アジト崩壊
雑魚の一人が転倒し、イーハツの体に当たった。その時、スイッチが押されるような音が聞こえた。嫌な予感がする。
「あ……あ……何しとんのじゃお前はァァァァァ!」
「ヒーン! すいましぇーん!」
転倒した雑魚は大きな声を上げて頭を下げた。この様子……もしかして。
「ねぇ、さっきのスイッチって自爆スイッチのような何かなの?」
「その通りだ……このアジトの壁にはデリートボンバーが隠されている。今のスイッチは、そのデリートボンバーを起動する自爆ボタンだ……」
「何でそんな物があるのよォォォォォ!」
私は叫びながら、ティノちゃんの手を引っ張って出口へ向かった。周りにいた雑魚たちも大急ぎで逃げ出したため、周辺は大変なことになった。
「おいコラ! 前を走るな!」
「イテェ! 俺の足を踏むなよ!」
「おわっ! あぶねぇ、転ぶところだった……」
「おい! 誰かが転んだぞ! 助けろ!」
「うわァァァァァ! 逃げろ、逃げるんだ!」
奴らは助かりたいばかりに、大急ぎで走っている。死ぬかもしれないって状況だから慌てるのが普通だけど。だが、予期せぬことが起きる可能性もあるため、常に冷静でいないと。そう思っていると、下の方から爆発音が聞こえた。
「うわァァァァァ! 下から爆発した!」
「イーハツさん、上から爆発するんじゃあなかったんですか!」
「分からん。設置した時に、間違えたかもしれぬ」
「何やってんだあんたはァァァァァ!」
雑魚共は一斉にイーハツに殴りかかった。苛立った私は魔力を解放し、口を開いた。
「うっさいわね! 周りでギャーギャー騒ぐの止めてよね!」
私の声を聞き、雑魚共は静かになった。
さて、この場で立ち止まって考える余裕はない。爆発音は上からも聞こえる。下と上から爆発しているようだが、上の階にはデリートボンバーを作る部屋があり、爆発の際にその部屋が巻き込まれたらとんでもないことになる。あっという間にこのアジトは崩壊するだろう。
「エクスさん。私にアイデアがあります」
と、ティノちゃんがこう言った。私はティノちゃんの口元までしゃがみ、ティノちゃんのアイデアを聞いた。
「窓を壊せば外に出られます。デリートボンバーが壁にあると言っていましたが、窓から飛び出せば何とか助かると思います」
「窓から飛び降りるのね。そんなシーンがある映画がちらほらあるけど、結構な高さがあるわよ」
「私の魔力で何とかします。まだ、魔力は十分に残っています」
「ティノちゃんを信じるわ」
私はティノちゃんを連れ、窓を探しに向かった。私たちが何かをすると察した雑魚共も、後ろからついてきた。
しばらく走っていると、窓を見つけた。大きさとしては人が二人分通り抜けできるほどの大きさだ。これなら脱出できる。
「じゃあこれを斬るわよ」
私は剣を持ち、窓を切り裂いた。斬られた扉は下へ落ちて行き、ガラスが飛び散る音がかすかに聞こえた。
「お……おい、ここから飛び降りるのか?」
「うっへぇ、すごい高さ……」
雑魚共は外を見て、ビビりながらこう言った。私は雑魚の方を見て、ため息を吐いてこう言った。
「じゃあこのアジトと一緒に爆発四散しなさい。私たちはここから出るから」
「エクス……シルバハートの……言う通りにしろ……死にたくなければ……こいつの言うことを聞くしかない……」
と、イーハツの奴が苦しそうにこう言った。雑魚共は意を決した顔をし、窓の近くに寄った。その時、上から大きな爆発音が響いた。
「うわぁ、きっとあの部屋がある階が爆発したんだ」
「早くしないと、死んじまう」
「一体どうするんだよ?」
デリートボンバーを作る部屋が爆発に巻き込まれたようだ。あの部屋には危険な薬があるため、爆発に巻き込まれてとんでもない威力の爆発を起こしただろう。このままじゃあやばいと思っていると、ティノちゃんは水の魔力を解放していた。
「皆さん、魔力でも何でもいいのでお尻を守ってくださいね!」
この言葉を聞き、雑魚共はキョトンとしたが、私はティノちゃんが何を考えているか
