安置を求めての戦い
敵がいる場所は危険だが、敵を倒せば安全となる。エクスの考えは一応分かる。地雷がある以上、この公園をむやみやたらと歩くわけにはいかない。敵は地雷の位置を知っていて、その場所へ移動しない。エクスはそのことを考えたのだ。そして、強敵が存在しているということも。
エクスが戦っているレイピア使い、名前をバルンシと名乗っていた。奴の動きを見て分かったことがいくつかある。奴は戦いの経験をエクス以上に積んでおり、レイピアの扱いを得意としている。そして、火の魔力を使う。
「こちらから参りますよ!」
バルンシは火を纏ったレイピアをエクスに向けて何度も突いた。エクスは攻撃をかわしつつ、後ろに下がった。
(エクス、奴の動きを見切ることができるか?)
(やってます。こいつ、隙を作らないように攻撃をしています)
エクスはそれなりに苦戦しているようだ。下がっているのも何か策があるのだろう。俺はそう思ったが、エクスは避けるばかりでそれ以外の行動を起こさない。まずい。エクスがここまで苦戦するとは思ってもいなかった。
「反撃をしないのですね。では、強烈な一撃であなたを葬りましょう」
バルンシはそう言って魔力を高めた。奴が持つレイピアから、激しい炎が発した。
「では、逝きなさい。あの世で私の仲間たちに謝罪しなさい」
この瞬間、奴はエクスを憎しみがこもった目で見ていた。仲間の仇討ちと言うわけか。だが、エクスはジャッジメントライトの戦士の腕や足を斬り落とすことはしたが、命を奪っていない。奴らを始末したのはギルドの戦士か、同じジャッジメントライトの戦士だろうに。その時、エクスの魔力を強く感じた。
「ざけんじゃないわよ。私はあんたらが憎くても命を奪わないわよ。命を奪っているのは、あんたらだァァァァァ!」
エクスは叫び声を上げながら足元を蹴った。剣ではなく蹴り? 俺は一瞬動揺したが、エクスの行動を理解するのは早かった。エクスの足元には少し大きめの石が落ちていたのだ。エクスはそれをボール代わりに蹴ってバルンシに攻撃を仕掛けたのだ。蹴られた石はバルンシの額に命中した。
「あだっ! 卑劣な手を使いますね」
「戦いに卑怯も何もないわよ!」
そう言って、エクスはレイピアに向かって剣を振るった。レイピアは柔らかく、折れることはなかった。だが、攻撃を受けた際にレイピアの刃はバルンシの額に命中した。レイピアの刃には激しい炎が発している。奴は自分の炎で自分を焼いてしまった。
「なっ! あっ、あっ、あっつァァァァァ!」
奴は急いでレイピアから発している炎を消し、傷の手当てを始めた。その隙を狙ったエクスは、バルンシに接近した。
「クッ! まさかこれほどまで卑劣な手段を使う女とは思わなかった!」
バルンシはエクスから逃げるため、高く飛び上がった。着地した場所は木箱の裏。バルンシは木箱をエクスの方に向かって蹴り飛ばした。蹴られた衝撃で、中にあった弾薬が飛び出した。
「もったいないわね。弾薬の値段知っているの?」
「フッ、私もそこまでバカではないさ」
奴は小さく笑ってエクスの言葉に返事をした。そして、奴は火の魔力を発してエクスの足元に散らばる弾薬に向かってレイピアの刃を向けた。
「これが狙いだったのですよ」
奴の狙い。弾薬を爆発させてエクスを倒すつもりだったのか。だが、エクスも笑っていた。
「あんたも卑劣な手段を使うって予想していたわ」
エクスはそう言って、魔力を解放した。強風が発した。そうだ、エクスの魔力は風。なら、この強風はエクスが発したのか。どうして強風を……まさか。
「ウッ! 風を発して何になる?」
「ま、見てなさいな」
エクスは勝利を確信したような笑みでバルンシにこう言った。その笑みを見たバルンシは苛立ちを見せたが、足元を見て表情を変えた。
「だ……弾薬が私の元へ……」
奴の足元にはエクスの元へ転がったはずの弾薬があった。エクスが風を発したのは弾薬を転がすため。そして、もう一つある。
