アソパの情報を得るために
数日後、私とティノちゃんはベトベムにいた。初めてベトベムに来た私は、目と口を開けて驚いていた。テレビでベトベムの様子を見たことはあるのだが、やはり生で見る方が感動は大きい。
「すごいわねー。ここのギルドも結構大きいんでしょ?」
「はい。ギルドの中央的存在なので、他のギルドと比べて規模も建物の大きさも倍以上違います」
ベトベムのエリート戦士は私にこう答えた。倍以上も違うのか。どれだけ違うのか私は気に鳴った。
(ここに来るのも久しぶりだな。よく、ベトベムのギルドに呼ばれて仕事をしていたな)
と、ヴァーギンさんが昔を思い出すかのようにこう言った。
(ヴァーギンさんは何度もここに来たんですか?)
(ああ。だが、最後にここに来たのは二年ちょっと前だ。あの時よりこの町は栄えている)
(人と同じように成長しているんですね、この町も)
私が言葉を返すと、エリート戦士たちは歩き出した。案内してくれるのだろう。私とティノちゃんは急いでその後を追いかけた。
数分後、大きなギルドの紋章が描かれた建物の前に私とティノちゃんはいた。これがベトベムのギルドの拠点。他の町のギルドと比べ、倍以上の大きさだ。それに、この中からとんでもなく強い魔力を感じる。
「身震いしていますね。この中から強い魔力を感じましたか?」
「ええ。とても強い人がたくさんいますね」
私がそう答えると、エリート戦士は微笑んで言葉を返した。
「実は、今日から各拠点のギルドの戦士たちが集まるんです。彼らにも、アソパの情報を伝えるために」
「そうなんですか」
この話を聞き、強い魔力を多数感じる理由に納得した。だが、この時私はあることを思った。ギルド内の裏切り者がこの情報を奴らに流すのではないかと。
少しの不安を胸に抱きながら、私たちはギルド内に入った。廊下を歩く中、私の顔を見たティノちゃんが小声で声をかけた。
「顔が引きつっていますよ。緊張しているんですか?」
「ただの会議に緊張はしないわ。実はね、裏切り者がこの会議のことを流したんじゃないかって考えてね」
返事を聞いたティノちゃんは驚きの声を上げようとしたのだが、私はティノちゃんの口を押えた。
「あまりそのことを口にしないで。どこかに裏切り者がいるかもしれないから」
「だとしたら大変ですよ」
「可能性の話。いないってことを信じたいけど」
「どうかしましたか?」
前を歩くエリート戦士が、私とティノちゃんの方を振り向いてこう聞いた。私とティノちゃんは大丈夫ですと伝えた後、会議室へ向かって歩き始めた。
しばらく長い廊下を歩いたが、ようやく会議室と書かれた扉が現れた。エリート戦士が扉を開けると、そこには無数のギルドの重役や戦士がいた。扉が開いた音を聞いたのか、その場にいた全員は私たちに注目していた。
「ようやく来たか。何かあったのかね?」
重役らしきおじいさんが声をかけてきた。エリート戦士は敬礼をし、こう答えた。
「いえ、特に何もありません! 少し迷っただけです!」
「そうか。このギルドは無駄に広いから、迷子になりやすいからのう」
おじいさんはそう言った後、私とティノちゃんに近付いてこう言った。
「話は聞いている。君たちの席もちゃんと用意したぞ」
「ありがとうございます」
私は頭を下げてこう言った。その後、案内された席に座った私とティノちゃんだったが、私は座った瞬間に眠気に襲われた。椅子はふかふか、机の高さも寝るのにちょうどいい高さだ。これじゃあ眠気に襲われてくださいって言っているようなものだ。
「え! エクスさん! しっかりしてください」
私が眠気に襲われたのを察したティノちゃんは、何が何でも私から眠気を追い払おうとした。だけど、眠いもんは眠い。そう思っていると、後ろから肩を叩かれた。
「久しぶりだね、エクスさん」
「ふぇ? あ、ソセジさん」
