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英雄と少年の出会い


 ジャッジメントライトは完全に崩壊した。これでジャッジメントライトとの因縁に決着がついた。ギルドの戦士によって救助された私は崩壊し、跡形もなくなったジャッジメントライトのアジトを見てこう思っていた。


「完全に終わりましたね……」


 と、横にいたティノちゃんがこう言った。同じことを思っているのだろう。


「ええ……そうね……これで、ジャッジメントライトは完全に崩壊した」


 私はそう言葉を返し、ただずっと崩壊したアジトを見ていた。私たちの最大の目的であるジャッジメントライト崩壊を成し遂げることはできた。だが、ヴァーギンさんが再び死んでしまった。それに、アジト攻撃に参加したギルドの戦士たちの大半が命を落とした。たとえ戦いに勝っても、喜べる状況ではない。多数の犠牲があったからだ。


「エクスさん、ティノさん。とりあえずギルドに戻ります。我々が担架で車まで運びますので、じっとしていてください」


「お願いします」


 私はギルドの戦士にそう言った。その後、私とティノちゃんは担架によってギルドが用意した車に運ばれ、そのまま病院へ向かった。




 私とティノちゃんの傷が治るまではかなり時間がかかった。シクやレパン、ザムを倒すためにかなり無茶をしたのだろう。自分でも気が付かないうちに体に大きな負担をかけていたようだ。その結果、一か月間安静にしろと言われてしまった。一ヶ月が経ち、ようやく体が自由になった。


「ふぅ、やっと動ける」


 私は自由になった手足を軽く動かしながらこう言った。包帯やギブスによって、体を動かすことはできなかったのだ。ティノちゃんも同じ状況であり、手足を動かすティノちゃんは安堵の表情になっていた。


「手足の自由がこれだけ素晴らしいとは思いもしませんでした」


「本当にそうね。これでやーっと自由になれたわ」


 私はそう言ってストレッチを始めた。だが、その様子を見た看護婦が悲鳴を上げて私に近付いた。


「エクスさん! 包帯やギブスを取り外しましたが、まだ安静にしてください!」


「常人なら死んでいるレベルの怪我を負っていたんですよあなたたちは! 魔力を使って治癒したのはいいけれど、あまり無茶をしないでください! 怪我が広がるでしょうが!」


 と言って、またベッドの上で寝かされてしまった。うーん……完全に自由になるのは当分先のようだ。


「もう少し病院生活が続くわね。ティノちゃん、そっちの体の様子はどう?」


「まだ痛みがあります。エクスさんの言う通り、もう少しだけこの状況が続きますね」


「はぁ……まだこの生活が続くとしたら、暇な時間がまだ続くわねー」


「私としては久しぶりに休めるのでいいんですが……」


「んー、まぁあまり休んでなかったから、休めってことだろうけど、私としては剣を持って暴れたいわねー。私はそっちの方が気楽でいいわ」


 私はベッドの横に立てかけてあるネメシスソードを見てこう言った。この言葉を聞いた看護婦が睨むような目で見てきたため、私はこの場を紛らわすためにテレビを付けた。


「はぁ、相変わらずくだらないニュースばかり流しているわねー。このコメンテーター、知ったかぶりをしているような顔をしているわね。なーんか腹立つわー。今すぐこのスタジオに殴りこみに行ってこいつの顔を殴ってやろうかしら?」


