住人たちを逃がせ!
住人たちの避難活動が行われる中、私は怪しい動きをする役員を見つけた。話をしていたのだが、そいつはあれこれ言って去って行った。私はティノちゃんに他の作業を任せた後、気配を消して奴の後を追いかけた。
奴が向かったのは人の気配が感じない建物の端の方。周囲には瓦礫が散乱としていて、身を隠すこともできる状況だ。耳を澄ませながら歩いていると、話声が聞こえた。
「はい。はい。そうです。奴らは我々が攻めて来ると判断し、対策を練っています。今、ギルドが主体となってベトベムの住人たちを避難させています。はい……はい。そうですか。分かりました。住人の避難を妨害で、何人か戦士が来るのですね。了解しました」
「何が了解しましたなのよ?」
私は剣を取り、そいつが持つ携帯電話を突き刺してこう言った。こいつ、やはりジャッジメントライトのスパイだったか! スパイは私の存在に気付き、ナイフを構えた。
「え……エクス・シルバハート! 貴様、どうして私の後ろに!」
「スパイのくせに人の気配に気付けないなんてマヌケなスパイね」
「クソッ! こうなったらやるしかない!」
スパイは私に向かってナイフを振り回した。こいつの攻撃の腕は素人。単純な攻撃はすぐに分かりやすい。私はこいつの攻撃をかわし、腹に蹴りを入れた。
「グアッフゥ!」
蹴られた奴は悲鳴を上げながら後ろに倒れた。すぐに立ち上がったが、私の顔を見て戦意を失い、情けない声を上げて逃げた。このまま逃げられると思わないでよね!
「え? うわァァァァァ!」
飛び上がった私を見て、奴は悲鳴を上げた。私は上から奴に接近し、抑え込むように着地した。
「はい終わり! 動いたら腕か足を切るわよ!」
「動いたらか……」
奴は苦しそうに笛を出し、大きな音を出した。まずい、これは何かの合図か?
「今のは何?」
「他のスパイへの合図さ。何かあったら連絡するために用意していたのさ!」
予想はしていたが、こんなに古典的な方法で合図をするとは思ってもいなかった。私は奴を急いで縛り、動けないようにした。
(笛の音はティノたちにも届いたはずだ。それで変な奴が動いたら、そいつがスパイだと理解するだろう)
(不安なのはスパイたちの実力です。さっきの役員もどきは弱かったですけど、他のスパイは強いかもしれません。ソセジさんやエンカが戦って勝てばいいんですが)
(そうだな。とにかく急ごう。もしかしたら戦いが始まっているかもしれん)
ヴァーギンさんに急かされるように言われ、私は急いでティノちゃんの元へ戻った。
ティノちゃんがいた場所に近付くと、そこから激しい魔力の衝突を感じた。
「ティノちゃん、ティノちゃん!」
「私はここです!」
と、瓦礫を吹き飛ばしながらティノちゃんが姿を見せた。派手な登場だけど、無事なら何でもいい。
「よかった。スパイの連中が暴れだしたのね」
「スパイと裏切り者です。大変ですよ、強い人がたくさんいます。私が火の玉を何度当てても復活するんですよ!」
「それはやばいわね。でも、私が来たから安心して」
私がティノちゃんにこう言っている中、後ろから何者かが襲い掛かって来た。私はすぐに後ろを振り向いて攻撃を防御し、反撃で蹴りを放った。
「シャオッ!」
奇襲してきた奴は変な奇声を上げながら後ろに下がった。両手には長い剣があり、それを使って攻撃をしたと思われる。
「お前がエクス・シルバハートか。噂通り素晴らしい剣の腕を持っているな」
「だからどうしたの? 奇襲が失敗したから頭がおかしくなったの?」
「そんなわけがないだろうが! 私はゲムート。お前を殺す男の名を覚えておけ!」
「変な名前ね。覚える価値はないわね」
私はそう言って変な名前の奴の前に急接近し、素早く両手を斬り落とした。
「え? あれ? そんな……」
「隙ありすぎよバーカ」
