演説中止大作戦
アチーナって人の演説でテロが起こるなら、その演説を止めればいい。この考えにたどり着いた私は翌朝、すぐにこの作戦のことを伝えた。話を聞いた重役は唸り声を上げて難しい表情をしていた。
「難しいな。アチーナさんは演説の護衛のためにギルドを雇ったんだが……」
「命より金が大事なんですか? いくら私でも、デリートボンバーを止めることはできませんよ」
「うーむ……確かに命の方が大事だ。だが、アチーナさんが話を聞いてくれるか分からないぞ」
「とにかく、命を狙われているってことを伝えればいいんです。あとは返って来た返事でどうするか考えます」
私は無理かもしれないという重役を必死に説得し、何とかアチーナさんの事務所に電話することができた。重役が頭を下げながら何度もすみませんと言っていると、受話器を私に渡してきた。
「アチーナさんが君と話したいそうだ」
あらま。直接中止にしろと私に言わせるつもりなの? まぁ、この作戦を考えたのは私だから仕方ないけど。そう思いつつ、私は受話器を手にした。
「初めまして。私はエクス・シルバハートです」
「君がエクス・シルバハートか。ピアノタワーの事件は聞いている。よく、頑張ってくれた」
「ありがとうございます。それで、今回電話した理由なんですが……」
「演説の中止だろ? すまないが、それは無理だ」
「ピアノタワーの事件の犯人……いや、裏ギルドが関わっています」
「知っている。ジャッジメントライトのことだろう?」
アチーナさんからジャッジメントライトの名前が出てきたことに対し、私は思わず驚きの声を上げた。ジャッジメントライトの表向きはボランティアみたいなことをやっている連中で、裏で悪さをする二面性のある頭のネジがぶっ飛んだ集団だ。そんな奴らの裏の顔を知っているなんて思わなかった。
「あいつらの裏の顔を知っているのですね」
「政治家と言う職業柄、いろいろと話を聞く。ウラガネのことも君が解決したと聞いているよ」
「そんなことまで」
「命にかかわることだが、私は命を懸けても次の演説を行わないといけない。おっと、時間がないため理由を言う時間がないが、演説は決行する。では、演説の時に会えたら会おう」
「はい。分かりました……失礼します」
私はそう言って通話を切って重役に渡した。うーむ。演説を止める気がない、命を懸けてもやろうとしている。これは何を言っても無駄だ。しょうがない。私はそう思いつつ、部屋に戻った。
部屋の中ではティノちゃんが魔力の研究の本を読んでいた。私が部屋に入ったと同時に、顔を私の方に向けていた。
「お帰りなさいエクスさん。演説、どうなりましたか?」
「作戦大失敗。向こうは命を懸けても演説するって言ってた。私が何を言っても、意思は変わらないと思う」
「そうですか……危険な目にあってまでも、演説をする覚悟があるんですね」
「そうみたい。だけど、あの人はジャッジメントライトの裏の顔を知っていたわ」
「え? 確かあいつらは裏の顔を世間にはばらしていませんが……」
「ウラガネ絡み……いや、もっと前から知っていたかも」
(俺の故郷が奴らに滅ぼされたのを、アチーナさんは知っているからだ)
と、私の脳内でヴァーギンさんの声が響いた。ティノちゃんもこの声を聞いていたのか、かなり動揺していた。
「あいつらって……ヴァーギンさんの故郷を滅ぼしたんですか?」
「うん。それが、ヴァーギンさんが戦う理由だったの」
私がこう言うと、ヴァーギンさんが話を続けた。
(アチーナさんは俺からジャッジメントライトの話を知り、奴らをどうにかするために政治の面で動いている。よく、ジャッジメントライト絡みの依頼をしたのも政治が絡んでいる。一部の政治家が、ジャッジメントライトを使って裏で犯罪などをしているからな)
「もしかしたら、アチーナさんが狙われている理由って……」
ティノちゃんはいろいろと察したようだ。ジャッジメントライトにとって、アチーナさんは目の上のうっとおしいたんこぶのような存在。早く取り除きたい。だが、そう簡単に政治家を暗殺するタイミングなんて生まれない。だから、少しでも暗殺のチャンスがある演説の時を狙うのだ。
「理由は大体わかったけど、本人の口から聞きたいわね。ティノちゃん、演説当日私たちも行くわよ」
「もちろんです。奴らからアチーナさんを守りましょう」
私とティノちゃんがこう言った直後、私はギルド内から奇妙な魔力を感じた。
「ティノちゃん、行くわよ!」
「はい!」
ギルド内で異常があったことを察した私とティノちゃんは、武器を持ってすぐに部屋から出て行った。
しばらく廊下を走っていたが、血の臭いが漂った。誰かが怪我をしている。いや、酷い状態なら殺されている。なるべく嫌な状況にならないことを私は祈りながら走り続けたが、私が願っていた状況にはなっていなかった。壁の周りには血が付着して、床には戦士たちやギルドの役員の死体が転がっていた。
「ん? お前が我らの怨敵、エクス・シルバハートか」
前にいた男が私の方を見てこう言った。奴が持つ剣には、血がべったりと付着していた。こいつがやったのか!
