立ち止まるわけにはいかない
モイサマツは自分が倒されることを察していたのだろう。奴は自分を巻き込む形でデリートボンバーを作動した。そのせいで、ベトベムのギルドが半壊した。建物は崩壊し、周囲には爆発に巻き込まれた人々が倒れ、うめき声を上げている。ティノちゃんは急いで倒れた人の治癒活動を行っているが、時折悔しそうな顔をする。助けられなかった人もいるのだろう。私は残骸の下敷きになった人を助けるため、残骸を斬りまくって動けるスペースを作っていた。
「あ……ありがとうございます」
「お礼を言うよりも、先に手当てを受けて。傷が酷いわ」
「今すぐ担架で運ぶからな!」
ギルドの戦士が、私が助けた人を担架で運んで行った。その人は、何度も何度も私にお礼を言っていた。そんな中、重役の人が私に近付いた。
「これから緊急会議を行う。エクスさん、出れるようであれば、出てもらえませんか?」
「私が会議に出ても役には立ちません。こうして人を助けることが私の役目だと思います」
今、会議を行っている場合ではない。私はそう思ったが、重役の人は咳ばらいをしてこう言った。
「奴らに反撃をするための会議だ。やられっぱなしではギルドとして情けない」
「気持ちは分かります。ですが、さっき言った通り私が出ても飾りにしかなりません」
「それでもいい。それと、何回もジャッジメントライトの野望を食い止めた君の勘も聞きたいのだ。何か考えていることがあるのだろう?」
どうやら、この人は私があることを考えているのを察しているようだ。私は近くにいるエンカたちに仕事を任せた後、簡易的に作られた会議室へ向かった。
簡易的に作られた会議室の中には、五名ほどの重役がいた。まぁ、この小さなテントの中に大人数が入るわけがないか。
「では、これからのことについて話をしよう。エクスさん。今回のことについて何か考えていますか?」
いきなり私に話を振るのか。ちょっと驚いたけど、今考えていることを話そう。
「私の勘ですが、ギルドに攻撃を仕掛けた後、奴らは攻撃を再び仕掛けてくる可能性があります」
「そうだろう」
「奴らがいつ、どのタイミングで攻め込んで来るかは分かりません。ベトベムの人たちも今回の騒動を知っているはずです。まず、町の人たち、全員を避難させてください」
私がこう言うと、重役たちはざわめいた。
「全員避難だと時間がかかります」
「それならいいわ。ギルドが住人を見逃したって話が出回っても私は知らないわよ」
私は冷たい口調でこう言った。やれるやれないの話ではない。やる以外の選択肢はない。今回の騒動はニュースや雑誌などで大きく扱われるだろう。それで住人を助けることができなかったって話になったらギルドが滅茶苦茶叩かれる。奴らはそのことを考えて行動に移したのだろう。
「分かった。今すぐ避難勧告を出す」
「避難勧告じゃなくて、絶対に避難してって言いなさい。嫌でもこの町に残ろうとする人がいたら、無理矢理避難させて」
「分かりました。私の方から絶対避難の指示を出します」
これでいい。無茶苦茶だと思われるが、相手が無茶苦茶なことをやってくれたから、こっちもその気でやらないといけない。常識とか今はそんなことを考えている場合ではない。今考えるのは、どうやってあいつらを倒すかだけだ。
避難の話が終わった後、重役の一人が口を開いた。
「では、これからの対策をすぐに考えよう」
「そうだな。まず、今のギルドの状況をおさらいしよう」
「デリートボンバーのせいで、戦士も役員も多数が犠牲になった。いくら各地のギルドの腕利きが集まったとはいえ、この状況で攻められたらギルドは崩壊する」
「そうだ。このまま我らは滅びるしかないのか?」
「あいつらは確実にここに攻め込むから、迎え撃つだけよ」
私はお茶を飲んでこう言った。私の言葉を聞いた重役たちは、一斉に私の方を向いた。
「武器庫はどう? 被害はあった?」
「爆発によって武器が破壊されたが、まだ無事な物がある」
「ごっつい武器はある?」
