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決着の一撃


 ロツモの弱点である腹に向かって、私は力を込めてヴァーギンさんを振り下ろした。この一撃で、奴の体はガスがしぼんだ風船のようになった。あの筋肉は魔力で作ったようだ。だが、攻撃を受けた奴はまだ体力と魔力を残している。けれども、弱点を抱えている以上、体力魔力が残っていても決着は見えている。


「うわぁぁぁぁぁん! 血が! 血が止まらないよォォォォォ!」


 奴は腹から流れる血を見て、子供みたいに泣き叫んでいる。この時の奴はかなり感情的で、私が視界に入ったら真っ先に攻撃を仕掛けるだろう。だけど、奴は傷を回復するということを考えない。


「さて、奴を倒すわよティノちゃん」


「了解しました」


 ティノちゃんは私の声を聞き、魔力を解放して水を発した。奴は泣き叫んでいて、ティノちゃんが魔力を使ったこと、水を発したことに気付いていない。


「この調子よティノちゃん。あいつ、全然水が出ていることに気付いていないわ」


「はい」


 ティノちゃんは集中し、奴の方を見て水を伸ばした。その時、水に触れた奴は不審そうな目で足元を見た。


「何だぁ? この水は?」


「今よティノちゃん!」


 私の声と同時に、ティノちゃんは水を凍らせた。奴は足元が濡れているため、そこから氷が奴の足元を侵食するまで時間がかからなかった。


「うわ! 体が……体が凍っちまう!」


 奴は急いで魔力を解放し、足元の氷を吹き飛ばした。だが、その隙に私が奴に接近し、ヴァーギンさんを振るった。


「来たな、エクス・シルバハート!」


 奴は私の接近を察し、私を睨んだ。


(エクス、奴の攻撃が来るぞ!)


 ヴァーギンさんの言葉を聞き、私は前を見て奴が剣を振り上げる光景を見た。このままヴァーギンさんで奴の両手を攻撃しても、奴の腕には斬撃が効かない。だが、奴の攻撃を邪魔することができる。私は魔力を解放し、風の刃を奴の左腕に向かって発した。放たれた風の刃は奴の左腕をかすり、そのまま遠くへ飛んで消えた。


「ううっ、また血が……あ……血だ。血だァァァァァ!」


 さっきの一撃で魔力を失ったせいか、奴の腕にもそれなりにダメージが通るようになった。だけど、斬り落とすまでのダメージは通らないだろう。また血が流れたことを奴は察し、恐怖か悲しみか何の感情か分からないけど、奴の体は震え始めた。だが、隙だらけの今なら奴の腹にもう一度攻撃するチャンスがある。それを狙おう!


「覚悟しなさい」


 私はそう言って、ヴァーギンさんを振り回し、奴の腹に何度も斬撃を放った。横一文字にできる深い切り傷を見た奴は、絶望的な表情を浮かべていた。


「嫌だァァァァァ! もう嫌だ、これ以上斬られたくない!」


 どうやら、腹に対しての攻撃に何かしらのトラウマを抱えているのだろう。どんなトラウマかはどうでもいい。ジャッジメントライトに所属し、偉い人の部下になるようなクズ野郎のトラウマなんて知ったことではない。


「あんたが拒んでも、私はあんたを斬りまくる!」


「嫌だァァァァァ!」


 私が斬撃を放ち続ける中、奴は左腕を大きく上げて私にビンタを放とうとした。だが、左腕にできた切り傷が広がり、風の影響で切り傷から流れる血が飛び、奴の右目に命中した。


「アガッ! ウガァァァァァ!」


「あんた、とことん運がないわね。悪いことをたくさんやったんじゃないの?」


 私はため息を吐きながら、もう一度奴の腹に攻撃を仕掛けた。この攻撃の後、奴の視界は元に戻ったのか、私の方を睨んだ。


「エクス……シルバハートォォォォォ! お前は絶対に許せない!」


 奴は私の攻撃の隙を狙い、火と風が発した右手の拳を放った。だが、この拳は私には届かなかった。足元から流れるティノちゃんが発した水から、刃のように鋭い氷が飛び上がり、奴の右腕を斬り落としたのだ。


