命の取り合い
奴は足元を濡らし、水たまりを作った。そしてそこから氷柱を発して攻撃を仕掛けてきた。
(奴は水の魔力を使うのか。足元から攻撃を仕掛けてくるとは……)
(当たらなければどうということはありません)
私はヴァーギンさんにそう言うと、下からの魔力を感じながら奴の氷柱攻撃を回避した。
「な……何だと!」
奴はこの攻撃に相当な自信があったのだろう。私が攻撃をかわす所を見てかなり驚いていた。
「最高の攻撃だと思ったの? でも残念でした。あんた、攻撃を出した時に魔力を使っているでしょ? だから魔力を感じることができるのよ」
私はこの攻撃の短所を奴に告げた。弱点を教えても、魔力を使う以上どうしても多少の魔力を感じることができる。この技の短所をどうにかすることはできないだろう。
「ぐ……だが、まだ戦いは始まったばかりだ!」
「あまり長く戦いをやりたくないのよねー」
私はそう言いながら奴に接近し、ヴァーギンさんを振り下ろした。奴は私の接近に気付き、後ろに下がった。だが、下がるタイミングがずれたせいで、奴に浅い傷しかつけることができなかった。
「グッ……うう……」
「隙を見せたわね。隙があれば、盾で攻撃を防ぐこともできないようね」
私はにやりと笑ってこう言った。奴は傷を触り、そこから血が流れていることを把握したのか、体を震わせている。
「そんな……この私が一太刀浴びてしまっただと?」
「何ならもう一発斬撃をお見舞いしてあげるわよ」
動揺する奴に再び接近し、私は剣を振るった。奴は盾で私の攻撃を防御し、右手で持つ剣を私に向けた。
「私をこれ以上傷つけるな!」
「戦う以上、傷の一つは付くわよ」
私は上半身を後ろに反らして奴の攻撃をかわした。その時、奴は何かの異常に気付いたのか、表情が変わった。
「が……体が……」
奴の下半身を見ると、奴の足元が凍っていた。周りを見ると、魔力を解放したティノちゃんが私を見て微笑んだ。隙を作ってくれたのね!
「動けないようね。残念でした!」
私は力を込めてヴァーギンさんを振り下ろした。この一撃で奴の体に深い傷を与えることができた。攻撃を受けた奴は悲鳴を上げながら、上空へ吹き飛んだ。
「まだ終わりじゃないわよ」
私は奴に向かって飛び上がり、再びヴァーギンさんを振り下ろした。この斬撃を受けた奴は床に向かって吹き飛び、そのまま床を突き抜けて下へ行ってしまった。
「あちゃー、やりすぎたか」
私は床に着地し、ティノちゃんの元へ駆け寄った。
「結構下に落ちましたね、あの人。生きているんですかね?」
「うーん、生きているにしても半分死んでると思うわ」
私がこう言うと、下から奴の魔力を感じた。どうやらあの傷を受けてもまだ戦うつもりらしい。私はため息を吐きつつ、ティノちゃんにこう言った。
「私はここから降りて、直接奴の元へ向かうわ。ティノちゃん、危険だったら階段を使って下に降りて」
「分かりました。流石にエクスさんみたいに飛び降りて移動する勇気はありませんので」
そう言って、ティノちゃんは階段の方へ向かって走って行った。私は魔力を解放し、開いた穴から飛び降りて奴の元へ向かった。
二回続けて強烈な攻撃を受けたから、それなりに奴は傷付いただろう。私はそう思って下に移動し、到着した。落下時、デリートボンバーを作る部屋を通り過ぎたから、あの階より下に落ちたってことは確定した。
「ここで終わりか」
到着した後、私は周囲を見回した。床の残骸が周囲に散らばり、落下時に残骸が命中したせいで周囲の手すりや床も壊れている。ここで戦うとしたら、安全な場所を探さないといけないな。そう思っていると、床の残骸の中から傷まみれの奴が立ち上がった。
「ヒュー……ヒュー……え……エクス……シルバハート……この私を……ここまで……傷つけるとは……」
「酷い傷ね。血塗れじゃない。戦うのを止めた方がいいと思うけど」
私はこう言ったが、奴は歯を食いしばりながら、私の方を睨んだ。この状態でまだ戦うのか。傷が開いて死んじゃうのに。
「戦いは……まだ……終わっていないぞ!」
奴は叫び声を上げながら、魔力を解放した。治癒されると思ったが、今の奴は私を殺すことしか頭にないようだ。治癒より攻撃を優先したのか、奴の背後から大きなスライムのような物体が現れた。
「私の必殺技だ! ゼリークラッシュ!」
必殺技の名前を叫ぶ性格なのね。子供みたい。おっと、そんなことを思っている場合じゃない。奴はスライムを拳のような形にし、瞬時に凍らせた。あのまま私を殴るつもりか!
