エクスの怒り
ティノちゃんが刺された。ザムの手によって。私がザムの野郎の電撃を受けて感電している隙に……刺された。
「さて……次はお前だ、エクス・シルバハート。相棒がいるあの世へ送ってやろう。どうだ? 私は優しいだろう。感謝しろよ」
ザムの野郎はクソみたいな笑みを浮かべながら私の方を振り向いた。あの野郎……あのクソ野郎!
「このクソ野郎がァァァァァァァァァァ!」
私は叫びながら魔力を解放した。今はとにかく、あのクソ野郎を斬りまくりたい! あのクソ野郎をぶっ殺したい!
ティノはザムの手によって刺されてしまった。だが、ティノは死んでいない。かすかに魔力を感じる。ティノは刺された直後、ザムが察しないように回復を行っていた。ザムはティノが回復をしていることに気付いていないが、エクスもこのことに気付いていない。そのため、エクスはティノが死んだと勘違いしている。
「フッ、相棒を殺されて血迷ったか。エクス・シルバハート!」
ザムは剣を持ってエクスを睨んだ。エクスはザムに対し、強い殺意を抱きながら俺を振るった。ザムは剣を使ってエクスの攻撃を防いだのだが、俺の刃はザムが持つ剣の刃にめり込んだ。
「何! 私の剣に傷が!」
刃に傷が入ったことを知ったザムは驚いた表情をした。その隙に、エクスは左手に持つネメシスソードでザムの腹を突いた。
「グファッ!」
攻撃を受けたザムは、苦しそうな声と共に血を吐いた。大きなダメージを与えたのだろう。その後、エクスは魔力を解放し、ネメシスソードに魔力を流した。
「ズタズタにしてやるわよ。クソ野郎!」
と言って、エクスはネメシスソードの刃から無数の風の刃を放った。ゼロ距離で、なおかつ内側から風の刃を受ける形となったため、ザムは大きなダメージを受けることになった。
「ガァァァァァ!」
大きな声を上げながら、ザムは後ろに吹き飛んだ。吹き飛ぶ際、無理矢理という形で腹からネメシスソードの刃を抜いたため、その時もダメージを負っただろう。この短い時間で、ザムは致命傷に近いダメージを負ったはずだ。
「グガッ! ウググ……グフゥ!」
苦しそうな声を上げながらも、ザムは立ち上がった。体中から痛みを感じるせいか、奴は両手を動かすこともしなかった。魔力を解放することも難しいのだろう。
「この野郎……ぶっ殺す! 何が何でもぶっ殺す!」
あれだけの攻撃を続けても、エクスは怒りを収めていない。まぁ当然のことだろう。エクスはティノが死んだと勘違いしているのだからな。エクスはザムに近付いて蹴り倒し、上乗りになってザムの顔面を殴り始めた。
「この野郎! 返せ! ティノちゃんを返せ! 無理ならこのまま死んじまえクソ野郎!」
エクスの激しい怒りを感じる。だが、このままでは危ない。いずれ、ザムが魔力を解放して攻撃を仕掛ける。今のエクスはザムを攻撃することしか考えておらず、防御のことなど一切考えていない!
(エクス! 十分殴っただろ、このままとどめをさすんだ!)
「嫌です! まだ殴りたいない! この野郎をもっと殴らせてください! まだ、私の気が済んでいません!」
エクスは大声で叫びながらこう言った。まずい、冷静さを失っている! それに、開放している魔力も大きく、強くなっている。このまま魔力を強く開放し続けると後で魔力が尽きて、負ける確率が高くなる!
「これ……以上……私を殴るなァァァァァ!」
俺が予想していた嫌な流れが当たってしまった。ザムは魔力を解放してエクスをどかし、それと同時に受けた傷も治してしまった!
「この野郎! やるんだったら死ぬまでやるわよ!」
エクスは更に魔力を解放し、ネメシスソードを構えてザムに向かって走り出した。
(オイ待て! 今のザムに突っ込んだら何をされるか分からんぞ!)