「エクスさんには、手を出させません! そのためなら、あなたの腕を奪います!」


 後ろにいるティノちゃんが、震えながらこう言った。私はティノちゃんの方を見て、ありがとうと告げた。


「さて、あんたの攻撃はもうおしまいよ。なんちゃって筋肉野郎」


「う……う……クソ……」


 傷だらけのロツモは、私を睨んだ。だが、手負いの獣が睨んでも怖くはない。私はヴァーギンさんを手にし、奴に近付いた。


「これで終わりにするわ」


 と言って、私は魔力を解放し、奴の腹に向かって素早くヴァーギンさんを振り下ろした。攻撃を終えた後、奴の腹の切り口から血が流れた。


「クソ……たれ……」


 奴は小さな声でそう言うと、その場に倒れた。多少苦戦する相手だったけど、弱点を見つけられたからどうにかなった。もし、この戦いが長引けばやられるのは私たちだった。


「さて……とりあえずはどうにかなったわね」


 私は小声でそう呟き、ティノちゃんの元へ向かった。ティノちゃんはその場に座り、体を震わせていた。


「始めてやっちゃった……初めて人の腕を斬っちゃった……」


 どうやら、初めて人の腕を斬り落としたことで、自分を自分で攻めているようだ。私はティノちゃんに近付き、優しく抱きしめた。


「ティノちゃん。そこまで自分を責めなくてもいいのよ。あいつは悪い奴……だからといって、私みたいに手足をスパスパ斬るのはあまりよろしくないけど、あの状況での腕の切断は仕方なかった。ティノちゃんの助けがなかったら、私は死んでた」


「私は……私は……エクスさんみたいに……強くなりたいです……だけど……まだ……」


「ゆっくり強くなればいいのよ。私の場合は手っ取り早く強くなりすぎただけ。今回はあいつの腕を斬り落としちゃったけど、次はそれ以外の方法を考えればいいわ」


「でも……」


「誰も責めないわ。私だってティノちゃんを責めない。あいつは私たちを殺そうとしたのよ。過剰が付くかもしれないけど、防衛って形になるから。それに、あいつを放置したら、ベトベムの町が大変なことになっているわ」


 私はティノちゃんのおかげで助かったことを大きく誇張しながら励ましの言葉をティノちゃんに送った。その言葉を聞き、少しずつティノちゃんは元に戻って行った。


「ありがとうございます。少し、落ち着きました」


「うんうん。それでいい。さて、あのデカブツを治療して、ヘリの中に戻すわよ」


「はい」


 私たちは話を終え、ロツモの元へ向かおうとした。その時、別のヘリコプターの音が響いた。




 今度は何だ? またジャッジメントライトのヘリか? ロツモを倒したのだが、それと同格の奴が来るのか? 俺はそう思ったが、このヘリの中からとんでもなく強い魔力を感じた。


(エクス……ティノ……気を付けろ。この中に俺以上に強い奴がいる!)


 俺の言葉を聞き、二人ともヘリコプターの方を向いた。しばらくすると、そのヘリは俺たちの上に止まり、扉の中から誰かが出て来た。そいつは俺たちがいるヘリの上に着地すると、倒れているロツモの方を見た。


「がっかりだよ、ロツモ君。君がそこまでやられるなんて」


 この声を聞き、エクスとティノは目を開けて驚いた。目の前に現れた奴は、ジャッジメントライトの三幹部の一人、アソパだったからだ。


「あんたは……」


 エクスは俺を構え、アソパを睨んだ。アソパはエクスの声を聞き、エクスの方を向いたのだが、すぐにロツモの方に顔を戻した。


「君たちの相手は後でしてあげるよ。先にこっちの用を済まさないと」


 そう言って、アソパは倒れているロツモに近付いた。ロツモは近付くアソパを見て、怯えている様子だった。一体何が始まるんだ?


「君には期待していたんだけどね、こんな結果になるとは思わなかった。ベトベムの町は半壊だけ、ジャッジメントライトの空戦部隊はほぼ壊滅状態。そして、君はエクス・シルバハートに返り討ち」


「待ってくださいアソパさん! 私に、もう一度チャンスをください!」


 ロツモは泣きながら命乞いを始めた。だが、アソパはロツモの顔を掴み、そのまま奴の体を上げた。おいおい、こいつ一体何をするつもりだ!


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