若い戦士の戦い
面倒なことになった。エンカと言う戦士は何が何でも私と一戦交えたいようだ。見た目は私より身長が高く、腕の筋肉もそれなりに発達している。ギルドの戦士になって一年は経ったらしいが、まだまだ性格的に未熟な面がある。私が戦うのを拒否しても、この手の性格の人はしつこく付きまとうだろう。戦いたいのであれば望み通り戦い、力と経験の差を教えないとね。
私は木刀を手にし、目の前で素振りをしているエンカを見た。エンカが木刀を振り下ろす際、風を切る音が響いている。力で木刀を振っているようだ。
「では、私の合図で模擬戦を始めます」
「おう!」
「了解」
審判役のティノちゃんが、手を上げてこう言った。しばらく間が開いた後、ティノちゃんの手が振り下ろされた。戦いが始まった。
「でェェェやァァァァァ!」
エンカは私に接近し、木刀を振り回した。勢いがあるため、当たればそれなりのダメージを受ける。だが、振り下ろす前に力を込めるため、構えて攻撃をする際に大きな隙ができる。このことを知っているのだろうか?
「はっ! であっ! そりゃぁ!」
私が半ば呆れている中、エンカは次々と攻撃を仕掛けてきた。だが、当たらなければ意味がない。
「どうした? 反撃して来ないのか?」
攻撃の手を止めたエンカは、息を切らせながらこう言った。はぁ、あんなに激しい攻撃を続けたんだから、体がばてるのも当然だ。
「しないわよ」
「ハンデのつもりか?」
「あなたにハンデを上げても私には勝てない。最初の攻撃であなたの実力を把握したわ。あなたは私の敵じゃない」
私はエンカに向かってこう言った。この言葉を聞いたエンカの顔は真っ赤に染まり、地団駄を踏み始めた。
「ふっざけんな! あの攻撃で俺の実力が分かるわけねーだろうが! まだまだ戦いは終わってねーぞ! 行くぞオラァ!」
ブチ切れたエンカは、感情に任せるように木刀を振り始めた。力と怒りがこもった攻撃だ。だが、力と感情に任せた攻撃を見切るのはたやすい。攻撃することしか考えないため、体力配分を考えることもしないだろう。
「オラッ! ハァッ! オラァァァァァ!」
エンカは何度も何度も木刀を振るったが、私はその攻撃を全てかわした。
「ハァッ……ハァッ……どうしてだ? どうして俺の攻撃が当たらない?」
「あんたが未熟だからよ」
私はばてているエンカに向かってこう言った。だが、エンカは私を睨んだ。
「俺が未熟だと?」
「一年間、戦士として戦って来たんだから、大体どうやって立ち回ればいいか分かるわよね?」
「立ち回り? そんなこと考えてねーよ。とにかく相手より先に動いてぶっ潰す。それでいいじゃねーか」
「頭が悪いモンスターや悪人相手ならそれでいいわ。だけどね、世の中頭が悪い奴ばかりじゃないわ。悪知恵が働くモンスターだっているし、天才的な頭脳を持った裏ギルドの連中もわんさかいるわ。あんたみたいな単細胞が戦ったら、まず勝てないわね」
「俺はバカじゃねーぞ!」
「いーや、あんたはバカよ。あんたの攻撃は単純すぎて簡単に見切ることができるわ。それに、体力配分もできていないでしょ? あれだけ力を込めて攻撃をやり続けてたら、疲れてその隙を突かれて殺されるわよ」
私の言葉を聞き、エンカは黙ってしまった。返す言葉が見つからないのだろう。まぁ、これだけ正論をぶつけられたら黙るだろう。私は木刀を持ってエンカに近付き、木刀の先でエンカの鼻を突いた。
「これが本当の剣だったら、あなたの鼻は斬り落とされていたわよ。それでもまだやる?」
「当たり前だ……当たり前だ! 俺は負けを認めていない!」
どうやらまだ私とやるようだ。根性だけはすごいが、根性だけでは格上の相手に勝つことはできない。そのことを教えてやらないと。
「あんたの根性はすごいけど、それで敵を倒すきっかけに繋がることはまずないわ」