私はそう言ってそいつを蹴り倒した。周りを見ると、ギルドの戦士たちが驚いた表情をしていた。裏切り者の存在は知っていても、まさかと思う人物がギルドを裏切ったのだろう。付き合いがあるなら、上手く戦えない。
「私がやります」
「なっ……あ……ああ……」
近くにいたギルドの戦士は、動揺しながらも私の言葉に返事をした。私は目の前にいる裏切り者を切り倒し、続けて襲って来た裏切り者も反撃で倒した。
「ぐ……クソ……」
「エクス・シルバハート、お前には情と言うものがないのか?」
「私に向かって武器を振り下ろした奴に情はないわ。大人しく倒れていなさい」
私は冷たい目を向けながらこう言った。そんな中、ギルドの戦士の悲鳴が聞こえた。
「誰かが町の中に入って来たぞー!」
「侵入者を倒せ! 避難活動の邪魔をさせるな!」
誰かが町の中に入って来たのだろう。私がティノちゃんの方を向くと、ティノちゃんは次に何をするのか理解しているようで、私を見て頷いた。
「行くわよティノちゃん!」
「はい!」
その後、私とティノちゃんは侵入者を倒しに向かった。
ベトベムは最新技術を使った侵入者対策の門や、警備施設がある。だが、今はそれらが機能していない。ベトベムのギルドが攻撃された時に機能が停止したのか。今の状況が一番まずい。このタイミングで強い奴が来たら、被害が出る!
俺はエクスやティノに侵入者を早く倒すように伝えようとしたが、その前に二人は侵入者らしき二人を見つけた。
「あ、見つけたよ。エクス・シルバハートだ」
「見つけたね。あいつがエクス・シルバハートだ」
変な二人だ。似たような顔と体形をしている。双子か?
「やろうぜ兄弟。エクス・シルバハートをぶっ殺すぞ」
「オーケー。あいつをぶっ殺そうぜ兄弟」
二人はそう言うと、同時にジグザグ走り出した。
「あわわわわわ! これじゃあ狙いが定まりません!」
火の玉を使って攻撃をしようとしていたのか、ティノが慌てながら叫んだ。確かにジグザグ走りだと狙いが定まらない。だが、エクスはすでに敵の動きを察していた。
「ティノちゃん。敵が変な動きをした時はまず周りを見て。何がある?」
「瓦礫ばかりです」
「そうね。瓦礫ばかり。倒れているギルドの戦士はいないでしょ?」
「そうですが、一対何を考えているんですか?」
「敵が狙いを乱す走り方をしているなら、こっちは広範囲の攻撃を出せばいい」
「広範囲……あ!」
エクスとの会話で、ティノはジグザグ走りの対処法を察したようだ。ティノは魔力を解放し、エクスと共に上空へ飛んだ。
「あ、逃げたよ兄弟」
「逃げたな兄弟。追いかけよう」
「そうだね。僕たちも上へ飛んで追いかけよう」
双子は上に飛んだエクスとティノに向かって高く飛び上がった。バカな奴らだ。ティノの力を甘く見ている!
「これでも喰らいなさい!」
ティノは強い魔力を解放し、巨大な火の玉を発した。それを見た双子は目を開けて驚いたような表情をした。
「やばいよ兄弟! これは避けられないよ!」
「避けられない? 動けるはずだよ」
「今僕たちは浮かんでいるんだよ? 魔力で空を浮かぶ特訓をしていないよ」
「そうだな。俺たちはそんな訓練をしていないな。あ、それじゃあ……」
「僕たち、丸焼けになるしかないね」
「そうだね」
双子が負けを察したかのような話をした後、ティノが発した巨大な火の玉が双子を包み込み、地面へ落ちて行った。爆発が起き、煙が発した。黒焦げになった地面には、倒れた双子の姿があった。エクスとティノは地面に着地し、双子が完全に倒れたかどうかの確認を行った。俺もこの様子を見ていたが、この双子は確実に気を失っていた。
「何とかやりました。でも、この人たち強かったんでしょうか?」
「さぁ? でも、二人でここに攻め込んで来るから、それなりに実力はあったんじゃない?」
と、二人は倒れた双子を見てこんな会話をしていた。
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