 くだらないニュースを見て、私はため息を吐くと同時にこう言った。そんな中、看護婦が私に近付いてこう言った。


「エクスさんたちがジャッジメントライトを潰した時は大きな騒ぎになったんですよ。世界中のメディアがベトベムのギルドに集まったのですから」


「私のコメントが欲しかったんでしょうね。ま、その時からずーっと私は病院にいたんだけどね」


「その時は一部のメディアがこの病院にやって来ましたよ。でも、院長が治療の邪魔だからとっとと帰れと怒鳴ったから、すぐに帰りましたけど」


「ここの院長先生に後でお礼を言わないとね。おかげで静かに過ごせたんだし」


 私はチャンネルを変えながらこう言った。




 それから二ヶ月後、ようやく私とティノちゃんは退院することができた。


「エクスさん、これからどうします?」


 背伸びをしていたティノちゃんが私にこう聞いた。退院後にすること、それはもう決まっているし、これから何をしたいのかも決めてある。


「ベトベムのギルドに行くわよ。皆に挨拶しないと」


 そう言った後、私とティノちゃんはベトベムのギルドへ向かった。私とティノちゃんの姿を見たギルドの役員や戦士は、皆目を開けてその場で動きを止めた。


「どもー。退院しましたー」


 私がこう言うと、皆は声を上げながら私とティノちゃんの元に近付いた。


「お帰りなさい! ようやく退院できたんですね!」


「元気そうで何よりです! 皆、エクスさんとティノさんの退院を待っていたんですよ!」


「お礼も言えなかったんですから、とりあえず他の人も呼んできます!」


 と、ギルド中は大騒ぎになった。私とティノちゃんはギルドの人たちの話に応じる中、感じたことのある魔力を感じた。


「よっ、元気そうじゃねーか」


「退院おめでとう。そして、お疲れ様」


 近付いて来たのはエンカとソセジさん。二人は私に近付いて話しかけてきた。


「ソセジ、エンカさん。怪我の方はいいんですか?」


 レパンの戦いの後、戦闘不能になった二人はギルドの戦士によって外に運ばれた。あれから私とティノちゃんはザムとの戦いに入ったため、二人がどうなったのか知らなかった。見たところ、元気そうだ。


「お二人は大丈夫だったんですか?」


「ああ。一ヶ月ほど動けなかったが、今は前と同じように動けるよ」


「大変だったけどな」


 ティノちゃんの質問を聞き、二人は笑いながら答えた。どうやら、あの二人も入院していたようだ。私とティノちゃんよりも先に退院したようだけど。


 それから、私とティノちゃんはギルドの人たちと話をした。戦いが終わって病院へ入院したため、それからどうなったのか私とティノちゃんはしらなかったので、その後のことを教えてもらった。


 話によると、生き残ったジャッジメントライトの戦士や信者は大人しくギルドに投降し、世界各地にいたジャッジメントライトの人たちもザムの死を知り、どうすることもできないと察して自ら投降した。これにより、完全にジャッジメントライトが崩壊したと言える。


「これでようやくジャッジメントライトが消滅したんですね」


「ああ。だが、まだギルドの戦いは終わらない。次にまた、どんな大きな敵が現れるのか……」


 そう言いながら、ソセジさんはため息を吐いた。確かにその通りだ。敵はジャッジメントライトだけではない。似たような裏ギルドが今後勢力を強めて行くだろう。


「また、似たような奴らが現れたら私が斬り倒します」


 私がこう言うと、ギルドの人たちの歓声が上がった。




 数日後、私とティノちゃんはラゴンさんの元へ向かった。入院やギルドで話をしていたため、すぐに会いに行くことはできなかった。


「ラゴンさん、元気ですかね……」


 剣聖の森を歩く中、ティノちゃんがこう言った。確かにあのエロジジイが元気かどうか分からない。恐らく、ラゴンさんもヴァーギンさんが死んだことを察ししているだろう。再びヴァーギンさんが死ぬだろうと覚悟していて、それを受け止めているのであればいいんだけど。そう思いながら、私は歩いた。


