剣聖の森
「修行ですか? また強くなるんですね」
私の話を聞いたティノちゃんは、そう言った後でお茶を飲んだ。私は噛んでいるステーキを飲み込み、話を続けた。
「そう。このままだと、またアソパに挑んでも返り討ちにされる。だから、ヴァーギンさんがもう一度修行し直す必要があるって言ったのよ」
「確かにそうですね。このままだと、私たちはジャッジメントライトを倒すことができないです」
どうやら、ティノちゃんの方も力不足を感じているようだ。ティノちゃんの援護を受けながら戦っている私だから分かる。ティノちゃんは元からそれなりの実力を持っている。だけど、ジャッジメントライトの戦士がストッパーブレイクを使った後のことを考えると、まだ力不足だと思っているのだろう。
「敵も新しい力を手にしています。私たちも強くならないと」
「そうね。より一層強くならないと、奴らを倒せないからね」
私は笑顔でこう言った。その後、食事を終えた私とティノちゃんは部屋に戻り、ヴァーギンさんと話をした。
(さて、話の続きをしよう。エクス。俺が生前お世話になっていた人の所へ向かってくれ)
(お世話になっていた? ヴァーギンさんの師匠か何かですか?)
(ああ。故郷を滅ぼされた後、各地をさまよっていた俺を救ってくれたんだ。その人は俺を保護し、俺の話を聞き、俺を鍛えてくれた)
(ヴァーギンさんの師匠……どんな人なんでしょう。厳しそう)
ティノちゃんは恐る恐るこう言った。確かに、ヴァーギンさんのように強い人を育てたのだから、かなり難しい性格の人なのだろう。もし、その人に修行を付けてもらうとしたら、覚悟しなければと私は思った。
(何か勘違いをしているようだが……俺の師匠、ラゴンさんは厳しくないが……かなりドスケベだ。あの人の家には、至る所にエロ本が散乱してある。多分、今もそうだろう)
その言葉を聞き、私とティノちゃんは口を開けて驚いた。厳しくない上にドスケベ? 本当にそんな人がヴァーギンさんの師匠なの?
(二人とも、かなり驚いているようだが本当だ。ドスケベで少々気の抜けた……と言うか、少しバカな人だ。だが、根はしっかりしているから信頼してくれ)
と、ヴァーギンさんがこう言った。うーん……まぁ、ヴァーギンさんがこう言うなら信じるとしよう。
翌日、私とティノちゃんはベトベムのギルドから旅立つことにした。ソセジさんやエンカにもう一度修行し直すことを伝えると、二人とも驚いていた。だが、すぐに今のままでは勝てないと察した。
「君たちが戻ってくるまで、私たちで踏ん張るよ」
「死ぬんじゃねーぞエクス。強くなって戻って来ても、俺はそれ以上に強くなってやるからな」
「はいはい。私もそれ以上に強くなるからね。それじゃあソセジさん、エンカ、私が表舞台からいない間のギルドと世界、お願いします」
私は頭を下げてこう言った。二人とも、私を見て頑張れと言った。その後、私とティノちゃんが旅立つことを知ったギルドの戦士たちや、重役たちがやって来た。
「エクスさん。ティノさん。あなた方がいなかったら、ベトベムは完全に崩壊していた」
「後は我々が、ベトベムを再興させます! 修行が終わったら、ベトベムへ来てください!」
「もう一度会える日を、楽しみに待っています!」
「ジャッジメントライトのことは、我々に任せてくれ!」
などと、ギルドの人たちが私とティノちゃんに向かってこう言った。
「分かりました! では、より一層強くなって戻ってきます! 何年経っても、必ず戻ってきます!」
「では、また会いましょう!」
私とティノちゃんはそう言って、ベトベムから去って行った。
剣聖の森はかなり遠くにあった。バスや電車、飛行機を使ってベトベムから四日ほどの時を使った。森の近くの村に到着したのはいいものの、森までは徒歩でしか向かうことができないと言われ、私とティノちゃんは大きなため息を吐いた。
「流石剣聖の森、向かうまでがきついわね」
「もう遅いですし、宿に泊まりましょう」
「そうね。明日、向かいましょう」
