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ヴァーギンの危機


 エクスは俺を見て驚いた表情をしている。そうか、刃の傷が広がったのか。アソパの攻撃によって傷ができ、シクや今のザムとの戦いのせいで傷が広がってしまったのか。仕方がない。俺は剣だ。物だ。どんなに大事に扱っても、いずれ壊れる時が来る。


(ヴァ……ヴァーギンさん……傷が……)


 エクスはかなり動揺しているようだ。俺は呆れながら言葉を返した。


(隙がでかいぞ。身構えろ、ザムが来る)


 エクスは俺の言葉を聞き、迫りくるザムの方を睨んだ。ザムの接近を察したエクスはすぐに次の行動をとった。ネメシスソードに持ち替えてザムに攻撃を仕掛けたのだ。俺を鞘に納めたが、使った時の衝撃で傷が広がるのを防ぐつもりか。


「武器を持ち換えたようだが、どんな理由があっても私を倒すことはできぬ!」


「死にかけがうるさいわね! いい加減諦めて倒れなさい!」


 エクスはネメシスソードを振り払い、ザムを後ろに下がらせた。そして、魔力を解放して風を放って攻撃を仕掛けた。


「ウグッ! 魔力を使ったか!」


「あんたを倒すためなら何だってするわよ」


 そう言って、エクスはネメシスソードを構えてザムに向かって突進した。ザムは突進してくるエクスを見て、高く飛び上がった。


「そんな攻撃を受けてたまるか!」


「じゃあティノちゃんの炎の拳骨を受けなさい」


 エクスの言葉を聞き、ザムははっとした表情で上を見上げた。そこには、大きな炎の拳が浮いていた。


「今よティノちゃん! ドカンって一発やっちゃって!」


「はい!」


 ティノはエクスの声に合わせ、炎の拳をザムに向けて落とした。ザムがいるのは空中。たとえ受け止めることができても、ダメージを負ったザムはこの攻撃をどうすることもできない。俺の予想通り、炎の拳を受けたザムはそのまま床の上に激突した。


「ガァッハァッ!」


 強烈なダメージを受けたのだろう、ザムの口から痛々しい悲鳴が響いた。炎の拳が消え、焼け焦げた床の上にはザムだけが残った。


「う……ぐう……クソ……」


 ザムは立ち上がろうとしたのだが、エクスがザムの左足の太ももをネメシスソードで突き刺した。


「うぐっ!」


「このままあんたの左足を斬り落としてやるわ。歯を食いしばりなさい!」


「グッ……そうはさせるか!」


 ザムはエクスの方に左手を向けて雷を発した。エクスはネメシスソードから手を放し、後ろに下がって雷をかわした。エクスが攻撃を受けることはなかったが、そのせいでエクスの攻撃が中断された。


「私の左足を斬り落とさせてたまるか。もし斬り落とされても……魔力ですぐにどうにかしてやるがな」


 そう言いながら、ザムは左足の太ももに突き刺さったネメシスソードを抜き取り、すぐに止血した。エクスはザムを睨みながら、俺にこう言った。


(ヴァーギンさん、傷の方は大丈夫……じゃあ、なさそうですね)


(ああ。下手に使えば傷は広がって……いずれ壊れるだろう)


(そうなったら、ヴァーギンさんはどうなるんですか? やっぱり……死ぬのですか?)


(多分な。だがま、いくら大事に扱っても、壊れる時は壊れる)


 俺は死ぬ覚悟ができている。だから、どんどんエクスに使ってもらいたい。だが、エクスは俺を失うことを覚悟できていないのか、俺を手にすることはしない。仕方ない。肩を押すか。


(エクス、俺を使え。使ってくれ。俺はジャッジメントライトを倒すために、剣となって蘇ったんだ。だからエクス、俺を使ってくれ)


(う……ぐう……ヴァーギンさん……)


 エクスはかなり悩んでいるようだ。それもそうだな。俺が剣になったのも、エクスを守って死んだから。俺が死んだことに対し、エクスは責任を感じているんだ。もう一度俺が死ぬことになると、エクスはまたあの時と同じように苦しい思いをするだろう。


(ヴァーギンさん……もし、このままヴァーギンさんを使ったとしても……ヴァーギンさんは……)


(エクス、どうあがいても俺はいつか壊れる運命にある。大きな責任を感じるのは分かる。だが……俺としてはお前とティノが死ぬ方が嫌だ。俺は一度死んだ身だ。俺を使って、ジャッジメントライトを潰してくれ)


(うう……いいんですか?)


