シクのリベンジマッチ
今のところ、エクスが有利な状況で戦っている。ベトベムでの戦いでしばらく間が開いたが、その間のおかげでエクスはそれなりに疲れと傷が癒されたのだろう。途中、ジャッジメントライトの戦士と戦ったが、エクスの敵ではなかった。一方でシクは大きなダメージを受けた上、エクスの手によって左腕を失った。だが、空いた間でシクは義腕を手に入れている。小剣は片手でも使えるが、いざという時は両腕を使う状況もある。義腕で武器を使えるかどうか分からないが、とにかくベトベムと戦った時のようにシクは戦えないだろう。
「それっ!」
エクスは声を出しながら、ネメシスソードを振るっていた。シクは後ろに下がって攻撃をかわしつつ、エクスの隙を見ていた。だが、エクスに隙はなかった。
「悔しそうな顔をしているわね。素直に負けを認めたら、右腕は斬り落とさないであげるわよ」
「ふざけたことを言わないでよ、あんたは私が殺す!」
挑発を受けたシクは、エクスに向かって小剣を突いた。エクスはこの攻撃をかわし、挑発するように笑った。
「しょぼい攻撃ね。そんな攻撃が私に当たると思う?」
「こ……この! ふざけるな、クソ女!」
シクは魔力を解放し、何度もエクスに攻撃を仕掛けた。エクスは魔力が込められた攻撃を全てかわし、後ろに下がって再びにやりと笑った。
「ざーんねーんでーした。かすりもしなかったわよー」
シクをバカにするような口調でこう言いつつ、エクスはふざけたポーズをとった。シクは怒りで体を震わせ、それと同時に開放している魔力の量を増やした。少し不安になった俺はエクスにこう言った。
(エクス、あまりあいつを挑発するな。逆にやられる可能性があるぞ)
(大丈夫です。今のシクは私の敵ではありません。怒りで我を忘れています)
(それはそうだが……)
(そんな状態で戦うのは得策ではない。今までの戦いを経験し、私はそれを学びました)
(ああ。だが、相手が何をするか分からない。エクス、慎重に戦えよ。何かのタイミングで、こっちが窮地に陥ることがあるからな)
俺はエクスにそう言った。エクスは分かったと返事をする代わりに、頷いた。
散々私にバカにされたか、シクは怒りをあらわにしていた。
「この女……絶対に……絶対にぶっ殺す!」
そう言って、シクは猛スピードで私の近くに接近した。ま、そう来るだろう。私はそう思いつつ、しゃがんでシクの足を蹴って払った。
「あがっ!」
足払いは命中。シクは無様な格好で床に倒れた。
「あらまぁ。さらにみっともない姿になったわねぇ」
私は笑いをこらえながらこう言った。これで、シクは更に挑発を受けていると察しただろう。体の震えが早くなった。
「この女! これ以上ふざけたらぶっ殺すわよ……いや、絶対にぶっ殺す!」
「女性がそんな物騒な言葉を言わない方がいいわよー」
私は後ろに下がりつつ、シクにこう言った。ま、こんな言葉がシクに届くわけがないだろう。私がそう思っていると、シクは魔力を解放してジグザグに走り出した。これで私の目をごまかしていると思われるが、まぁ、すぐに動きを見切ることができた。
「そこだ!」
シクは素早く私の背後に回り、小剣で私の体を突こうとした。だが、そんなことをするのはお見通し。私は振り返りつつ、ネメシスソードを振るった。私が反撃することを予測していなかったシクは驚いた表情をし、私を見ていた。
「見ているだけじゃ、斬られるわよ」
私の言葉を聞き、シクは我に戻った。だが、遅すぎた。ネメシスソードの刃はシクの胸の上に命中し、そのまま切り裂いた。
「ギャアアアアア!」
シクの口から痛々しい悲鳴が放たれた。この反撃を受け、相当なダメージを受けたのだろう。私は後ろに下がり、シクの様子を見た。
(傷を与えたが、今、シクは魔力を解放している。すぐに治すかもしれないぞ)
(そうですね。でも、その分魔力を消耗するので、今後の戦いが楽になるかもしれません)