察した。氷で大きな滑り台を作るのね。
「では行きます! 後ろからついて来てください!」
ティノちゃんはそう言うと、水で滑り台を作った。だが、その滑り台は途中で途切れていた。
「私が前を滑りながら滑り台を作ります! 落ちないように何とかしてください!」
「分かったわ! それじゃあティノちゃん、お願いね!」
ティノちゃんが滑り出した後、私はその後に続いて滑り台を滑った。しばらくして、後ろから雑魚共の悲鳴が聞こえたので、奴らもこの滑り台に乗ったのだろう。
滑り台で脱出。ティノもよく考えたものだ。ピアノタワーで見た防災用具を見て考えたのだろう。そして、途中で滑り台が途切れているのは、全部作るのに時間がかかるから。だから、滑りながら滑り台を作ると言ったのだろう。
「いやっほー! まるでジェットコースターだ!」
(エクス、今はこの状況を楽しんでいる場合じゃないぞ)
(あ。そうだった。ついはしゃいでしまいました)
エクスはこの危険な状況を楽しんでいる。修行前のエクスだったら泣きべそをかきながら悲鳴を上げているだろう。成長したものだ。
「くっ……うっ……」
ティノが苦しそうな声を上げている。魔力の限界か? それもそうだ。ヘリの中でアチーナを守るために長時間バリアを張り、アジトに入っていろいろと魔力を使った。まずいことになってきた。
(エクス、魔力は残っているか?)
(多少は残っています。ティノちゃんに魔力を注ぐんですね)
(その通りだ。このままだと途中で滑り台が消え、真っ逆さまに落ちるぞ)
(そうですね。それじゃ……)
エクスはティノの肩に触った。触られた時、ティノは驚いた表情をしながらエクスの方を振り返ったが、エクスの笑みを見て安心した。
「ティノちゃん、私の魔力も使って」
「ありがとうございます」
ティノの返事を聞いた後、エクスはティノに魔力を注いだ。ティノは目を開け、何か驚いたような表情をしていた。エクスの魔力の強さに驚いたのかだろう。
「すごい魔力……力強くて、温かい。エクスさんが私の中に入っているような感じがします」
「もうひと踏ん張りよティノちゃん」
「はい!」
ティノはエクスに笑顔を見せ、魔力を解放しながら再び氷の滑り台を作った。
数分後、エクスたちは何とか外に出ることができた。アジトにいたジャッジメントライトの戦士たちも何とか助かったようだが、一部の奴は尻を抑えていた。
「く……あ……」
「尻の感覚がない」
「床がコンクリだから冷たい。暖かい場所はないか?」
「誰でもいいから尻を温めてくれ!」
エクスは尻を抑えながら、ジャッジメントライトの戦士を見ていた。
「ティノちゃんに尻を守れって言われたのに」
「急いでいたから、用意できなかったんでしょう。お尻は冷たくなりましたけど、命があるからいいと思います」
「そうね。尻の冷たさなんて一瞬のこと。命を失ったら全部終わるからね」
エクスとティノが話をしていると、アジトが崩れる音が響いた。アジトにあったデリートボンバーが爆発したせいで、アジトが全体的にもろくなったのだろう。そして、ついにアジトは崩壊した。
「ああ……私たちの聖地が……」
「こんなことで崩壊するなんて……」
「私たちは終わりだ。この後どうなるか、目に見える」
ジャッジメントライトの戦士はこの後のことを考え、ため息を吐いていた。彼らはこの後、ギルドによって捕らえられるだろう。まぁ、悪事に手を貸したその代償だ。仕方ないだろう。
「さて、アジトは崩壊したし、ジャッジメントライトの連中も大量に捕まえた。あとは戻るだけね」
「はい。あ、エクスさん! あれを見てください!」
エクスはティノが指を指す方向を見て、喜びの声を上げた。ギルドのヘリがこっちに向かって飛んで来ているのが見えていた。どうやら、俺たちの戦いが終わるのを見計らって来てくれたのだろう。とりあえず、今回の騒動は終わったようだ。
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