デリートボンバーを探せ
劇場にあるデリートボンバーを止めることに成功した。これからこの高くて広いピアノタワーの中にあるデリートボンバーを探すことになるのだが、フィーラが私にこう言った。
「このピアノタワーには劇場、ショップエリア、富豪が住んでいるマンションエリアがあるのは知っているかい?」
「聞いたわ。それが何なのよ」
「ショップエリア、マンションエリアには二つずつのデリートボンバーがある。もちろん、それを守る騎士もいる」
そうか。一つのエリアに二つのデリートボンバーがあるのか。数は分かったけど、広いから探すのに時間がかかるな。そう思った私だが、フィーラは小さく笑いながら話を続けた。
「もう一つヒントを上げよう。デリートボンバーはかなり目立つ場所に置いてある。騎士もすぐ近くにいるから分かると思うよ」
そう言った。デリートボンバーの爆発の威力がどれだけ強いのか分からないけど、とにかく止めるしかない。ソセジさんはフィーラを連れて行くようにギルドの戦士に指示し、私とティノちゃんの方を向いた。
「目立つ場所に置いてあるのなら、すぐに見つかるだろうが……守る奴もいるのか」
「戦うのは私がやります。サクッとやっつけるので安心してください」
私は剣を持ってそう言った。ソセジさんは私がフィーラと戦っている時のことを思い出し、安堵の表情をした。
その後、私たちは階段を使って上の階、ショップエリアへ向かった。すでに何人かのギルドの戦士がショップエリアを探しているだろうが、まだ連絡はない。広いから、目立つ場所に置いてあると言っても探すのに時間がかかるのか。そう思っていると、ティノちゃんがこう言った。
「奴らはどうしてこの場所に爆弾を置くことができたんでしょうか?」
確かにそうだ。平日でもショップエリアはともかく、マンションエリアにも人はいるだろう。何かを置いたとしても、落とし物として処理される。うーん……もしかして。
「もしかして、マンションエリアに住んでいる人の中に、ジャッジメントライトの関係者や入団している人がいたんだと思う。その人がテロ当日に合わせてデリートボンバーを置いたんだと思う」
「持ち物チェックとかすると思うんですが」
「ジャッジメントライトは表向きの顔があるの。きっと、このタワーの警備員にも表向きの顔に騙されて入った奴がいて、上からデリートボンバーを見つけても何も見なかったことにしろと言われたんだと思うわ」
「確かにそうですね。ジャッジメントライト、いろんな所に浸食していますね」
「怪しい宗教みたいなもんだからね。さて、そろそろショップエリアに着くわ」
私たちはショップエリアに到着し、すぐに周りを見回した。ギルドの戦士が慌てながらデリートボンバーを探しているが、まだ慌てているのを見ると、見つけていないのだろう。連絡も入っていないし。
「さて、私たちもデリートボンバーを探しましょう」
「はい」
「ああ」
ティノちゃんとソセジさんの返事の後、私たちも急いでデリートボンバーを探し始めた。
私とティノちゃんは一度ソセジさんと別れ、二人でデリートボンバーを探すことになった。ギルドの戦士にまだ見ていない場所を聞き、急いでそこへ向かった。
「すぐにデリートボンバーが見つかるといいんですが」
「そう思うと見つからないもんよ。とにかく探すことに集中しましょう」
私がティノちゃんにそう言うと、殺気が混じった魔力を感じた。私は走るのを止め、魔力を感じた方を向いた。その場所はおもちゃコーナー。子供が見るために設計されているためか、通路は少し狭い。
「あそこに行くわよ」
「おもちゃコーナーですか。確かにそこはまだ見ていないようですね」
私はティノちゃんと共におもちゃコーナーへ向かった。コーナーへ入った途端、デモンストレーションで置かれていたおもちゃたちが一斉に動き始めた。
「うわっ! うるさい!」
