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傷付いた刃


 エクスが俺を拾い上げ、まじまじと見ている。どうやら、あのことがばれてしまったかもしれない。エクスを心配させないように刃の傷のことを隠していたのだが、隠しごとは長く続かないもんだ。


(ヴァーギンさん、この傷ってさっきの爆発でできた傷ではありませんよね? さっきできた傷だとしても、少し間が空いているように見えます)


(ああそうだ。アソパと戦った時にできた。心配させないように黙っていたんだが……)


(もし……この傷が広がって壊れたら……ヴァーギンさんはどうなるんですか?)


(もう一度死ぬかもしれないな)


 俺がこう言うと、エクスは黙って俺を鞘に納めた。少し怒らせてしまったかなと思ったが、不意にエクスが俺にこう言った。


(ヴァーギンさん。これからはネメシスソードを使います。これ以上ヴァーギンさんを使ってしまったら……死んでしまうので)


(俺は一度死んでいる。ま、物は使えばいずれ壊れる。俺もいつか、そうなる運命だったんだ)


(だとしても、また私の目の前でヴァーギンさんが死ぬなんてことは……そんなことは……)


 エクスの目が潤んでいる。泣きそうだ。この時の顔を見て、俺は出会った時の弱気なエクスのことを思い出した。経験を積んで俺以上の才能を持つ剣士となったエクスだが、まだ弱い部分があるようだ。


(俺のことは気にしないでくれ。どんなに長く、大事に使ってもいずれ別れる時が来る)


(だけど……)


(気にしないでくれって言ったじゃないか)


 俺はエクスに優しく語りかけた。エクスがどれだけ俺を大事に思ってくれているかよく分った。俺を死なせてしまったという責任感を今でも感じているのだろう。その気持ちだけで、俺は十分満足だ。しばらくすると、後ろから足音が聞こえてきた。ティノとギルドの戦士たちがやって来るのだろう。


(ティノたちが来るぞ。この状況を伝えてくれ)


(はい……分かりました)


 エクスは気を取り戻したのか、少しだけ声の口調が元に戻った。いつものエクスに戻れたのならいいんだがな。




 ヴァーギンさんがもう一度死んでしまうかもしれない。私はそう思ったのだが、いずれそうなる運命だとヴァーギンさんは語っていた。私はまだ未熟だ。もう少し私の成長をヴァーギンさんに見せたかった。これからも、ずっと。だけど……それは叶わないことなのかな?


 私は涙を拭き、後ろの足音を聞いて振り返った。そこには、ティノちゃんとギルドの戦士たちがいた。


「エクスさん! さっきの爆発音は一体なんですか?」


「心配かけてごめんねティノちゃん。シクの奴が義腕のキャノン砲を使おうとしてたの。それを邪魔しただけ」


 私がこう説明すると、ギルドの戦士が倒れているシクに近付いて様子を調べた。


「本当だ。義腕の手の所がキャノン砲になってるぞ」


「何かがここに入って、発射の邪魔をしたんだな」


「気を付けろ、この女まだ生きてるぞ」


 ギルドの戦士たちの話を聞き、ティノちゃんは黒焦げになったシクを見て驚いていた。


「あの人は確か幹部の一人でしたよね。倒したんですね」


「うん。ベトベムの戦いで傷を与えてたせいか、結構楽に倒せたわ」


 私がこう言った後、突如強い魔力を感じた。


「どうやら、さっきの爆発を敵も察知したようね」


「誰かが来るんですか?」


「ええ。だけど、普通のジャッジメントライトの戦士じゃないわ。あいつらより、とてつもなく強い魔力よ」


 私はこう言うと、ネメシスソードを手にしていつでも戦えるように構えた。ティノちゃんも杖を持ち、私と背中合わせになって周囲を見回した。


「入口は二つ。私とギルドの戦士たちが来た場所と、その前にある出入口しかありません」


「来るとしたらそこから来るわね。何か変なことをするかもしれないけど」


「ギルドの戦士はどうします?」


「シクを連れて後ろに下がらせて。多分、ギルドの戦士じゃ敵わない相手よ」


「分かりました」


 ティノちゃんは私の話を聞き、ギルドの戦士に向かって下がるように伝えた。私とティノちゃんの緊迫した空気を察したギルドの戦士たちは、急いでシクを連れて下がって行った。これで戦える。


 しばらくして、もう一つの出入り口から男が現れた。背中には大剣を背負っている。その顔を見て、私はアソパを倒した後のことを思い出した。ザムたちが来た時に、この男も来ていた!


