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英雄は剣となって還る


 ストッパーブレイクを使った反動が今、起きたようだ。ザムの足から血が流れ、動かすことができないようだ。筋肉か神経に傷が付いたのだろう。


「そんな……ぐッ!」


 ザムは動かない足を無理矢理動かしてエクスと戦おうとしている。無理に近いのに。だが、エクスもこの激しい戦いで、体力をかなり消耗している。何度もティノの治療を受けており、魔力もかなり使った。それに、エクスもティノも一度大きなダメージを受けたので、本来なら一発でも攻撃を受けたら倒れてしまうだろう。それでも、二人は立っている。ザムを倒すために。


「行くわよティノちゃん。今なら多分……あいつも何もしてこないでしょう」


「ええ。倒すなら今です」


 二人はふらつきながらももがき苦しんでいるザムの元へ向かった。その途中、エクスは落ちている俺を拾った。そして、刃を見てこう言った。


(ヴァーギンさん……もう少し戦えますか?)


(もちろんだ。エクスとティノが命を懸けているんだ。俺も、命を懸けて戦わないと)


(はい)


 エクスは俺に返事をすると、ネメシスソードから俺に持ち替えた。ありがたい。俺は次の攻撃できっと、壊れるだろう。いろいろと傷付いた刃に衝撃を受けたため、どこかしらのタイミングで壊れ、俺は死ぬだろうと覚悟をしていた。だが、ザムにとどめを刺すまで、俺は死ねないと強く思っていた。


「クソが……ゲホッ……私は……負けぬぞ。勝つのは私だ……」


 ザムは近付いてくるエクスとティノを見て、激しい顔で睨んだ。まだ戦うつもりか。ザムは大声を上げて立ち上がり、傷付いた足を無理矢理動かして歩き始めた。俺も驚いたが、エクスとティノもザムが動いたのを見て驚いていた。


(あの傷で動くとは思いませんでした)


(俺もだ。早急にこの勝負に決着を付けないといけないな。次の攻撃で全てが終わる……いや、終わらせるつもりで攻撃を仕掛けろ!)


(はい!)


 エクスは返事をした後、俺を構えて迫るザムに睨み返し、歩き始めた。ティノはその後ろから魔力を解放し、エクスの後から歩いて行った。


「殺してやる……殺してやるぞォォォォォ!」


 ザムは強い魔力を解放し、大きな声で叫んだ。強い魔力だが、戦い始めた時よりも質が落ちている。恐らく、これが残った魔力なのだろう。


「かかって来なさい! あんたを斬ってやるわ!」


「倒れるのは、あなたの方です!」


 エクスとティノは俺を構え、同時にこう言った。




 次の攻撃で全てを終わらせる。ジャッジメントライトを、ザムを潰す! そのつもりで私はヴァーギンさんを構えた。ティノちゃんもヴァーギンさんの握り手を触れたということは、一緒にこの勝負に決着を付けたいからなのだろう。


「エクスさん。私、剣を握るのは初めてだから……」


「大丈夫よ。私に任せて」


 私はそう言うと、残してある魔力をヴァーギンさんに注いだ。ティノちゃんも残った魔力をヴァーギンさんに注ぎ始めた。


(二人の魔力を感じる……とても強く、温かい魔力だ。これなら、奴が何をしようとも斬ることができる!)


 と、ヴァーギンさんはこう言った。私とティノちゃんは互いの顔を見合わせ、ザムを睨んだ。


「グオオオオオ! くたばるのはお前たちの方だ、ティノ・オーダラビト! エクス・シルバハートォォォォォ!」


 ザムは叫びながら近づいてきて、接近したと同時に残った腕で剣を握り、私とティノちゃんに向かって振り下ろした。


「これはまずい!」


 ティノちゃんはバリアを張り、ザムの一撃を防いだ。だけど、私の予測通りティノちゃんが発したバリアはザムの攻撃を受けてひびが入った。


「こんなバリア……跡形もなく壊してくれるわ!」


 ザムは声を上げながら剣に力を込めた。だが、この瞬間にザムに大きな隙ができた。一瞬でも動きを止められることができればいいと思っていた。攻撃するなら、今しかない!