その後、私とティノちゃんは村の宿屋へ向かって一晩過ごすことにした。食事を終え、私とティノちゃんはお風呂に入った。
「ふぅ……まさか、温泉が湧き出ている宿屋だったなんて思わなかったわ~」
「ここまで来るのにシャワーしか使えなかったので、本当に生き返る気分です」
温泉に浸かり、私とティノちゃんはこれまでの旅の疲れを癒していた。本当に気持ちよかったのだけれど、突如視線を感じた。
「誰?」
私は小さな風の刃を発し、視線を感じた方向へ放った。
「うっひゃぁ!」
誰かの声がした! 声の質からして、声の主は男、それも、かなり年老いた男だ。
「キャアアアアア! 変態! 覗き魔! 犯罪者! 変態不審者!」
ティノちゃんは胸を隠しながら叫んだ。私も裸を見られないように湯船に浸かり、周りを見た。だが、すでに声の主はいなかった。
「はぁ……逃げたわね」
「一体誰なんですかね? 私たちの入浴を覗くなんて!」
と、ティノちゃんは怒りながらこう言った。私も内心ブチ切れている。もし、覗き魔を見つけたら四肢斬り落としてやる。
その後、私とティノちゃんはこのことを宿屋の主人に伝えた。話を聞いた主人は、ため息を吐いてこう言った。
「まぁ、よくあるんですよ。若い女性の入浴を覗く奴が」
「よくあるんですよ? 何でギルドに伝えないんですか!」
「無駄なんだよ。捕まえようとしても、逃げる。それに、ギルドじゃあ対処できないんだ」
「私もギルドの人間です! 覗き魔は必ず捕まえます!」
「だといいんだけどねぇ」
と言って、主人は戻って行った。何なのもう? 変態覗き野郎がいるのに、捕まえる気がないのかしら? 温泉はよかったけど、覗き魔のせいで何もかもぶち壊しだ!
少々トラブルがあったが、翌朝になった。私とティノちゃんは宿から出て、剣聖の森へ向かった。森の入口の所に目印があったため、すぐに場所が分かった。
「剣聖の森、一体どんな森なんですかね?」
「分からないわ。ま、とんでもなく強いモンスターがうじゃうじゃいるかもしれないわね」
私は看板を見ながらこう言った。剣聖の森の入口と伝えているが、危険だからあまり近寄るな、と書かれていた。そんな中、村人たちが私とティノちゃんを見て、恐る恐るこう言った。
「あんたら、剣聖の森へ向かうつもりかい? 止めた方がいい。昔は剣士の修行場所として使われていたが、今は変なじいさん一人しかいない。それ以外は、剣士の死体かモンスターしかいないよ」
「大丈夫です。どうにかなります」
私はそう言って、ティノちゃんと共に剣聖の森へ入った。
転生して、再びこの森に来るとは思いもしなかった。幼い頃、よくこの森の中を駆け回り、いろんなモンスターを相手に戦った。そして、師匠とも過ごした。懐かしい。
(エクス、ちゃんと周りを見るんだ。目印があるはずだ)
(目印?)
(木をよく見るんだ。黄色いマークがされているはずだ)
(黄色のマーク? あ、あれですね)
(あのマークをされている木を探して近付くんだ。それに、マークの下には数字がある。たどれるようにしてあるんだ)
(迷いやすい森なんですね)
(ああ。師匠が目印をしてくれなかったら、俺はこの森で死んでいただろう)
俺は笑いながらこう言ったが、ティノは恐怖で震えていた。確かにそうだな、この森には今まで戦った倍以上に強いモンスターがいる。今の二人がそれらを乗り越えればいいんだが。そう思っていると、大きな狼が二人を襲った。
「クッ! 奇襲のつもり?」
「あわわわわわ! 気配を感じなかった!」
ティノは慌ててバリアを張ったが、狼は無理矢理ティノのバリアを破壊した。
「そんな……かなり強い魔力で張ったバリアが……」
「ティノちゃん!」
エクスは前に出て、狼の足に向かって剣を振るった。だが、エクスの攻撃を察した狼は後ろに下がった。
「あいつら……強い……」
エクスは剣を構えてこう言った。そんな中、懐かしい魔力を俺は感じた。
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