「大砲やキャノン砲。ベトベムが攻められた時のために作られた巨大レーザーカノンがあります。それらに被害はありませんでした」
「レーザーカノンは驚いたけど、そこそこ武器が無事なら何とか迎え撃てるわね」
攻撃を受けても、それなりの戦力はある。私は一度外を見て、ギルドがどれだけ崩壊しているか把握した。
「瓦礫が多いわね。それを盾にして銃撃戦などはできるわね」
「確かに。だが、奴らは魔力を使って戦うかもしれんぞ」
「そうね。強いバリアを張られたら銃撃戦で負けるわね。だけど、瓦礫は盾にするだけじゃないわ」
「ん? なっ! 大きな瓦礫を相手の上に押し倒すのか!」
「その通り。それなら奴らの隙を突くこともできるわ」
私がそう言うと、重役もいろいろとアイデアが浮かんだのか、話を続けていた。会議が嫌いな私だが、今回ばかりはちゃんと話を聞かなければならない。ギルドのメンツを保つのも必要だが、今一番やりたいのはアソパを倒して情報を聞き出すこと。こんなことをするジャッジメントライトを許すわけにはいかない。
数時間後、やっと会議が終わった。重役たちは他のギルドの戦士たちを集め、会議で話し合ったことを伝えた。一部の戦士は瓦礫となったギルドの建物を使って戦うことを聞いて驚いていた。だが、相手を撃退できる可能性があると察して喜んでいた。そんな様子を見た重役は、戦士たちにこう言った。
「今するのは住人の避難! 私の方で連絡したから、すぐに動けるはずだ! 役員は全員避難の準備に取り掛かれ!」
重役がこう言った後、役員たちは一斉に動き出した。私はその様子を見て、住人の避難の方は大丈夫だろうと思い、ティノちゃんの元へ戻った。
「あ……エクスさん……」
「ティノちゃん! かなりやつれているわよ、大丈夫……じゃないわよね」
ティノちゃんの顔はやつれていた。治癒の魔力を長時間続けていたから、疲れたのだろう。私はティノちゃんを横にさせ、周りの人に何か食べ物と飲み物をお願いしますと叫んだ。
「あ……ありがとうございます……」
と言って、ティノちゃんは渡されたパンを食べ、牛乳を飲み始めた。数分経ったけど、まだティノちゃんは食事をしている。魔力の元はカロリーだと言われているし、相当エネルギーを使ったのだろう。
「ふぅ……少し気分がよくなりました」
息を吐きながらティノちゃんがこう言った。ふぅ。体調は元に戻ったみたい。安心した。私はティノちゃんに近付き、会議で話したことを伝えた。
「では、また近いうちに奴らがここに攻めてくるということですね」
「今回は大規模な戦いになると思うわ。ギルドを壊滅に追い込んだけど、奴らは徹底的にやるはず」
「危険な戦いになりますね。それよりも、裏切り者って誰か分かりました?」
「そこまでは分からない。調査もしたいけれど、バタバタしているから調査ができないわね」
私は腕組をしながら、うなり声を上げた。そんな中、不審な動きをする役員の姿があった。おかしいな、役員は住人の避難活動を行っているはずだけど。
「あなた。話を聞いていなかったの? 役員の人は住人の避難の作業のはずでしょ?」
私が声をかけて近付くと、その人は笑い声を上げながら答えた。
「いやー、すみません。ちょっとトイレに行きたくて……」
「さっきの爆発でほとんどのトイレがぶっ飛んだわ。仮設トイレはあっちよ」
「実は……仮設トイレはあまり使いたくなくて……」
「そっちにあったトイレはぶっ飛んだ」
私はため息を吐きながらこう言った。役員もため息を吐き、私にこう言った。
「臭いのは苦手なんですよ」
「私もよ。我慢して用を済ませなさい」
「だったら立って……」
「ふざけたことを言わないの。トイレに行きたいなら早くしなさい」
あれこれ言い返してくる役員に対し、私は苛立ちを募らせた。それと同時に、不信感も募らせた。こいつ、何か怪しいわね。
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