確かに傷を受けたシクはすぐに治すだろう。だけど、その分魔力を消耗する。それに、シクは魔力を解放し続けた状態で攻撃を続けたため、それなりに魔力が減っている。たとえ回復しても、魔力がなければ戦うことはできない。
「この……クソ女!」
回復を終えたシクは水を発し、私に攻撃を仕掛けてきた。私は柱の裏に隠れ、飛んでくる自ら身を守った。
「チッ……だが、攻撃はまだ終わっていないわよ!」
シクはそう言うと、何かを始めた。柱を見ると、付着したシクの水が私の元に近付いていた。まずいと思った私はその柱から離れたが、その前に水が私に向かって飛んだ。
「仕方ないわね」
私はバリアを張り、水の動きを注意しながら見た。シクが放った水は途中で鋭い氷柱に凍り、私に向かって飛んだ。かなり速い速度のせいか、バリアを貫いた。
(あの女、これだけ鋭い氷柱を作れるとは……)
(コテンパンにやられていますけど、シクはジャッジメントライトの幹部の一人。その程度の実力を持っているんでしょう)
私はヴァーギンさんにこう言いながら、次々と飛んでくる氷をかわしていた。今まで氷を飛ばして攻撃してくる水の魔力使いと何度も戦った。だが、シクはそいつらよりもかなり強い。怒りで我を忘れてはいるが、まだ冷静さを保てる余裕があるのだろう。
「エクス・シルバハート、この技であの世へ送ってあげるわ!」
シクはそう言うと、両腕を広げながら魔力を解放した。その直後、周囲に無数の氷柱が発生した。
「ありゃま。そんな技があるのね」
私がそう言うと、無数の氷柱は私に向かって飛んで来た。仕方ないと思いつつ、私は右手で持っていたネメシスソードを左手に持ち替え、空いた右手にヴァーギンさんを握った。
(俺を使うのか?)
(ええ。ちょーっとこればかりはきついので)
私はそう答えると、飛んでくる無数の氷柱に向かってネメシスソードとヴァーギンさんを振るった。
「がむしゃらに剣を振るっても、意味がないわよ。いずれ、氷柱の一部はあんたに突き刺さる!」
と、シクは得意げにこう言っている。まぐれで氷柱の一部が私に刺さることを期待しているようだが、そんなまぐれは起きない。飛んでくる氷柱の動きは見切っている。ネメシスソードとヴァーギンさんを使えば対処できる。だが、氷柱を斬り落としてばかりでは次の攻撃を行うことができない。ティノちゃんたちが私の戻りを待っている。さっさとシクを倒さないと。だけど、ここで焦ったらシクの思うつぼ。氷柱の一部が当たってしまう。さて、どうしようか。シクの魔力切れを待つか? 長時間氷柱を放つことはできない。ちょっと待て、よく考えるんだ私。飛んでくる氷柱は細くて丈夫。これなら少量の魔力でも作ることができる。厄介だ。これだと、魔力切れを起こすのに時間がかかる。
(エクス、早々にシクとの戦いに決着をつけるためには、無理矢理動くことも必要だぞ)
(無理矢理ですか……そうですねぇ)
ヴァーギンさんの言葉を聞いた私はある作戦を思いつき、魔力を解放してバリアを張った。
「バリアを張っても無駄ってことを忘れたの?」
バリアを張った私を見て、シクはバカにするような感じで笑いだした。バカな女だ。わざとバリアを張ったのは戦いを終わらすためなのに。私はバリアを張りつつ、シクの元へ走り出した。
「なっ……え? このまま突っ込むつもり?」
私の予想外の行動を目の当たりにしたせいか、シクはかなり動揺していた。そのおかげで、一瞬だけ氷柱の量が減った。動揺したせいで、開放している魔力を弱めてしまったようだ!
「隙あり。あんた、油断しすぎだよ!」
私の言葉を聞き、シクははっとした表情で再び魔力を解放しようとした。だが、私の方が早かった。私はすでにネメシスソードとヴァーギンさんを構え、シクの近くにいたのだ。
「しまった……」
「これで終わりにするわ。覚悟しなさい!」
私はそう言ってネメシスソードとヴァーギンさんを同時に振るった。二つの刃はシクに命中し、深い傷を与えた。これでシクはもう戦えないだろう。
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