来たら必ず覗きに行っていたからな。スケベなのは変わりないか。バカは死んでも治らないと聞いたが、スケベも死んでも治らないのだろう。
「おいおい、ちょっと待ちたまえ! 君たちがここに来たのは修行のためじゃろ?」
師匠は慌てながら怒りで暴走する二人にこう言った。修行の言葉を聞き、二人は少しだけ我に戻った。
「確かにそうですが、その前に一発殴らせてください」
「勘弁してください! 謝ったから許してちょーだい!」
「許しません」
ティノは指を鳴らしながら師匠に近付いた。師匠はため息を吐きながら、二人にこう言った。
「とりあえず落ち着いて。出来ないならわしがやって差し上げよう。さて、ここかな?」
と言って、師匠は二人の胸を触った。この人、一度死なないとスケベ癖は治らないな。
数分後、二人の手によって半殺しにされた師匠は、正座をしながら二人に修行のことについて話をしていた。
「この森での修業は、生き抜くことじゃ」
「生き抜く?」
エクスがこう聞くと、師匠は頷いて言葉を続けた。
「そうじゃ。この世界を生き抜くには力が必要じゃ。力がなければ手に入れればいい。ならどうする? 鍛えるしかない」
「鍛えるってどうやって?」
「まぁ慌てるなエクスちゃん。またモミモミしちゃうよ~」
「今度やったらその両手を斬り落とします」
エクスが剣を抜いたため、師匠は慌てて土下座した。
「冗談言ってすんません。ま、修行の内容はわしが用意した小屋で生活することじゃ」
「え? それだけですか?」
ティノは目を開けて驚いた。確かに、修行と言えばかなり厳しい物を想像する。だが、師匠の修行は聞いただけでは簡単に思える。だが、実際にやればどれだけきついかよく分る。
「それだけじゃ。生き抜くことが修行になり、力を得ることができる」
師匠はそう言って、近くに置いてあったエロ本を読み始めた。まーたこの人はエロ本を通信販売で買って……しかも女子二人の前で堂々と読むとは。
「で、どうするの? やるの? やらないの?」
師匠の問いに対し、エクスはすぐに口を開いた。
「やります。あなたの修行を受けます」
「よろしい」
師匠はにやりと笑うと、読んでいたエロ本を閉じて床の上に置き、エクスに地図を渡した。
「この小屋から北に向かうと、小さい掘っ立て小屋がある。じゃが、わしが修行者のために掃除はしてある。風呂もトイレもあるからその辺は安心しろ」
「食事は?」
「自分で調達しろ。もちろん、わしは手を貸さんぞ」
「結構。あなたの言う修行がどんなのか分かりました」
「理解が早くて助かる。それと、武器は自分でどうにかしろ」
「武器は貸してくれないのですね。了解です」
エクスはいろいろと理解したようだ。師匠の言う生き抜く修行は、恐ろしく強いモンスターがいる中でのサバイバル生活。生きるためにモンスターと戦い、皮を剥ぎ、肉を食べる。俺もこの修行を長年経験し、強さを得た。エクスがこの修行を受け、どれだけ強くなるか少し楽しくなってきた。
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