私はエンカの攻撃をかわし、素早くエンカの背後に回って木刀をエンカの首元に近付けた。私の動きを見切ることができなかったのか、エンカは首から伝わる木刀の触感を感じ、驚いて動きを止めていた。
「一割だけ本気を出したわ。これが本当の剣だったら、あなたの首は斬れていたわ」
「あ……ああ……」
「動かない方がいいわよ。この状況で変に動いたら、殺されちゃうわよ。さぁ、負けを認めなさい」
私は動揺するエンカに向かってこう言った。だが、エンカから魔力を感じた。
「おいエンカ! 負けるのが嫌だからって魔力を使うなよ!」
「剣と剣の戦いのはずだろうが!」
「卑怯だなお前!」
と、戦いを見ていたギルドの戦士がエンカに向かって野次を飛ばした。
「うるさい! これは剣と剣の勝負って言った覚えはないぞ!」
「まぁ、その通りね」
私は欠伸をしながらこう言った。エンカから感じる魔力は徐々に強くなっていった。自分の体の周りに炎を発して私を吹き飛ばすつもりなのだろう。モツアルトのギルドの訓練場の足元は芝生でできている。エンカが火の魔力を放ったらたちまち火が広がり、大火事になるだろう。
「仕方ないわね。怪我しないようにするから」
「あ?」
私の言葉を聞いたエンカは、不機嫌そうな表情で私の方を見た。その時、私は木刀を素早く動かし、エンカの頭を叩いた。
「あ……ぐあ……」
攻撃を受けたエンカは、小さな悲鳴を上げながらその場に倒れた。心配したギルドの戦士がエンカに近付き、様子を見た。
「気を失っている。あの一撃を受けたせいか」
「おお。たった一発で相手の気を失わせるとは……」
ギルドの戦士は感心しながら私の方を見ていた。私は木刀を近くにいた戦士に返しながら口を開いた。
「力と技と、人体に関する知識があれば誰だってできるわ。さて、この未熟な戦士を運ばないと」
私の声を聞いたギルドの戦士は、慌てながらエンカを保健室へ運んで行った。その後、ティノちゃんが私に近付いた。
「あっけなく終わりましたね。でも、エクスさんの実力ならすぐに終わらせることができたと思うのですが」
「一度、派手に負けて己の未熟さを教えないといけないのよ。たった一年、戦士として働いただけじゃあ立派とは言えないわよ」
「ですね。あの人、プライドをズタズタにされて再起不能にならなければいいんですが」
「それで再起不能になったら、そこまでのレベルってことよ。ギルドの仕事を甘く見ていたんじゃないのかしら」
私とティノちゃんが話をしていると、ギルドの重役らしき人がやって来た。ギルドの戦士たちが姿を見たら、一斉に頭を下げたから多分お偉いさんだろう。その重役らしき人は私に近付いてこう言った。
「エクス・シルバハート殿、これから会議がありますので、参加をお願いする」
「え? 会議?」
会議。その単語を聞くだけで私は嫌な気分になる。しかも、強制参加のようだ。私はトイレに行くとか言ってその場から去ろうとしたが、重役の護衛が私の両腕を掴み、逃げられないような形になってしまった。あーあ、会議かー、嫌だなー。
私は頬を膨らませて会議には参加したくないとジェスチャーで伝えているが、重役やその護衛はそのことに気付いていないようだ。私が会議に参加しても何にもならないのに。
(こうなったらやるしかないぞエクス。俺も会議は嫌だから抜け出そうとしたが、よく捕まったんだ)
(ヴァーギンさんも私と同じようなことをしてたんですね)
(会議で話したことと同じように敵は動かない。やるだけ無駄だと思うんだがな……まぁ、上は上で会議をやって今後の方針とか決めたいからな)
(動くのは私たち戦士ですからね。重役はただ座ってことが流れるのを待つだけですからねー)
私はヴァーギンさんと会議について文句を言っていた。まぁ……そんなことをしても重役と護衛の歩く足は止まらない。結局、私は会議に参加することになった。嫌だなー。
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