(ああ。俺はもう覚悟を決めている。だから迷うな。俺を使え)


 俺はエクスにこう言った。エクスはしばらくした後、俺に手を伸ばし、鞘から抜いた。


(行け、エクス。俺を使ってザムを倒してくれ)


(はい)


 俺がこう言った後、エクスは俺を構えてザムに向かって走り出した。




 私はヴァーギンさんを持ち、ザムに向かって走って行った。さっきの攻撃でザムはそれなりにダメージを受けたはず。そして、それなりに魔力を使い、治癒するほどの余裕がないだろう。私はそう思っていた。


「グッ……まだ来るか……」


 ザムは苦しそうな顔で左足の太ももの治療を行っていた。まだ治療をしているので、魔力に余裕がないと思われる。倒すとしたら、今しかない。


「はぁぁぁぁぁ!」


 私は高く飛び上がり、ザムに向かってヴァーギンさんを振り下ろした。ザムは治療を止めて私の攻撃を防御した。激しい金属音が響いたが、徐々にザムを押していった。奴から力を感じない。やはり、力を使いすぎたのだろう。


「ぐ……ぐぐぐ……」


「頑張りすぎたんじゃないの? さっきより力が弱くなっているわよ」


「う……うるさい!」


 ザムはそう言って魔力を解放して私を追い払おうとした。だが、その直後にティノちゃんがザムの足元からドリル状の風を発した。


「グアッハァ!」


 ドリル状の風はザムの腹を貫きつつ、そのまま上へ吹き飛ばした。攻撃を受けたザムは体を回転させながら落ちて行き、床の上に激突した。その時、ザムから魔力を感じなかった。落下した際、大きなダメージを負ったはずだ。


「ぐう……クソ……クッソォォォォォ!」


 続けて大きなダメージを受けたせいか、ザムは怒りを爆発させた。


「お前らは絶対に許さん……ここで必ず殺してやる!」


「悪いけど、死にかけている奴が私とティノちゃんを倒せるとは考えにくいわ。倒れるのはあんたの方よ」


 私はヴァーギンさんを振るい、ザムに攻撃を仕掛けた。ザムは素早く私の攻撃を剣で対処し、私に反撃を仕掛けた。


「死ね!」


 早い突きだ。私は間一髪のところで攻撃をかわしているが、ザムの攻撃はまだ続く。その時、ティノちゃんがザムの攻撃を止めるために雷の槍を放った。


「攻撃を止めるつもりか? 無駄だ!」


 ザムは私に攻撃しつつ、ティノちゃんの方に振り返って雷の槍を左手で掴み、そのまま握り潰した。だが、ティノちゃんはこうなることを予測していたのか、にやりと笑みを浮かべた。


「そうすると思いましたよ」


 そう言うと、ティノちゃんは雷の槍の破片を動かし、ザムに向かって動かした。破片を受けたザムは悲鳴を上げながら、その場で片膝をついた。


「エクスさん! 今です!」


 ティノちゃんの声を聞き、私は急いでヴァーギンさんを振り上げた。


(エクス、奴にとどめを刺してくれ!)


 ヴァーギンさんは、次の一撃で戦いが終わると察しているようだ。ティノちゃんも、頷いて私の方を見た。この一撃で全てを終わらす。そのつもりで攻撃しないと!


「ザム・ブレークファスト! あんたはここで倒れなさい!」


 私は叫びながらヴァーギンさんを振り下ろした。だがその直後、いきなり爆発音が響き渡った。




 いきなりなんだ! 俺は驚きながら周りを見た。建物が爆発している! どうしてだ? 俺は考えたが、すぐにその答えを出した。ギルドの戦士がデリートボンバー、ストッパーブレイクを製造する部屋を爆発させているんだ。だが、ギルドの戦士たちは俺たちの元へ来て、ザムにやられた。ということは、時限爆弾のようなデリートボンバーを使ったと言うわけか。


「うわわわわわ! 建物が崩れる!」


「キャアアアアア! 床が斜めになりました!」


 エクスとティノは慌てながら転ばないように態勢を保っていた。ザムも傷やダメージを負った体で転倒しないように踏ん張っていたが、途中で態勢を崩して倒れてしまった。


(グッ……あと少しだったのに!)


 俺が悔しそうにこう呟くと、更に爆発が発生した。


「グッ……いつこの爆発が止むのかしら……」


 エクスがこう言った直後、大きな音を立てながら床が崩壊し、俺たちは下の階に落ちて行った。


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