「これで終わりだァァァァァ!」


 ザムは大声を上げながらティノちゃんが発したバリアを粉砕しようとした。だがその前に、ティノちゃんはバリアを消した。


「え……」


 突如バリアが消え、ザムは驚いた表情をした。ザムが振り下ろした剣はそのまま地面に激突し、激しい衝突音を響かせた。


「何……グッ!」


 大きな隙を作らせるかと思っているのだろう、ザムはめり込んだ剣を持ち上げようとしたのだが、力を込めたため剣はかなり奥深くまで地面に刺さり、なかなか持ち上げることができなかった。


(今だ!)


 ヴァーギンさんの声を聞き、私とティノちゃんは息を合わせてザムに近付いた。そして、ヴァーギンさんを振り上げた。


「な……ああ!」


 ザムは情けない声を上げながら、後ろに下がろうとした。だが、動揺しているせいか動きは鈍かった。そのせいで攻撃をかわすことができなかったザムは、この一閃で残った腕を失った。


「グワアアアアアアアアアア!」


 腕を切られたせいか、ザムは大きな悲鳴を上げた。ストッパーブレイクを使って痛覚はないと思われるが、腕を失った感覚はあるのだろう。


(奴にとどめを刺せ!)


 ヴァーギンさんの声に合わせ、私とティノちゃんはヴァーギンさんを振り下ろした。




 次の攻撃で俺は死ぬだろう。そう思い、俺はエクスとティノにこう言った。


(エクス、お前は本当に強くなった。今のお前は俺より強い。俺が死んでも、新しい英雄として世界に名を届かせるだろう)


(ヴァーギンさん……)


(ティノ、最初は気弱な弱虫かと思ったが、今のお前はエクスの大切な相棒として、最強の魔力使いと呼ばれてもいい。ティノが横にいれば、エクスも安心して戦える)


(そんなこと言わないでください。死ぬ寸前みたいじゃないですか)


 ティノの言う通り。俺が言う言葉は死ぬ間際に言う、最期の言葉のようなものだ。実際、次の攻撃で恐らく俺の刃は壊れ、それと同時に俺も死ぬだろう。


(次の攻撃で俺は死ぬ。だから、最期に二人に言葉をかけたかった。二人とも、ジャッジメントライトを倒したい、潰したいという俺の唯一のワガママを果たしてくれてありがとう。二人がいれば、ジャッジメントライトのような裏ギルドはきっと現れないだろう)


(生きてくださいヴァーギンさん! まだ私は……私はヴァーギンさんみたいに強くないのに!)


(エクス、今のお前は俺より強い。自信を持て。そうすれば、お前は誰よりも強くなれる。俺より強いお前にだからこそ言える。俺がいなくなった後、この世界を頼むぞ。英雄、エクス・シルバハート)


 俺は静かにエクスにこう言った。




 ヴァーギンさんが私とティノちゃんに最期の言葉を言い放った。それと同時に、ヴァーギンさんを振り終えた。手ごたえはあった。確実にザムを斬ったという感覚が手の中で伝わった。攻撃を終えた後、当たりは静かになった。しばらくして、ザムの口から小さな悲鳴が上がった。その直後、ザムの巨体が血を流しながらその場に倒れた。


「終わり……ましたね」


「ええ」


 私とティノちゃんは手にしていたヴァーギンさんを見た。刃は壊れ、握り手だけが残っていた。脳内で何度もヴァーギンさんの名を呼んだが、返事はなかった。


「ヴァーギンさん……」


 残った握り手だけを見て、私は涙を流し始めた。ティノちゃんは両膝を突き、手で顔を覆った。


「全て……終わったんです……ね……」


 小さくそう言うと、私は残った握り手をポケットの中に入れた。その直後、大きな爆発音が響き、激しい揺れが発生した。


「な……何ですかこれは!」


「残ったデリートボンバーが爆発したかもしれないわ! 早くここから逃げましょう!」


 私はティノちゃんの手を握り、急いで壁へ向かった。


「ちょっと待ってて!」


 そう言うと、私はネメシスソードを手にして素早く振り、壁を斬り壊した。


「ここから外に出るわよ。ティノちゃん、ちゃんと私に抱き着いていて!」


「はい!」


 ティノちゃんは私の背に抱き着いた後、私は勢いを付けて外に向かって走り出した。高めのジャンプをしてジャッジメントライトのアジトから外に飛び出たが、それと同時に激しい爆発音が発生し、その衝撃で宙にいる私とティノちゃんは遠くへ吹き飛ばされた。


