新たなるジャッジメントライトの目的
バスジャックが解決した後、私はティノちゃんと一緒にモツアルトのギルドへ向かった。そこで、バスの中で何が起きたか、私とティノちゃんは細かく説明した。
「そうですか。ジャッジメントライトがあなたの命を狙い、下っ端をよこしたというわけですね」
「その通りです。隠密活動を専門に行うチームか人間がいると思います。私も存在に気付きませんでしたよ」
私はそう言いながら、用意されたピザを食べていた。あんなことがあったのに、よく食べられるなと周りは思っているだろうが、修行や今までの戦いで悲惨な光景を見続けた私にとって、敵が自分の不注意で命を落とす光景はそんなに精神的に傷を負わない。目の前でヴァーギンさんが死んだことの方がよっぽど精神的に傷を負ったんだから。まぁ、ヴァーギンさんが剣となって蘇ったから、その分精神的な傷は治ったんだけどね。
話が終わった後、私はコーヒーを飲んでギルドの戦士にこう聞いた。
「で、ジャッジメントライトの動きに関して何か分かっていることはある?」
「あります。今、資料を持ってきますので、少々お待ちください」
そう言って、ギルドの戦士は立ち上がった。ティノちゃんと話をしながら待っていると、資料を持った戦士が戻って来た。
「これは近辺で起きたジャッジメントライト絡みの事件をまとめた資料です」
「ありがとうございます。確認しますね」
私はティノちゃんと共に、持ってきた資料を読み漁った。バッハでのテロ事件以降、この町で小規模ながらもジャッジメントライトは事件を起こしていた。だが、どれも逮捕者は下っ端連中だけで、大物はいないようだ。
「捕まったのは小物だけですね」
「そうね。どれもこれもデリートボンバーを使っていない。と言うか、捕まった理由は武器の密輸」
「この町って武器の密輸とかに使われるんですかね?」
ティノちゃんがこう言うと、ギルドの戦士は咳ばらいしてこう言った。
「前からジャッジメントライト以外にも、裏ギルドの連中がこの町を武器密輸のために使っています。この町には使われていない裏道や、旧住宅街がありますので」
「人がいない場所が多いのね。裏ギルドはそれを利用して、武器の密輸を行っているのか」
「時折有名な武器商人も捕まえます。奴らは、たまにジャッジメントライトを相手に武器を売買していると言っていました」
「武器商人にとっては、武器を買ってくれる人なら喜んで差し出すでしょうね。で、ジャッジメントライトもここで武器を買っているのね」
「はい。ですが、どう言った目的で武器を買っているのかは、どんな方法をやっても口を割りません」
「ジャッジメントライトの連中は、組織を守るためだったら何でもすると思うわ。もしかしたら、自分で自分のお口をチャックするかもしれないわ」
私はため息を吐きながらこう言った。今、分かったことはジャッジメントライトの奴らがこの町で武器を買っていること。だが、それだけ分かればいずれ、武器を買うために奴らは動くだろう。そう思う中、戦士の一人が慌てて部屋に入ってきた。
「大変です! ジャッジメントライトの一人から重要な情報を聞き出しました!」
この言葉を聞き、私は飛び上がった。重要な情報。これは私が一番欲しかったものだ!
「早く話して! 早く、早く早く早く!」
「エクスさん、ちょっと落ち着いてください」
ティノちゃんはそう言いながら、私に落ち着くように体を触り始めた。少し落ち着いた。興奮しすぎたわ。私は席に座り、戦士が話すのを待った。
「ジャッジメントライトの幹部クラスの部下が、この町でテロを起こすというのです」
「何! その話は本当か!」
「はい。自白剤を使って聞き出しましたので」
このモツアルトの町で奴らはテロを起こすのか。バッハのテロから一ヶ月も経っていないというのに、ご苦労なこった。だが、もう一つ重要な情報を私は手にした。幹部クラスの部下。こいつを倒せば、ジャッジメントライトの幹部クラスの情報を手に入れることができる。そうすれば、一気にジャッジメントライトに近付くことができる!