「構いません! あの野郎を殺すまで私は走る!」
「さっきから何独り言を言っているのだ貴様はァァァァァ! 私との戦いに集中しろォォォォォ!」
ザムは剣を投げてエクスに攻撃を仕掛けた。エクスは飛び上がって飛んでくる剣をかわし、ザムに向かって斬りかかった。
「死ねェェェェェ!」
エクスは隙だらけのザムに対し、殺すつもりでネメシスソードを振り下ろそうとした。だが、ザムが投げた剣はブーメランのようにザムの元へ戻っていた。その時、ザムの剣はエクスの背中に突き刺さった。
「冷静さを失ったな、エクス・シルバハート。まだ若く、愚かな証拠だ」
勝負あったと思ったのか、ザムは笑いながらエクスを見た。攻撃を受けたエクスは一瞬だけ動きを止めた。その後すぐ、エクスはザムに向かってネメシスソードを振り下ろした。
「な……に……」
怒りの攻撃を受けたザムは、血を流しながら後ろへ下がった。エクスはよろつきながらもザムに向かって歩き、ネメシスソードを再び振るった。
「死んどけクソ野郎!」
二度目の斬撃が放たれた直後、ザムは少しだけ後ろに下がった。このせいでザムは斬撃をかわすことができたのだが、ネメシスソードの先端がザムの体を少しだけ傷付けた。
「グッ! クソッ!」
攻撃を受けたことを察したザムは、左の拳でエクスを殴り飛ばした。殴られたエクスは地面を転がりながらも立ち上がった。その時、エクスの背中に突き刺さっていたザムの剣は地面の上に落ちていた。
「おっと、私の剣が」
ザムは転がった自身の剣を取ろうとしたのだが、その前にエクスがザムの剣を拾い、ザムの腹に向かって突き刺した。
「テメーの剣の切れ味を味わっとけ!」
と言って、エクスは更に奥深く、ザムの腹に剣を突き刺した。
「この……クソ女が……私の剣を使うとは……
攻撃を受けているザムは、顔を震わせながらエクスを見た。かなりのダメージを負っているようにみえるが、まだ強い魔力を感じる。普通の戦士……いや、人なら腹に深く剣が刺さったら致命傷……あるいは命を落とすかもしれない。その上、魔力を解放する余裕もないだろう。なのに、魔力を解放していやがる!
「ここまで私を傷付けたのはお前が初めてだ、エクス・シルバハート!」
ザムは前にいるエクスの頭を掴んだ後、上に持ち上げた。そして、腹に突き刺さっている自身の剣を引き抜き、エクスの腹に突き刺した。
(エクス!)
俺はエクスの名を叫んだ。だが、エクスは返事をすることはなかった。
ごめんね……ティノちゃん。冷静になって戦えって自分で言っているけど……できなかった。怒りで我を忘れた結果が……これだもんね。
(エクス! エクス! 返事をしてくれ!)
ヴァーギンさんが私の名前を叫んでいる。だけど……返事をする余裕がない。魔力も使いすぎた。怒りに任せて派手に動きすぎたせいか体力もない。その状態で剣が腹に突き刺さったから……何もできない。
「多少は楽しめたぞ……エクス・シルバハート」
あの野郎はそう言って、私をティノちゃんが倒れている場所に向かって投げ飛ばした。ティノちゃんと共に葬るつもりなのだろう。ムカつくが……これ以上は何もできない。私はかすむ目で、ティノちゃんの顔を見た。口は開けっぱなし、目もうつろ。もう死んでいるのだろう……ごめんね……私なんかと一緒にいたから……こんな酷い死に方を。
「……さん。エクスさん」
幻なのだろうか。かすかにティノちゃんの口が動いたように見える。それに、ティノちゃんの声も聞こえた。先に死んだティノちゃんが私のことを呼んでいるのだろうと思い、私は目をつぶった。
「目を開けてください……エクスさん」
いや……これは幻聴じゃない。現実にティノちゃんの声が聞こえている。
「私は死んでいません……やられたふりをしています……大きな傷を負いましたが……」
私は驚いた。剣が突き刺さったはずのティノちゃんが生きているのだから。だけど、ザムの野郎のせいで負ったダメージが大きく、動けないようだ。
「傷を負った直後……ザムが察しないように傷を治していました。まさか、エクスさんも気が付かなかったのは予想外でしたけど」
「そうだったのね……でも……ごめんね、そこまでの時間を稼げなかった」
私はザムが私とティノちゃんの所に近付いてくる足音を聞きながらこう言った。だけど、ティノちゃんの口元はにやけていた。
「大丈夫です……一気に魔力を使うレベルまで回復しました。近付いた瞬間に、エクスさんをすぐに治します」
「うん……分かった」
私がこう言った直後、ザムは私とティノちゃんに向かって高く飛び上がった。まずい、すぐに攻撃するつもりだ!




