幹部を探しに
アチーナ暗殺を企てたのがジャッジメントライトの幹部、アソパと言う男だと知った。ジャッジメントライトの内部のことはあまり分からない。私としては、上のボスを倒せばいいと思っていた。だが、よくよく考えると奴らの本拠地がどこにあるか分からない。大きな組織だが、犯罪に手を染めている以上目立った場所に本拠地があるはずがない。多分、そこにボスはいるだろう。
本拠地がどこにあるかを知っているのは、ボスに近い幹部クラス。そのクラスの男が今回の暗殺未遂事件を考えたのであれば、そいつを捕まえていろいろと吐かせよう。しかし、アソパは他のジャッジメントライトの戦士と比べてかなり強いだろう。それだけはなんとなく分かる。私は戦士からアソパの動画のデータを貰い、自分の端末で動画が見られるかどうか調べていた。よし、動画は問題なく再生した。
(とりあえず情報は聞いた。これからどうするのかは部屋に戻って入念に話をしよう)
(そうですね。一度、戻りましょう)
ヴァーギンさんとの会話後、私は取調室の戦士にありがとうございましたと伝え、ティノちゃんと共に部屋に戻った。
私とティノちゃんは部屋に戻り、椅子の上に座った。
「幹部の人が今回の事件を企てたんですね」
と、ティノちゃんが口を開いた。
「自分たちにとって不利益な人物を消そうとしたんでしょう。まぁ、失敗に終わったけど……また、似たようなことをするかもしれないわね。ティノちゃん、コーヒーと紅茶、どっち飲む?」
「紅茶でお願いします」
「オッケー」
私はティノちゃんのために紅茶を淹れ、自分用のコーヒーを用意した。その後、飲み物を飲んで私は口を開いた。
「幹部がどこかの町でうろついているのは分かった。でも、どの町か分からないわね」
「ちょっと待ってくださいね。最新の携帯電話だと、カメラを通じてAIを使って場所とか分かるみたいです」
「便利になったわね。そんなことができるなんて思わなかったわ」
「だけど、悪いことにも使われそうですね。あっ、出ました」
ティノちゃんは私に携帯を見せた。そこには、ピッカロと言う名前の町の情報があった。情報を見る限り、そこそこ大きな町のようだ。
「そこに奴はいたのね」
「でも、この動画は一年前のものですね。今、この人がこの町にいるかどうか分からないですね」
「いなくても、こいつがこの町にいた時に何か知っている人がいるかもしれないわ」
私はコーヒーを一口飲み、ティノちゃんにこう言った。
「決めたわ。次はピッカロの町へ向かいましょう」
翌日、私とティノちゃんは旅立つ支度をしていた。ギルドの人たちは私とティノちゃんを見て、もう旅立つのかと声をかけていた。情報が見つかった以上、早く動かないといけないからね。
「今回の事件、君たちがいたから暗殺を防げたよ。ありがとう」
「この町で政治家が殺されたーなんて事件があったら、大変だったからね」
と、ギルドの戦士たちは私たちをねぎらう言葉をかけていた。そんな中、二本の木刀を持ったエンカが現れた。
「おい、もう一度俺と勝負しろ」
私は半ば呆れていたが、エンカは一本の木刀を私に投げてよこした。
「力の差を知ったと思うけど」
「それでも構わない」
どうやら、エンカの奴はどうしても私と再戦したいようだ。まぁ、時間までは余裕があるから少しだけ相手をするか。
その後、私たちはギルドにある訓練場に来ていた。エンカはすでに木刀を構えていて、戦う気を私に見せていた。
「ねぇ、ハンデは欲しい?」
「いらん」
「そう。後でほしいって言わないでよね!」
私は左手で木刀を持ってエンカに接近した。私の素早い攻撃をエンカは木刀で受け止めていた。最初に会った時のエンカは熱くなる性格で、それが太刀筋や剣の構え方にも出ていた。だけど、今は違う。今のエンカはかなり冷静だ。私の攻撃を確実に受け止めている。今回の事件でかなり成長したのだろう。
「攻撃はこれでおしまいか?」
「さぁ? 攻撃の手を相手は教えてくれないわよ」
私はわざと隙を作り、エンカの攻撃を誘った。私の予想通り、エンカは私に向かって木刀を突いた。私は木刀を下から振り上げ、エンカが持つ木刀を弾き飛ばした。