何と、私の後ろの席にソセジさんがいたのだ。ピアノタワーの騒動以来会っていないから、少し気にしていた。
「元気そうだね。君たちの活躍は聞いているよ」
「ありがとうございます。あれからそっちはどうですか?」
「まだピアノタワーの片付けをやっているよ。まぁ、少しは落ち着いているけどね」
私とソセジさんが話をしていると、横から腕を突かれた。
「会議に集中した方がいいぞ。いつ、アソパの情報が流れるか分からねーからな」
「あら。あんたもいたのね」
私の横にいたのはエンカだった。エンカは眠そうな顔で前を見ているが、エンカも私と同じように眠気に襲われているのだろう。
「眠くなりそうだったら机を軽く叩いて。力づくで起こすから」
「死にそうだから止めてくれよ」
エンカはあくびをしながらこう言った。
私たちが参加した後、会議は順調に進んでいった。どうやら、他のギルドも独自にジャッジメントライトを捕え、アソパの情報を聞き出しているようだ。あの動画が他のギルドにも出回っているのだろう。
その中で知ったのは、アソパはジャッジメントライト勧誘のため、世界中を旅しているとのこと。奴もギルドに追われている立場だから、裏でこそこそ活動している。
「我々が手にした情報はこれだけだ。他に、話を知っている者はいないか?」
会議の進行役がこう言ったが、誰も手を上げなかった。まだ誰もこれと言った情報を手にしていないのだろう。当たり前か、世界中を旅しているうえ、見つからないように行動しているのでは見つかる確率は低い。それに、見つけたとしても、奴はかなり強い。私でも倒せるかどうか分からないくらいだ。そんなことを思いながら会議を聞いていると、突如アラームが鳴り響き、壁に張り付いているランプが赤く光出した。
「侵入者か?」
「一体何の騒ぎだ!」
「ここがどこか知って騒ぎを起こすバカがいるのか?」
何かが起きたのは私でも把握できた。他の人と違って、私は冷静だ。私はすぐに装備を手にして外に飛び出た。
「まさか、ジャッジメントライトが侵入してきたんですかね?」
「そうかもしれないわね」
私とティノちゃんは話をしながら魔力の探知を始めた。感じる。一つだけ異様に強く動く魔力がある! 私は急いでその魔力を感じた場所へ向かい、剣を手にした。そこで見た光景は、雷を纏う男が装備しているかぎ爪のような物で、エリート戦士の腹を貫いていた光景だった。
「おや? また誰か来たようですねぇ」
男はそう言うと、かぎ爪に付着した血を舐めながら私の方を振り返った。明らかに私に対して敵意と殺意を向けている。私は剣を鞘から抜き、構えた。
「ジャッジメントライトの回し者? 侵入にしては、やり方が派手すぎない?」
「見つかっちゃったんだよ。このギルド、意外と抜け目がないよ。だけど、弱すぎる」
奴はそう言って私に襲い掛かって来た。私は奴の攻撃に対して剣を使って受け止め、近くの壁に激突させた。
「つつつ……酷いことをするじゃないか」
「黙りなさい殺人狂。今すぐその手の爪のような物体を斬り落としてやるわ」
「それは酷い。だけど……今は君のような化け物と戦っている暇はないんだよね!」
と言って、奴は魔力を解放して走り出した。あいつの足が速すぎる! 私の足じゃ奴に追いつけない! このままだと何かされると思ったが、突如奴の悲鳴が聞こえた。
「何かあったと思って飛び出したが、剣を持っていてよかった」
「油断するんじゃねーぞオッサン。あいつに致命傷を与えてねーんだから」
どうやら、私の後からソセジさんとエンカがやって来たようだ。奴は運悪く二人に遭遇し、斬られたわけか。私は奴に近付いて拘束しようとしたが、奴は魔力の雷を周囲に発した。
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