 しばらくし、ラゴンさんの家の前に着いた。私は扉を叩き、ラゴンさんの返事を待った。


「鍵は開いとるぞー」


 中からラゴンさんの声が聞こえた。私は扉を開き、ラゴンさんの家の中に入って行った。リビングに行くと、そこにはお茶を飲んでいるラゴンさんの姿があった。


「いろいろあったが、ようやく落ち着いたと言うわけか?」


「ええ。まぁそんな所です」


 私はラゴンさんの前に座り、ティノちゃんは周囲を見回しながら私の横に座った。ラゴンさんはため息を吐き、ティノちゃんにこう言った。


「エッチな罠はありゃせんよ。ヴァーギンのことについて話に来たんじゃろ。そんな中でバカなことをしたら、ヴァーギンに祟られる」


 この言葉を聞き、私とティノちゃんは目を開いて驚いた。ラゴンさんはあくびをし、私とティノちゃんにこう言った。


「ヴァーギンが死んだんじゃろ? あいつの魔力が完全に消滅したから察していた」


「じゃあ、ジャッジメントライトが崩壊したことも、ザムが死んだことも……」


「全部察しておる。バカ弟子のために優秀な弟子が犠牲になるのは……わしとしてもこんな展開になってほしくなかったがの」


 と言って、ラゴンさんはお茶を飲んだ。


「老いぼれの師匠より先に逝く弟子がいるなんてのう。しかも、二人」


 と、しみじみとこう言った。その後、私はリュックの中からヴァーギンさんの握り手を取り出した。それを見たラゴンさんは声を上げた。


「あいつの遺品か」


「はい。これをラゴンさんに渡そうと思いまして」


 私はこう言ったが、ラゴンさんは握り手を受け取るのを拒否した。


「わしよりも、こいつを収める相応しい場所がある。今から教えるから、ちゃーんと覚えておくんじゃよ」


 と、ラゴンさんは私とティノちゃんにこう言った。




 ラゴンさんに教えられたのはとある公園。この公園は以前、町だったようだ。


「ここですね」


 と、ティノちゃんが看板を指差してこう言った。その看板を見て、私はここがヴァーギンさんの故郷であることを察した。私は周囲を見回して、以前にヴァーギンさんが教えてくれたことを思い出した。


 ジャッジメントライトによって故郷が滅ぼされた。その仇を取るため、ジャッジメントライトを倒すと。


 私とティノちゃんは公園の管理者の元へ行き、事情を話した。


「そうですか……英雄ヴァーギンの形見を持っているのですね」


「はい。これがそうです」


 私は握り手を管理者に渡した。管理者は握り手を見て、しばらく黙っていた。数分後、管理者は立ち上がって私とティノちゃんについてくるように伝えた。


「私は生前のヴァーギンに会ったことがあります。この町が滅ぼされた日に、彼は毎年来ていました。その時に私は彼と少しだけ話したのです。英雄、ヴァーギンはこう言っていました。必ず俺がジャッジメントライトを潰すと」


 そう言うと、管理者はとある建物の廃墟の前で止まった。


「英雄、ヴァーギンは毎年、必ずこの廃墟の前に立ち寄っていました。話によると、ここが彼の実家だそうです」


 話を聞き、私はヴァーギンさんの実家の跡地を見つめた。跡地になったため、家の大きさは分からないが、恐らく普通の家なのだろう。ヴァーギンさんはここで普通に暮らしていた。だけど、ジャッジメントライトによってすべてが壊された。


「エクスさん……」


 ティノちゃんは私の方を見て呟いた。感傷的になっていた私は我に戻り、心の中でこう言った。


 皆さん。ジャッジメントライトは私が潰しました。奴らの手によって苦しむ人々も出てこないでしょう。だから、安心してください。


 私が心の中でこう言った直後、風が吹いた。風によって、周囲の草花が揺らいだ。まるで、喜んでいるかのように。




 ジャッジメントライトの騒動はこれで幕を下ろした。だが、まだ世の中にはジャッジメントライトのような裏ギルドは存在するし、これからも生まれるだろう。私はそう思い、ギルドの戦士として毎日戦っていた。


