それぞれの戦う理由
デリートボンバーの守り主、イアラーゴを倒した後、私はティノちゃんと共に今回のアチーナさん暗殺事件の黒幕の元へ向かった。恐らく、黒幕はこのアジトの頂上にいる。上から強い魔力を感じるからだ。
「アチーナさんの方は無事だし、私たちは安心して黒幕と戦いましょう」
「ええ。でもエクスさん、気を付けてくださいね。さっきの人との戦いはかなりきつく見えました」
「そう? やっぱりそう見えたか」
私はそう言いながら、少し照れた。強いと思っていたが、ヴァーギンさんの切れ味に頼ることになったからなー。まだまだ私は弱い。
「黒幕もさっきの人と同じか、それ以上に強いかもしれません。本当に、本当に気を付けてくださいね!」
と、ティノちゃんは念を押すように私にこう言った。ティノちゃんは本当に私のことを心配してくれているようだ。ギルドの戦士は私が圧倒的に強いからそんなことをしないけど、唯一私を人間扱いするのはティノちゃんだけだ。
「心配してくれてありがとう。いざとなったら逃げるわ」
「本当に逃げてくださいね」
そんな話をしていると、まだ闘志を失っていない雑魚共が私とティノちゃんの前に現れた。
「見つけたぞ! エクスとティノだ!」
「エクスは無理だから、ティノだけでも殺せ! あいつの魔力は強いと評判だ!」
「とにかく撃って撃って撃ちまくれ! あいつらを撃ち殺せ!」
奴らはティノちゃんに向かって銃口を向けた。私はすぐに雑魚共に近付き、奴らが持つアサルトライフルの銃口を斬り落とした。
「私の大事な相棒にそんなものを向けるんじゃないわよ。その首斬り落とすわよ?」
殺意と敵意をむき出しにし、奴らにこう言った。これ以上変な動きを見せると殺されると奴らは察したのか、情けない声を上げて逃げて行った。
「銃一つ失ってビビるんじゃあ、大したこともないわね」
「エクスさんが強すぎるんですよ。普通の戦士は、銃を向けられたら何もできませんって」
「ギルドで配布されている防弾チョッキなら、安物の銃の弾丸なら何発か耐えられるんだけどねー。ま、体しか守れないから、頭を狙われたらおしまいね」
ビビって逃げる雑魚を見ながら、私とティノちゃんはこんな会話をしていた。
デリートボンバーを作る部屋を壊滅させて、何度も階段を上った。まだゴールまでは遠かったようだ。
「結構高いわね、このアジト。ティノちゃん、体力はまだある?」
「あります。この旅で体が鍛えられたんでしょう」
「そうね。普通のギルドの戦いよりもハードだし」
私は笑いながら言葉を返した。そんな中、あることが気になった。
「ねぇ、どうして私の旅に同行しようと思ったの?」
どうしてティノちゃんが私の旅について行くのか、疑問に思っていた。エルラのように私のことを姉みたいに尊敬してくれるのは構わないけど、付いてきたら死ぬかもしれない危険な旅。普通の子ならビビッて同行しないはずだ。ティノちゃんは少し考えながら、口を開いた。
「エクスさんみたいに強くなりたいんです。私、戦士としてはまだまだ未熟です。エクスさんみたいに、自分から危険なことをすればエクスさんのように強くなれるって思って」
「強くなりたいのね。ギルドのため? 何のため?」
「誰かを守るためです。実は私、変な名前の裏ギルドに両親を殺されたんです。それからギルドに保護されて、両親の仇を取るために魔力の勉強をしていたんです。結果、私はその裏ギルドの壊滅に成功しました。戦ったのはエルラさんやツデクさんでしたが……自分で仇討ちをやって分かったんです。怒りを相手にぶつけても、相手を滅ぼすために強くなっても空しいだけって」
初めてティノちゃんが自分の過去を語った。まさか、両親を殺されたなんて過去があったとは思わなかった。
「だけど、ギルドの人が教えてくれたんです。仇討ちのために強くなって目的を果たしたのなら、その強さを誰かを守るために使ってくれと。その言葉を聞き、私は誰かのために戦おうと決心しました」
「いいことを言うわね、その人。私がいたギルドの野郎連中はアホばっかりだからそんな言葉、浮かびもしないのに」
「でも、その人はギルドの仕事で裏ギルドの戦士と相打ちで亡くなりました」
