二度目の襲撃の結末
体とプライドが傷付いたシクは、もうエクスの敵ではない。傷付いた体でエクスに襲い掛かろうとするシクだが、俺から見ても限界に近い……いや、限界を超えていると判断できる。そんな状態で攻撃を仕掛けても、動きを見切られて反撃を受けるだけだ。エクスの挑発を受け、冷静ではないシクは分かっていないようだが。そんなシクに対し、エクスはネメシスソードを振るった。
「がっ!」
「終わりね」
攻撃を終えた後、エクスはネメシスソードに付着したシクの血を魔力で吹き飛ばすと、ネメシスソードを鞘に納めた。それからしばらくして、シクの左肩がゆっくりとずれ落ちた。
「な……あ……ああ……そんな」
左肩を失ったことを察したシクは、その場に両膝をついて大きな声で叫んだ。右肩は深く傷が付き、動かすこともできないだろう。これで、二人の戦いは終わった。ティノは戦いが終わったと判断し、エクスに近付いた。
「お疲れ様ですエクスさん。傷はありませんか?」
「大丈夫、まだ余裕よ。まだまだ戦えるわ」
エクスは笑顔でブイサインを作りながらティノにこう答えた。そんな中、シクが荒い呼吸をしながら立ち上がった。
「まだ……終わってないわよ……私はまだ生きているわよ。勝手に戦いを終わらせないでよ」
シクの言葉を聞いたエクスは、ため息を吐きながら振り向いた。俺も呆れている。両腕を動かすことができない状況で、まだ戦うというのか。俺は悪党の命などどうでもいいが、死ぬかもしれないのに。
「相手が死ぬまで戦うってのが戦いのルールじゃないわ。それに、私はどんな悪人でも命まではとらないわよ。他のジャッジメントライトの戦士からそう教えてもらわなかったの?」
「うるさい! まだ私は戦える! 戦いはまだ……終わってない!」
シクはそう言いながら、傷付いた右腕を無理矢理動かしながらエクスに近付こうとした。
そんな中、ティノの手によって倒されたジャッジメントライトの戦士が立ち上がり、シクの前に立った。ジャッジメントライトの戦士が立ち上がったことを知ったエクスとティノは驚いたが、シクも同様に驚いていた。
「あんたたち! そこをどきなさい! エクスを……エクス・シルバハートを殺さないといけないのに!」
「シク様! この状態で戦うのは危険です! グウッ……」
「我々も……ティノ・オーダラビトの攻撃で大きなダメージを負いました。ストッパーブレイクを使っても……恐らく……勝てる確率はないでしょう」
「ここは一度引きましょう! こんな状態で戦いを続けたら、我々は敗北します!」
どうやら、ジャッジメントライトの戦士の中に利口な奴がいるようだ。確かに、こんな状態で戦いを続けたら負けるに決まっている。俺もあいつらは大人しく逃げるだろうと思ったのだが、頭に血が上っているシクはそうではなかった。
「逃げる? ふざけんじゃないわよ! まだ戦いは終わっていない! 戦いが終わるのは、どちらかが死ぬときだけよ!」
さんざんエクスにコケにされ、傷を付けられたシクは相当イラついているようだ。エクスはため息を吐き、シクを捕らえようと動いた。だが、その時だった。ジャッジメントライトの戦士の一人が急ぐようにシクの腹を殴ったのだ。
「なっ!」
「えええええ!」
エクスとティノはこの動きを見て、驚いて動揺した。その戦士は気を失ったシクを抱きかかえ、火薬玉のようなものを地面に叩きつけた。まさか、この隙に逃げるつもりか!
(エクス! あいつらが逃げるぞ!)
俺は急いでこう言ったが、遅かった。火薬玉は破裂し、中の煙があっという間に周囲を包み込んだ。
「ゲホッ! ゲホッ! しまった、油断した!」
「今、風を使って煙を吹き飛ばします!」
ティノは急いで魔力を解放し、強風を発して煙を散らせたが、すでにシクとジャッジメントライトの戦士たちは姿を消していた。クッ、逃がしてしまったか!