(エクス、この短時間でよく考えたな)
(アドリブですよ。ま、ここまで動いたのは運がよかっただけです)
エクスは笑顔で俺にこう言った。しばらくして、離れた場所で発していた火から、小さな火種が奴の足元にある弾丸に付着した。それがきっかけで、奴の足元にあった弾薬が爆発を始めた。
汚い花火だ。落下した弾薬を爆発させて私を攻撃しようと奴は考えたが、私はそれを逆に利用した。運がよかった。弾薬が私の方へ転がったこと、奴が勝利を確信して大きな隙を出したこと、奴が攻撃の際に使った火がまだ燃え続けていたこと。そして、奴は私が使う魔力を知らなかったこと。それら偶然が重なりに重なり、今の結果になった。心配したティノちゃんたちが私に近付き、様子を見た。
「あの人、派手に燃えていますけど……大丈夫ですかね?」
「あれは大丈夫じゃないだろ。生きていても、大きな火傷でこの先大変だ」
「うわー、弾薬一つでああなるのか。今後、弾の扱いには気を付けないと」
ティノちゃんたちは火だるまになっているバルンシのことを心配しているようだ。だが、奴からまだ魔力を感じる。火だるまになってもまだ戦うつもりだ。
「ねぇ、まだやるの? 火だるまになった状態で戦えるとは思えないけど」
私がこう言うと、火の中から奴が現れた。衣服は燃えて灰になったが、奴は無事だった。
「まだやるさ。たとえ全裸になろうが腕か足が斬られようが、私は命ある限り戦うさ」
「無茶苦茶言うね。ここではっきりと言ってやるわ。無理なもんは無理よ」
私は素早く奴に近付き、右腕と右足を斬り落とした。斬られた瞬間、奴は情けない悲鳴を上げた。
「やっぱり。無理だったわね。この状態で強がるんじゃないわよオッサン」
「グハッ……ぐ……ううう……」
倒れた奴は私の方を睨んだが、半裸の状態で、片腕片足を失った状態で戦えるわけがない。大人しく負けを認めてほしいな。私はそう思いながら、奴の腹に拳を沈めた。奴は小さな声で悲鳴を上げ、気を失った。
「さて、ここで騒動が収まるまで待ちたい……けど」
私は周囲を見回して、ジャッジメントライトの戦士に囲まれたことを察した。ティノちゃんやギルドの戦士は私より少し遅れてこの状況を察し、急いで武器を手にした。
「まさか、戻って来るなんて」
「逃げたと思ったのに」
「仲間を連れて戻って来たのよ。でも、雑魚が雑魚を引き連れて戻って来ても私に敵わないのは同じ……かもね」
私はそう言って、周りにいるジャッジメントライトの戦士共にこう言った。
「やる気がある奴だけかかって来なさい。斬られても文句は言わないでよね」
殺意のこもった目で私は奴らにそう言った。さっきは逃げて行ったけど、今回は逃げなかった。
「覚悟を決めた。私は奴と戦う」
「私もだ。ランドロムさん、バルンシさんは勇気を持って奴に挑んだ」
「これだけ数があれば、奴も太刀打ちできないだろう」
「質より数だ。これしか奴に勝つ可能性はないんだ!」
「行くぞ……行くぞ皆ァァァァァ!」
一人の戦士が大声を発すると、他の戦士たちが一斉に私に向かって走り出した。どうやら、奴らはアチーナさんよりも、私を倒すことを優先するようだ。
「ティノちゃん、他の戦士の皆さん。アチーナさんを守ることに集中して」
「もしかして……もしかして、あの人数を一人で対処するつもりか!」
アチーナさんは驚きながらこう言った。そのつもりだ。
「ええそうです。一人で戦います。あの程度、すぐに終わると思いますのでちょっと待っててください。奴らを倒したら、逃げ道を作りますので」
と、私は不安な表情をするアチーナさんにこう言った。横にいるティノちゃんはアチーナさんの肩を叩き、こう言った。
「何を言ってもあの人は止まりませんよ」
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