その後、私とティノちゃんは外のベンチに座っていた。
「やっとあいつらに近付くことができる。あいつらを倒すことができる」
私は奴らのボスに近い奴と近々接近できるかもしれないことを考え、少し興奮していた。私は目的が達成することが近くなると、少し興奮するのだろう。そんな私を見て、ティノちゃんがこう言った。
「落ち着いてください。幹部の部下と言っても、口を割るかどうか分かりませんよ」
「無理矢理言わせるわ。自白剤でも拷問でも何でもやってね」
「そんな物騒なことを考えるのは止めてください。とにかく落ち着いてください」
ティノちゃんの言う通りだ。私は深呼吸をして、気を落ち着かせた。その時、どこからか声が聞こえた。声がした方を見ると、そこはギルドの訓練場だった。
「剣の素振りですね。皆さん、腕の筋肉がすごいです」
ティノちゃんは上半身裸で鍛えている戦士たちの腕を見てこう言った。確かにあの人たちの腕の筋肉はすごいものだ。だが、剣は力と技、どっちもないと扱えないものだ。力だけがあっても、力任せだけじゃ剣は扱えないのだ。そんなことを思っていると、鍛錬していた戦士の一人が私に気付いた。
「あ! あの人はエクス・シルバハート!」
「このギルドに来ていると聞いていたが、本物はかなりの美少女だな」
「うわー、綺麗な人だなー」
私が見ていることに気付いた戦士たちは、鍛錬を止めて私に近付いた。
「あの、俺たちの鍛錬の様子はどうでした?」
「ピアノタワーでの戦い、教えてください」
「彼氏はいるんですか?」
「いやー、そのあのー」
私は次々と飛んでくる質問に動揺していた。男だけの空間に女子が入ると、こんなことが起こってしまうのか。そう思っていたが、一人の若い戦士が私の周囲にいた戦士をどかしつつ、近付いた。
「お前がエクス・シルバハートか」
ん? この人だけ他の戦士とは違う視線で私を見ている。私相手に喧嘩を売るような目だ。
「あなたは? 他の人とは違って、私に喧嘩を売るような態度だけれど」
「その通りだ」
その戦士は持っていた木刀を私の前に突き刺し、こう言った。
「俺と戦え。お前みたいな強い奴と一度戦ってみたい」
この言葉を聞いた他の戦士は、笑いながらその戦士の肩を叩いた。
「何いっちょ前に喧嘩売ってんだお前?」
「お前みたいな未熟者が、テロで戦った英雄に勝てるわけねーだろうが!」
「自分の実力を察しろ! 勝てない相手に喧嘩を売るな!」
笑われた戦士は大声を上げ、周囲の戦士をどかした。
「うるさい! とにかく俺はエクスと戦いたいんだ! 俺はエンカ、未熟者って言われているが、そこそこ強いって自覚している!」
「そこそこ強いって自分で言う?」
「俺は強い!」
と、エンカは胸を張ってこう言った。見たところ、私と同年代の戦士らしいけど、私に対してライバル心を燃やしているな。だけど……魔力はあまり感じない。とりあえず剣の腕はどうだろうか?
「あなたの剣の腕が知りたいわ。とりあえず何回か素振りして」
私はこう言ったが、他の戦士が近付いた。
「相手にしない方がいいですよ。エンカは戦士になって一年ちょいです。剣の腕もそこそこ、魔力もそこそこ。あなたのような天才剣士と戦ったらあっという間に負けます」
「おい! 誰だそこそこって言った奴は! 実際に戦わないと分からないだろうが!」
話を聞いていたエンカは怒りながらこう言った。ティノちゃんはため息を吐きながら私に近付いた。
「変な奴もいるんですね。エクスさん相手に戦いたいとか……一目で自分との実力の差があまりにも開いているってことが分からないんですかね?」
「経験がないから分からないんだと思う。まぁ、私が嫌だと言っても、この手の性格の子はしつこいと思うし……」
「え? まさか……」
ティノちゃんは私が木刀を手にした光景を見て、何を考えているか把握したようだ。それを見た他の戦士も、オイオイ嘘だろと言いたそうな表情をしていた。
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします。