「まさか、シクを倒すとは思いもしなかったよ」


「あんた、確かアソパを倒した時にザムと一緒にいたわね。幹部の一人?」


「その通りです。私はレパンと言います」


 レパンは大剣を手にし、私とティノちゃんの方を向けた。


「シクがやられた以上、私が戦うしかありませんね」


「そんなもん持って戦うつもり?」


「これが私に合った武器なので。では、参りますよ」


 と言って、レパンは私に向かって走り出した。大きな大剣を持っているのに、こいつの足は速い。あっという間に私との距離を詰めた。


「ふん!」


 レパンは力を込めて、私に向かって大剣を振り下ろした。私はネメシスソードを使って攻撃を受け止めたが、重い一撃を受けて私は後ろに下がった。


「片手剣ながらも、かなり頑丈な刃ですね。普通の市販の剣ならへし折るんですが」


「ネメシスソードをそこらへんで売ってる剣と一緒にしない方がいいわよ」


「そうですか。その剣は特殊な素材でできていると言うわけですね」


 レパンは大剣を構え、ティノちゃんの方を向いた。狙いを変えたつもりか。私はすぐにレパンの方へ走り出し、飛び蹴りを放った。私の蹴りはレパンの顔に命中。蹴りを受けたレパンは悲鳴を上げながら後ろに下がった。その攻撃に合わせ、ティノちゃんは杖から蛇のように大きく動く炎を発した。


「追撃か!」


 ティノちゃんが発した炎を見て、レパンはすぐに立ち上がり、大剣を手にして炎を払って消そうとした。だが、私がその隙を突いてレパンの腹に向かってネメシスソードを振るった。


「何!」


 私の攻撃を察したレパンは大剣の刃を下にし、私の攻撃を防いだ。その時、ティノちゃんが発した炎がレパンに命中した。


「ぐおおおおお!」


 レパンは炎に包まれたが、悲鳴を上げながらその場を転げまわった。それで火を消すつもりか。私はそう察し、転がるレパンに向かってネメシスソードを振り下ろした。だが、レパンは靴を使って私の攻撃を防御した。


「この靴、硬いわね」


「激しい戦いのために、頑丈に作ったんですよ」


 そう言って、レパンは立ち上がった。炎を浴びてダメージを負ったと思ったが、あまりダメージを負ったようには見えない。


「さっきの炎、それなりに強いと思ったんですが」


「魔力を使えばそれなりにダメージを抑えることができます。それに、あの程度で私を倒せるとは思わない方がいいですよ。私はシクや死んだアソパより強いので」


 レパンはそう言って、大剣を構えて私に向かって振り下ろした。私は後ろに下がって攻撃をかわした。だが、レパンの動きは予想より早い。大きくて重い大剣を使っているはずなのに、その動きは普通の剣を使っているかのように早い。


「グッ! 早い!」


「そりゃそうですよ。私はこいつを使って何年も戦って来たんですよ。その分、私は強くなったんでね!」


 と言って、レパンは魔力を込めて大剣を振り下ろした。この攻撃を受けることはなかったが、大剣の刃が床に当たった直後、無数の小さな床の破片が私に襲い掛かった。ぐっ! これじゃあ前が見えない!


「隙あり」


 この隙を突いて、レパンが攻撃を仕掛けてきた。だけど、ティノちゃんが風の刃を放ち、レパンに攻撃を仕掛けた。レパンは大剣を盾にして風の刃から身を守り、後ろに下がった。


「エクスさん! 今のうちに態勢を整えてください!」


「ありがとうティノちゃん!」


 私は目を拭き、ネメシスソードを構え直した。レパンは私とティノちゃんを見て、深くため息を吐いた。


「エクス・シルバハートとティノ・オーダラビト、話に聞いた通りいいコンビですね。だけど……本気を出した私を相手に、二人で勝てますかねぇ?」


 と言って、レパンは静かに魔力を解放した。


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