「うわァァァァァ!」


「キャァァァァァ!」


 私とティノちゃんは悲鳴を上げながら吹っ飛び、少し離れた木の上に落ちた。


「いたた……ティノちゃん、木の枝とか刺さってない?」


「大丈夫です。こんな所まで吹き飛ばされるなんて……」


 どうやら、ティノちゃんは無事のようだ。よかった。私が安堵の息を吐くと、下から声がした。


「おーい! エクスさんとティノさんを見つけたぞー!」


「おーし、今すぐ助け出せ! 怪我があるかもしれないから慎重になー!」


「了解しましたー!」


 どうやら、ギルドの人たちが吹き飛んだ私とティノちゃんを見て、救助に来てくれたようだ。いやー、本当によかった。精神的にも肉体的にもきつい状態だったから、体を動かすのがやっとの状態だから、本当に助かった。




 何とか俺は生きている。ザムに一閃を与えた時、刃は天井に突き刺さったのだ。だが、爆発する中で刃は完全に砕け、ボロボロになって俺は死ぬだろう。だが、それが運命ならそれを受け入れるだけだ。


「ぐ……ぐぐぐ……」


 下から声が聞こえる。ザムの奴がまだ生きているのか、しぶとい奴だ。


「私は……まだ……死ぬわけには……いかぬ!」


 何と、ザムはイモムシのように動き、爆発するアジトから逃げようとしていた。爆発は何度も起きているが、運良くザムが生き残る可能性はある。確実に止めたいが、刃だけになった俺にはどうしようもできない。クソッたれ! 逃げようとする奴を見ることしかできないのか! そう思った直後、刃が少しだけ動いた。どうやら、浅く刺さっただけのようだ。それから刃は回転しながら落ちて行った。そして、刃の先端は逃げようとするザムの背中の奥深くに刺さった。


「が……ああ……そんな……バカな……」


 この一撃で致命傷になっただろう。ザムは苦しそうな声を上げた。


「こんなことが……あって……いいのか? 私は……正義のために……」


(運がなかった、ザム・ブレークファスト)


 俺がこう言うと、ザムは驚いた表情で辺りを見回した。


「だ……誰だ! 誰かそこにいるのか!」


 おっと、突き刺さったとはいえ、俺に触れているから俺の言うことが分かるようになったのか。


(俺が誰だか分からないようだな)


「だから誰だお前は! 脳内で声が響く……私は……死ぬのか」


(そうだ。お前はここで俺と一緒に死ぬんだよ。ザム・ブレークファスト)


「ふざけるな! 名乗らない奴と一緒に死んでたまるか!」


(それもそうだな。一緒に逝く以上、名前を教えた方がいいな。俺はヴァーギン・カリド。英雄と言われた男だ)


 俺がこう言うと、ザムは絶望した表情になった。


「ヴァーギン……カリド? お前は死んだはずでは!」


(確かに俺は死んだ。だが、俺は剣となって生き返り、剣となってあの世へ還る。お前と一緒にな!)


 俺が奴に向かって叫んだ直後、かなり大きな爆発が発生した。それにより、俺たちがいる床は崩れ、その上から天井が落下してきた。


「そんな、嫌だ! 私はまだ死にたくない!」


(お前のような奴のワガママはかなうことはない。世の中、悪人の言うことはかなわない仕組みになっているんだよ!)


「嫌だ……嫌だァァァァァ!」


 爆発音と共に、ザムの情けない声が響いた。そして、俺とザムは天井に押し潰された。


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