「死ねェェェェェ!」
飛んでくる拳を見て、私はヴァーギンさんを構えた。その時、脳内にヴァーギンさんの言葉が響いた。
(こいつは壊すよりもかわす方がいい! 考えてみろ、あれを壊しても奴は破片を魔力で操り、エクスを攻撃するぞ!)
そうか。そうだね。あれは奴の魔力でできた物。粉々に壊してもその破片を操ることができる。一つの大きな物ならどうにかかわせるけど、細かい破片をどうにかするのは難しい。目にも見えない破片に襲われたら対処しようがない。
私は固まったスライムをかわし、魔力を解放して風の刃を奴に向けて放った。
「無駄だ!」
奴はスライムを操り、盾のような形にした。うーむ。あのスライムは盾にも使えるのか。水の魔力は凍らせたり、温度を上げてお湯にもできると聞いたが、まさかスライムのような物体にまで作れるとは思わなかった。
「エクス・シルバハート! まだ私の攻撃は終わっていないぞ!」
奴は大声を上げながら私に攻撃を仕掛けた。どうやらまだ奴の魔力はあるようだ。今度は無数の凍った拳が私に襲い掛かった。
「これはやばい!」
この攻撃は避けきれないと判断し、私はバリアを張って攻撃を耐えた。
「オラオラ! そんなバリアを張ってもいずれは壊されてしまうぞぉ!」
奴は笑いながら何度も私のバリアを殴った。奴の言う通り、バリアを張ってもいずれ壊されてしまう。奴から見たら悪あがきにしか見えないだろう。だが、バリアを張ったのは防御のためだけではない。奴の攻撃を見ることも目的の一つだ。素早い動きで動き回るスライムだが、隙は存在する。タイミングを計るためにバリアを張って、奴の攻撃を見ることにしたのだ。
「さっさと参ったと言え! そうすれば、命だけは助けてやるぞ!」
小悪党のようなことを言っている。降参するつもりなんてないのに。それにしてもバカな奴だ。私はこの攻撃を見切ることができたし、あることが分かった。魔力を使って攻撃するので、奴は自身の魔力が消耗したことに気付いていない。最初のころと比べて、攻撃速度が落ちている。
「これで終わりにしてやるぞ!」
奴は無数の氷の拳を一斉に放とうとしていた。その時、奴の攻撃の手が緩んだ。その瞬間に私はバリアを解いて魔力を解放し、猛スピードで奴に接近した。
「え?」
「残念。熱くなりすぎよあなた」
私はそう言って奴の左腕を斬り落とした。盾の重みのせいで、落下時に大きな音が響いた。その直後、奴の悲鳴が轟いた。
「これで終わりね。あっけない終わり方だったわね」
私はヴァーギンさんを鞘に納めて、奴にこう言った。だが、奴に私の言葉は届いていない。まだ痛みを感じて苦しんでいる。そんな中、階段の方からティノちゃんの姿が見えた。
「エクスさん! 戦いは終わったんですね!」
ティノちゃんは奴が左腕を抱えて苦しんでいる様子を見て、私が奴の左腕を斬り落としたと判断し、私に近付いた。
「とりあえず戦いは終わった。これで奴も動けないはずよ」
私は奴の苦しむ姿を見て、ティノちゃんにこう言った。痛みに慣れたのか、奴は静かになった。だが、妙だ。奴からまだ魔力を感じる。
「ふ……ふふふ……フフフフフフフフフフ」
突如、奴は笑い出した。何かをするつもりだ! そう思った私はティノちゃんの方を向いたのだが、奴のスライムの残骸が急に大きく動き出し、ティノちゃんを捕えてしまった!
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