「質問に答えろ。お前がエクス・シルバハートか?」
「だとしたらどうするの?」
「お前を倒せと命令は受けていないが……怨敵である以上お前を殺さなければならない」
「そう簡単に私を殺せると思わない方がいいわよ」
私はそう言って奴に斬りかかった。だが、私が放った斬撃は奴に止められた。こいつ、そこそこ強い。
「なかなかやるわね。私の斬撃を受け止めるなんて他の戦士にはできなかったわよ」
「かれこれ十年以上剣を使って戦っている。経験ならお前に負けないさ」
奴はそう言って私から離れ、剣を構えた。私は奴に接近しようとしたのだが、近付いた瞬間に構えていた剣の向きを変えた。反撃するつもりだと察し、高く飛び上がった。その時、奴は力強く剣を横に振るった。
「おしい」
「残念だったわね」
私は天井のランプに掴まって奴の攻撃をかわした後、ランプから手を放し、落下と同時に奴に向かってドロップキックを放った。このドロップキックも奴に防がれた。
「お前は剣士じゃないのか?」
「剣士が蹴りを使ったっていいじゃない」
私は奴に言葉を返すと、ナイフを手にして猛スピードで奴に接近した。このスピードに奴の目は追いつけず、かなり動揺した様子を見せていた。今なら隙だらけ、攻撃できるチャンスだ! そう思った私は奴の腹に向けてナイフを突き刺した。
「グウッ!」
「自分より早い奴を見たことがないのかしら? マラソン大会に出て、自分の足の遅さを認識した方がいいわよ」
私は奴の腹からナイフを抜き差し、奴の腹に蹴りを入れた。二度目の蹴りは奴に命中。奴は大きく吹き飛んだ。私は奴が回復する前にとどめを刺そうと動いたのだが、奴から魔力を感じた。
「流石だよ、エクス・シルバハート」
奴はそう言って、立ち上がりながら拍手を始めた。
「一人の戦士として、君のような強者と戦うのは嬉しい限りだ。ジャッジメントライトのために動いているのだが……今ばかりは一人の戦士として強者の君と戦いたい」
「寝ぼけたことを言ってんじゃないわよ。あんたみたいな雑魚野郎、好き好んで相手にしたくないわ。勝てないって思ったらさっさと諦めて」
「いやいや。勝てないって思ったら私は剣を鞘に納める。私はまだ君に勝つつもりでいるよ」
と言って、奴は魔力を解放して周囲に水を放った。小さな鉄砲水だ。それらを操って私に攻撃するつもりか? そう思っていると、奴は紳士のようにお辞儀をした。
「私の名前はドロブ。ここの囚われた人間の始末を任されたのだが……任務を終わらせて帰る前に君と会うなんて私は運がいい」
囚われた人間の始末? その言葉を聞き、私は急いでティノちゃんにこう言った。
「今すぐ刑務所へ確認しに向かって! あいつ、昨日の立てこもり犯を殺したかもしれない!」
「は……はい!」
ティノちゃんは返事をし、急いで刑務所へ向かった。奴はずっと私を見ていたせいで、ティノちゃんを逃がした。
「追わないの?」
「追っても無駄さ。昨日のあいつらはすでに死んでいる」
「そう。まぁいいわ」
私はヴァーギンさんを鞘から抜き、奴を睨んだ。
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