 ジャッジメントライトを滅ぼして五年が経過した。私とティノちゃんはやつれた顔でギルドのキッチンの椅子に座っていた。


「あー……疲れた」


「そうですね……年は取りたくないです」


 私とティノちゃんは二十代とはいえ、毎日激務に追われていた。世界中を駆け巡り、あらゆる裏ギルドを滅ぼしてきたのだが、二人だけでは裏ギルドの殲滅に追いつけない。それに、私やティノちゃん並みに強いギルドの戦士は存在しない。皆、私とティノちゃんの戦闘力を当てにしてしまっているため、あまり鍛えていないのだ。


「はぁ……もう少しギルドの戦士が強かったら、多少楽になるんだけどなー」


「でも、私たちが経験した修行を積めと言ったら、死人が出ますよ」


「そうなのよねー。剣聖の森で修行しろって言ったら、確実にギルドの戦士の仕事を辞めるわね」


 そう言った後、私とティノちゃんは大きなため息を吐いた。そんな中、ギルドの役員が私とティノちゃんに近付いた。


「話は聞きました。戦士を育てたいんですか?」


「ええ。私とティノちゃん並みに強い戦士がいれば、これから生まれる裏ギルドに対応できるからね」


「いい話じゃないですか。二人が先生になれば、きっと多数の人が集まってきますよ」


 と、ギルドの役員はこう言った。そうか……私とティノちゃんが戦士を育てればいいんだ。ラゴンさんのように死人が出るかもしれない危険な修行をしなければいいし、私とティノちゃんの名前を使えば人は集まり、上手く鍛えれば私とティノちゃん並みの強い戦士が育つ!


「いい考えね! ティノちゃん、私たちで戦士を育てるのよ!」


「私たちで?」


「ええ。私は剣術、ティノちゃんは魔力。私たちで協力すれば、戦士も育つだろうし!」


「私たちで育てるですか……まるで私とエクスさんの子供みたいですね」


「そうね。さて、やるとしたらすぐに行動に移さないと!」


 私は我ながらいい考えを生み出したと思いながらこう言った。




 それからしばらくして私とティノちゃんはファストの村に戻り、学校を開いた。私とティノちゃんが戦士を育てるために学校を開いたという話はすぐに全世界に伝わり、ファストの村には多数の戦士希望者が集まった。私とティノちゃんは戦士希望者を鍛え、優秀な戦士に育てて行った。私とティノちゃんが育て上げた戦士たちは各地のギルドへ行き、新聞やニュースで取り上げられるくらいの成果を上げた。そして、それらの話を聞いた新たな希望者がファストの村を訪ねた。


 数年後、有名になった私とティノちゃんの修行場に、一人の少年がやって来た。見た感じだけど、年齢は十五歳。身長は少し低めだけど、持っている剣を見て私はこの少年は強いと思った。


「あ……あの……修行場はここでいいんですか?」


 その少年はおどおどとしながら私にこう聞いた。この性格、まるで昔の私を見ているようだ。


「ええ。修行を希望?」


「はい。僕、ヴァーギンって言います。エクスさんみたいな剣士になるため、ここに来ました」


 ヴァーギン。その名前を聞いて私は驚いた。


「あの、何かが変なのですか?」


「ううん。お世話になった人と同じ名前だったから驚いたの」


「そうだったんですか。僕のお父さんが名前を付けてくれたんですが、どうやら昔の英雄の名前みたいです」


 と、ヴァーギン少年は教えてくれた。私は昔のことを思い出しつつ、ヴァーギン少年にこう言った。


「修行はきついわよ。だけど、その修行を耐え抜いたら君は立派な戦士になれる。きつい修行を耐え抜く覚悟はある?」


「はい! これからよろしくお願いします!」


 私の言葉を聞いたヴァーギン少年は、頭を下げてこう言った。さて、新しい子が入ってきたことだし、私も先生として頑張らないと。


 今回の話でこの作品、英雄は剣となってかえるはおしまいです。約半年間応援ありがとうございます! シリアスなバトルかつ、悪人の手足が飛びまくる話でしたが、自分の想定していたラストまで書くことができました! また、次回作でお会いしましょう! この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします! 連載は終わりましたが、感想と質問も待ってます!

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