私たちの隙を見て、あいつらは逃げてしまった。私は急いで周囲を見回し、あいつらの姿を探した。だが、姿を見つけることはできなかった。逃げ足が速い奴。
「とりあえず……一度ギルドへ向かいましょう。騒動がひと段落したし、ギルドからも何か情報があると思うから」
「そうですね。ちょっとだけ疲れましたし、休憩もしましょう」
私とティノちゃんは話を終えて、ギルドへ戻ることにした。ギルドの中にはすでに何人かのギルドの戦士たちが休憩のため戻って来た。中には、担架で運ばれる人もいた。
「さっきの騒動で、傷を負った人もいるようですね」
「あいつら、急に襲って来たからすぐに対応できなかった部分もあるのね」
私は大盛のカルビ丼を食べながらギルドの戦士の様子を見ていた。そんな中、重役らしきギルドの役員が私とティノちゃんに近付いた。
「エクスさん、ティノさん。今後のことについて話があるので、聞いてください」
「会議?」
「いえ。違います。食事をしながらでも話を聞いてください」
重役は私の横に座り、話を始めた。
「あなたがジャッジメントライトの幹部、シクを撃退した後、我々はドローンを使ってどこに逃げたか調べました」
「おお。話が早い」
私は口の中のものを飲み込んだ後、水を一口飲んだ。重役は咳ばらいをし、話を続けた。
「あいつらはベトベムから北西にある山に向かって逃げました。今回の攻撃でジャッジメントライトの戦士は傷付いたと思われましたが、逃走用に待機していた戦士もいたようです」
「まぁ、私とティノちゃんがいるからこうなることを予測していたんでしょう。で、あいつらの居場所は分かったんですか?」
「ああ。今、ドローンの映像が手元のタブレットに映っている。これだ」
そう言いながら、重役の人は私にタブレットを見せた。そこには、山のふもとらしき場所に建っている元は立派だっただろう屋敷が映っていた。ここがあいつらの本拠地か。
「ここは?」
「調べた所、大昔にこの辺りに住んでいた権力者の屋敷だと思われます。今はその一族は滅び、屋敷も放置されて廃墟になっていますが……今は、ジャッジメントライトのアジトとなっているようです」
「そこにザムの奴がいればいいんだけど」
私がこう言うと、ギルドの役員が慌てながら走って来た。
「大変です! これを見てください!」
「これは何だ?」
「あの廃墟の新しい映像です! ドローンを使って詳しいことを調べていたのですが……」
そう言いながら、役員は持っていたタブレットを私たちに見せた。そこには重役のタブレットと同じ廃墟の映像が流れていたが、窓にはザムともう一人の幹部、レパンらしき姿が映っていた。
「あいつら、ここにいるのね」
私は残っていたカルビ丼を一気に口の中に流し込み、大急ぎで食べ始めた。重役は咳ばらいをし、周りを見回した。
「これから、ジャッジメントライトへの追撃を行う! 各自、休憩をしたらすぐに北西の山にある廃墟に向かうこと! 今日であいつらとの因縁に決着をつけるぞ!」
重役がこう言うと、ギルドの戦士たちは勢いよく声を放った。
いよいよジャッジメントライトが滅ぶ時が近付いている。俺の念願が叶おうとしている。俺の故郷を奪い、両親や友を奪ったジャッジメントライトが、今日で滅ぶかもしれないのだ。エクスを守って死んだときは、この願いが叶わないだろうと思っていたが。
(ヴァーギンさん、いよいよジャッジメントライトの最期の時ですね)
エクスが俺にこう言った。そうだ。今日でジャッジメントライトは滅ぶ。あの巨悪さえ滅べば、今後世界を脅かす存在は出てこないだろう。もし、出てきたとしてもエクスやティノがいる。俺がいなくても大丈夫だろう。
(そうだな。エクス、ザムと戦う時になったら必ず俺を使ってくれ)
(ええ。もちろんです。ヴァーギンさんの力を借りるつもりです)
(ありがとう。俺も剣となってしまったが、あいつらを斬ることはできる。思う存分つかってくれ)
俺はエクスにこう言った。だが、アソパの手によって受けた傷が少し気になる。もう少しだ。もう少しでジャッジメントライトを倒すことができるから、それまでもってくれ、俺の刃よ。
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