「いろんな光が発するせいで目がちかちかします!」
私とティノちゃんは目や耳を抑えながら叫んだ。そんな中、男の声が聞こえた。
「おもちゃはいい。心の底に落ちた童心を蘇らせる。暖かかった思い出を蘇らせてくれる」
男はデリートボンバーが入っているトランクの上に座っていて、右手にはサイレンを鳴らし、ランプを点灯させる救急車のおもちゃを持っていた。そして、腰には剣を携えていた。
「あんたがこのデリートボンバーを守る騎士ね」
「ご名答。私の名前はエドラム。君と同じ剣を使う」
エドラムは救急車のおもちゃを私に向かって動かし、剣を鞘から抜いた。私は近付いてきた救急車のおもちゃを奴に向かって蹴り飛ばし、剣を抜いた。だがその瞬間、私が蹴り飛ばした救急車のおもちゃは破裂した。最初から察していた。奴はあのおもちゃに細工をしていたのだと。
「私が作った疑似的な爆弾だと、すぐに理解できたようだね」
「何か細工をしたと思ったわよ。くだらない小細工で私を倒せると思った?」
「小手調べだよ。フィーラを倒した君の実力を知りたくてね。これで分かったよ、君に小細工は通じないって」
奴はそう言って私に接近し、魔力を解放しながら私に向かって剣を振り上げた。私は後ろへ下がってかわしたが、その時に後ろに置いてあったおもちゃの箱に激突した。
「ここじゃあ戦えない!」
私は崩れた箱をジャンプして飛び越え、足場が広い所へ着地した。その時だった。
「エクスさん! おもちゃの様子がおかしいです!」
ティノちゃんの叫び声が聞こえた。崩れた箱から、自転車をこぐ猿のおもちゃが出てきた。おかしい。ああいうおもちゃは電池がないと動かない。それに、買った時にはおもちゃが動かないようにいろいろと細工がしてあるはずだ。なのにどうして動く……まさか、奴は小細工をしているのか?
(エクス! 奴から魔力を感じるぞ! 小細工は通じないと言っていたが、あれは奴の嘘だ!)
脳内でヴァーギンさんの声が響いた。正々堂々と勝負するつもりは最初からないってことか。奴は私に向かって笑い声を上げた。
「正々堂々と勝負するって思っていたのかい? 小細工は通じないと言ったが、それなりに小細工はするよ」
「正義のために戦うジャッジメントライトの名を汚さないの?」
「正義のためならどんなことをしてもいいのさ」
「正義と言うなら卑怯な手も使うのね。プライドってのがないのかしら?」
私は挑発するような口調でこう言った。その言葉を聞いたのか、奴の口角が少し引きついた。
「私にもプライドはある。だが、負けたら価値はない」
「負けても経験を積むと言っている人もいるわ。価値がないのはあんたらの組織よ。ジャッジメントライトとか言って正義の味方ですーって思うような名前だけど、やってることは野蛮なテロ行為。そんな連中に価値があると思っているの?」
「ふざけるな! ジャッジメントライトを侮辱するなァァァァァ!」
奴は大きな声を上げて私に襲い掛かった。ティノちゃんは怒った奴を見て驚いているが、私は奴を怒らせるようにわざと挑発したのだ。奴は小細工をするためにおもちゃコーナーを戦いの場に選んだが、それが逆に仇になった。大きな動きで狭い通路を走ると、体のどこかにおもちゃの箱が当たり、高く積んであったおもちゃの箱が奴に向かって落ちてくるはずだ。
「なっ! あああああ!」
私の予想通り、奴はおもちゃの箱に体をぶつけ、そのせいで高く積んであったおもちゃの箱が奴に向かって落ちてきた。中に入っているおもちゃはそれなりに重く、それが奴に当たったら大きなダメージになるだろう。そう思っていると、奴はおもちゃの箱に埋もれて行った。でも、これで奴を倒したとは思ってもいない。まだ、奴から魔力を感じる。
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