エクスの本気
今回のテロを指揮する男、ツデクとの戦いが始まった。この男は下の階でデリートボンバーを守っていた奴らよりも強い。奴の炎を浴びたら魔力で身を守っていても、消し炭になってしまいそうだ。
「さぁ、早くやられてくれたまえ!」
奴はそう言って槍を振り回した。修行やギルドの依頼などで、槍を使った悪人は何人か倒してきた。奴はそいつらよりも腕がある。かなり槍を使って戦って来たのか。
「グッ! ウウッ!」
私は剣で防御していたが、徐々に奴に押されて行った。私の顔を見た奴はにやりと笑い、渾身の力を込めて私が持つ剣を突いた。奴の槍は私の剣の刃に命中し、粉々に破壊した。
「な……剣が……」
戦いを見ていたソセジさんの驚く声が聞こえた。私は後ろへ下がり、壊れた刃の剣を見ていた。
「ショックだったかい? 愛用の剣を破壊されて」
と、奴は得意げな笑みで私にこう言った。私は破壊された剣を奴に向かって投げたが、奴は槍に炎を纏って放ち、飛んで来た剣を消し炭にした。
「ショック? ショックを受けていたら相手に向かって剣を投げ捨てないわよ」
「愛着がないのか?」
「まーね。その剣、ちょっと前に武器屋で買った安物だったからね」
「安物の剣……私の仲間はその安物の剣で斬られたというわけか」
「どんな剣でも使うこなすことができる。それが一流の剣士ってことよ」
私は奴にそう言いながら、ヴァーギンさんに触れた。
(俺を使うのか?)
(はい。あいつは強敵です。力を貸してください)
(分かった。ようやく俺の出番が来たか。思う存分俺を使え、俺を頼れ! エクス!)
(はい!)
私は鞘からヴァーギンさんを抜き、両手で構えた。その時、奴は私を見て冷や汗をかいた。
「すごいプレッシャーを感じる。今、本気を出したのか」
「その通り。本気で行くから、腕か足、どっちか失うと考えて、覚悟を決めなさい」
私はそう言って奴に接近した。奴は私の動きを見切っていないのか、間近に近付いた私を見て驚いていた。
「何!」
驚いたせいか、奴に大きな隙ができた。その隙に私は奴に向かって剣を振り上げて攻撃を仕掛けた。奴は後ろに下がって攻撃をかわそうとしたが、反応が遅かった。剣となったヴァーギンさんの先端が奴の頬に刺さり、深く傷つけた。
「グッ! ガアアアアア!」
鋭い痛みが走ったのか、奴は頬を抑えて悲鳴を上げた。だが、容赦はしない。私は両手でヴァーギンさんを持ち、奴に向かって振り下ろした。
「グッ!」
私の攻撃に気付いた奴は、槍を盾にして攻撃を防いだ。その後、奴は私の腹を蹴って後ろへ蹴り飛ばし、後へ下がった。
「ハァッ……ハァッ……何だ、今の力は……」
奴は私を見て、恐怖心を抱いているようだ。そんな中、奴は自分の槍に切り傷ができたことを把握した。攻撃を受け止めた時に、できた傷だ。
「そんな……この槍はかなり高度な鉱物でできているんだぞ!」
「だからどうしたの? どんなに高度な鉱物でも、傷付くときがあるわよ」
私は立ち上がって奴に近付き、ヴァーギンさんを振り上げた。これ以上無駄な戦いとお喋りはしたくない。そう思いながら攻撃を仕掛けたが、奴は魔力を解放し、右手から爆発するような炎を発した。私はバリアを張って後ろへ下がり、奴の様子を見た。
「槍が無理なら魔力でお前を焼き殺す!」
「できるものならやってみなさい」
私はそう言って奴を睨んだ。
エクスは自分が強いと思った敵にだけ、俺を使う。目の前にいるツデクと言う男が強いとエクスは感じたのだろう。奴が先ほど放った炎、あれを受けたらあっという間に消し炭になってしまう。威力が高ければそれだけ魔力を消費するのだが、奴はまだ余裕を持っている。あの威力の炎を放つ力を残しているのだろう。
(エクス。なるべく早めに決着を付けろ。奴はまだ力を残している)
(分かってます。早く奴の片腕と片足を斬り落とそうと考えています)