おっと、地雷を踏んだかもしれない。だが、ティノちゃんの顔は変わらなかった。
「その人は亡くなりましたが、その人が言った言葉はずっと心の中にあります。だから、私は守るために強くなりたいんです」
そう言って、ティノちゃんは旅に同行する理由、自分の過去を語ってくれた。私はティノちゃんに近付き、口を開いた。
「過去を語ってくれてありがとう。自分の過去を他の人に言うのはあまりないことよ。それだけ、私のことを信頼してくれているのね」
「ええ。こんな話をするのはエクスさんが初めてです」
「それじゃあ、私も自分の過去を話すわ。ま、歩きながら話しましょう」
と言って、私は歩きながら話を始めた。
私はファストの村で育ったのだが、実際どこで生まれたのか、どこの娘なのかは分からない。父親は不明。母親は生まれたばかりの私を抱きながら死んでいたと村の人が話をした。それから、私はファストの村の孤児施設で過ごした。そのことを話すと、ティノちゃんは目を丸くして驚いていた。
「孤児だったの……ですね」
「そう。母親は私を守ったのか、体中傷まみれだったの。そのせいで、着ている服からも身元が確認できなかったって。殺したのは多分モンスターの仕業らしいわ」
「お父さんの方はどうだったのですか?」
「うーん……それらしい話を聞いたことがあるわ。私を発見した当日、村の人が何かあったのだと察して村の近くの森を調べたの。そしたら、斬り刻まれて死んでいるモンスターの群れと、剣を構えたまま死んでいる若い剣士の男がいたって」
「それじゃあ、その人がエクスさんのお父さんでは……」
「多分そうだと思う。お父さんは自分を囮にして、お母さんと私を逃がしたんだと思う」
「でも、どうして森の中にいたんでしょう?」
「ピクニック用の道具があったから、多分森の中でピクニックでもしてたんだと思う。だけど、運悪くモンスターと遭遇した」
私は昔のことを思い出しながらこう語った。そんな中、私たちの前に扉が見えた。あそこからどす黒い何かを感じる。きっと、あの奥に黒幕がいるんだろう。
「ティノちゃん。覚悟はできてる?」
「もちろんです」
ティノちゃんの返事を聞いた後、私はヴァーギンさんを手にした。
(最初から本気を出すのか?)
(そのつもりです。扉を開けた瞬間、相手は何かをしてきます。これだけ強い魔力を感じるんです。きっと私たちが来るのを今か今かと待ちわびています)
(そのようだな。エクス、思う存分俺の力を使え)
(分かりました)
私はヴァーギンさんに言葉を返した後、扉のドアノブに手をかけた。ティノちゃんの方を向き、頷いて合図を送った。ティノちゃんは準備ができていると頷いていると察し、力を込めて扉を開いた。その瞬間、氷の刃が私たちに向かって飛んで来た。
「先手を取るつもりね!」
私はヴァーギンさんを振り回し、氷の刃を叩き落とした。ティノちゃんは周りに炎のオーラを発し、氷の刃を溶かした。
「おやおや。先手を打とうと動いたのだが、私が動くことを感じていたようだね」
と、部屋の奥から拍手の音が聞こえた。前を見ると、四十手前のおっさんがいた。おっさんは私たちを見て、笑顔で拍手をしていた。
「何なのそれ? 褒めてるつもり?」
「そのつもりだよ。この攻撃を感じ取るのは君たちが初めてだよ」
「強い魔力を感じたら、誰だって臨戦態勢に入るわよ」
「戦う支度ができていても、何が来るか予想できないだろう?」
おっさんは笑い声を出しながら、近くに置いてあった剣と盾を装備した。あれがおっさんの武器ね。
「話はこれで終わりにした方がいいだろう?」
「その通りね。あんたみたいなおっさんと話をする暇なんてこっちにはないんだから」
「酷いことを言うなよ。歳をとると、喋りだしたら止まらないんだよ」
「喉を上手く斬って声が出なくしてやるわよ」
「恐ろしいことを言う。話に聞いていた通り、君は私たちに敵意をむき出しにしているね。フッフッフ……面白い戦いになりそうだ」
おっさんはそう言うと、剣と盾を構えて私たちに近付いた。
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