「これで終わったと思うなよ」
エンカは高く飛び上がり、弾き飛ばされた木刀を手にし、そのまま私に向かって攻撃を仕掛けた。私は後ろに下がって攻撃をかわしたが、エンカは着地してすぐに攻撃を始めた。
「おおっ! あいつ、いつの間にあんな攻撃ができるようになったんだ?」
「着地した時の隙をなくしたのか。すごいな、エンカの奴」
「あのエクスさんを相手に猛攻を仕掛けているぞ。もしかしたら、勝つかもしれないな」
と、戦いを見ているギルドの戦士がこう言っていた。だが、ティノちゃんだけは冷静にこの戦いを見ていた。と言うか、私が手加減をしていることを察しているだろう。
「おい、そろそろ本気を出したらどうだ?」
攻撃をしている中、エンカがこう言った。なーんだ。エンカも私が手を抜いていることを察したのか。
「手を抜いていることを察したのね」
「お前、右利きだろ。そんな奴が左手で木刀を持つのはおかしいだろ」
「確かにね。それじゃ、ちょっとだけ本気を出すわね」
私はエンカの攻撃の隙を見て木刀を右手に持ち替え、素早く木刀を振るった。木刀はエンカの脇腹に命中した。
「グッ……うう……」
攻撃を受けたエンカは苦しそうな声を上げ、その場で片膝をついた。私は木刀をエンカに返しつつ、言葉をかけた。
「会った時と比べて結構強くなったわね。このまま鍛えれば、もっと強くなるかもしれないわね」
「かもしれないじゃない。必ず強くなる……次に会った時、強くなった俺を見せて驚かせてやるよ」
「楽しみにしているわ」
苦しそうに立ち上がりながら強くなると言うエンカを見て、私は小さく笑ってこう言った。
エンカとの戦いの後、私とティノちゃんは旅立つ準備を終え、モツアルトのギルドから旅立った。
(短い期間だったが、得た収入は大きかったな)
(そうですね。幹部の存在を知ることができたのは、とても大きかったです)
ヴァーギンさんの言う通り、今回の事件で私たちはジャッジメントライトの幹部の存在を知った。それさえ分かれば、次のやることはすぐに決まる。そう思う中、一台の黒塗りの高級車が私たちの前に止まった。何だろうと思っていると、後部座席からアチーナさんが出て来た。
「アチーナさん! どうしてここに?」
ティノちゃんが驚きながらこう聞いた。アチーナさんは驚かせてしまったと言いたそうな表情で私たちに近付いた。
「命の恩人が旅立つと聞いたからね。あの後、まともにお礼を話せなかったから、しておきたくてね」
そうか。奴らのアジトから脱出する時、すでにアチーナさんはギルドのヘリで脱出していたんだっけ。そう思っていると、アチーナさんは丁寧に私とティノちゃんに向けて頭を下げた。
「君たちがいなかったら、私はこの世にいなかった。そして、ジャッジメントライトのアジトを潰すことができた。本当にありがとう」
「いえいえ、頭を上げてください。私たちは戦士として、人として当然のことをしただけです」
「確かにそうだが、命を救ってくれたことには変わりない。本当にありがとう」
そう言って、もう一度アチーナさんは頭を下げた。本当に私とティノちゃんに対して恩義を感じているのだろう。そう思う中、アチーナさんがこう言った。
「それで、君たちはこれからどこへ旅立つのかい?」
「はい。ピッカロへ向かいます。数年前、ジャッジメントライトの幹部がその町にいたという情報が入りましたので」
「ピッカロか。あの小さな町にギルドの幹部がいたのか」
「はい。一年の時が流れているので情報が入るかどうか分かりませんが、まぁ、情報を探らないと分かりません。行ってみる価値はあります」
「そうだな。君たちの旅路に幸があることを祈っているよ」
「ありがとうございます、アチーナさんもお元気で」
「うむ」
会話後、アチーナさんは再び車に乗り込み、去って行った。去り行くアチーナさんを見て、私はあの人を助けてよかったと思った。
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