奴が余力を残していると、エクスは察しているようだ。だが、いつものエクスだったら足か腕、そのどちらかを斬り落とすはずだ。大きなダメージを与え、確実に奴を行動不能にしたいのだろう。
「ハァッ!」
エクスは俺を振り、奴の右肩を狙った。奴は攻撃をかわし、左手に持った槍でエクスを突こうとした。だが、反撃が来ると察したエクスは奴の右目に向かって攻撃を仕掛けた。
「ヒョエッ!」
奴は間一髪のところで頭を動かし、攻撃をかわした。だが、エクスは俺の刃の向きを変え、そのまま右肩に向かって俺を振り下ろした。俺の刃は奴の右肩に命中したが、刃は途中で止まってしまった。
「魔力で防御力を上げたのね」
エクスが奴に向かってこう言った。奴の右肩からは魔力を感じている。魔力で骨の強度を上げたのか。
「危機一髪だったよ。下手したら右腕を失っていた」
「私はそのつもりで剣を振り下ろしたんだけどね」
エクスは俺を持って後ろに下がり、奴の様子を見た。奴の右肩を斬り落とすことはできなかったが、それなりにダメージは与えたつもりだ。そう思ったが、奴は魔力を使って傷付いた右肩の治療を始めた。
「さぁ、もう一度攻撃するかい? どんなに攻撃を仕掛けても、私はその傷を治す」
と、奴は勝ち誇ったかのようにこう言った。魔力の探知をして奴がどれだけ魔力を残しているか調べたが、まだ魔力は残っている。こいつ、かなり強い。俺はそう思い、エクスに長期戦になると言おうとした。だが、エクスはにやりと笑っていた。
(エクス。何か策があるのか?)
俺がこう聞くと、エクスは小さく頷いた。
(ええ。あります。それはとにかくあいつを斬って斬って斬りまくることです)
(なっ! 斬るだけか?)
俺はエクスの作戦を聞いて驚いた。ただ斬りまくるだけでは、すぐに治癒してしまう。そんな作戦で大丈夫かと俺は思ったが、俺が声をかける前にエクスは動いた。
「ほう。それなりに利口だと思っていたんですが、あなたもあのギルドの戦士と同じくマヌケのようですねぇ!」
「あんまり人のことをマヌケとか言わない方がいいわ。悪口はいずれ、自分の元に帰って来るって聞いたような気がしたからね!」
エクスはそう言って奴を斬り刻んだ。攻撃を受けた奴はすぐに治癒し、エクスの方を見た。
「分かっているのですか? 私は魔力で傷の手当てができるんですよ?」
「分かっているわよ!」
エクスは再び奴に接近し、攻撃を仕掛けた。エクスは奴の腹に向かって俺を振り、大きな切り傷を与えた。奴は苦しそうな顔をしたが、すぐにその傷を治した。
「フン。無駄なことを」
「だァァァァァりやァァァァァ!」
エクスは大声で叫びながら奴に向かって俺を振り下ろした。攻撃を受けた奴は後ろに下がったが、エクスはそれに合わせるように動いて追撃を放った。
「グッ……離れなさい!」
奴は魔力を解放し、エクスを吹き飛ばした。エクスはすぐに立ち上がり、傷の治療をする奴に接近した。
「しつこいですよ!」
「あんたを倒すまで、何度でも近付いてあげるわよ!」
エクスはそう答えて奴に攻撃を仕掛けた。奴はエクスを確実に殺すため、左手に火の魔力を発して、ビームのように放出した。だが、エクスはその攻撃が来るだろうと察知し、急いで奴の頭上に高く飛び上がった。
「猿みたいにちょこまか動きますねぇ」
「私が猿だとしたら、あんたは何? 天使とかふざけたことを言ったら斬るわよ」
「天使? その通りですねぇ……ジャッジメントライトの人たちは……天使みたいな存在ですからねぇ」
「ふざけたことを言ったわね。斬るわ」
と言って、エクスは奴の背中を斬った。エクスはがむしゃらに攻撃を仕掛けているが、奴はその傷を治してしまう。エクスよ、お前は一体何を考えているんだ?
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