アソパから受けた傷
エクスが洞窟から戻って来た後、俺たちは師匠の家で休むことになった。エクスとティノは客間、俺は師匠と共に師匠の部屋で寝ることになった。エクスとティノは深夜に師匠がエッチな目的で動くだろうと思い、俺に師匠の見張りを頼んだのだ。
「はぁ、この歳になってヴァーギンと一緒にネンネするなんてのー」
(師匠のことです。寝ている二人に何かエッチなことをすると思いましてね)
「そりゃーするじゃろう。だって、年頃のぴちぴちギャルがいるんじゃよ、手を出すなって言われても無理じゃよ」
(だから野郎しか弟子が来ないんですよ)
俺は呆れながら師匠にこう言った。そんな中、俺はアソパと戦ったある時のことを思い出しながら、久々に痛みを感じていた。
翌日。エクスは朝食を食べた後、支度をしてすぐに洞窟へ向かった。俺はティノに魔力の稽古をつけることにした。だが、ティノは俺が知る魔力の知識や技などをある程度習得している。俺が教えることは何もないと思うが。
今、ティノは静かに目をつぶって魔力のコントロールを行っている。外にいるが、ティノの気配を感じて森に住むモンスターが集まってきている。しかし、誰もティノに手を出そうとはしない。それだけ、ティノから感じる魔力が強いということだ。
長時間ティノは魔力のコントロールを行っていた。長い間、放出する魔力はぶれることはなかったが、疲れからか魔力に乱れが生じた。
「はぁ……まだまだですね」
(全然まだまだではないぞ。二時間微動だにせず魔力を放出していたんだぞ。俺でもそんなことはできなかった)
俺はティノのことを褒めたのだが、まだティノは自分の力に納得していない様子だった。
「もう一度座禅をしつつ、魔力のコントロールをします」
「無理をするなティノの嬢ちゃん。あれだけ魔力を使ったらばてるじゃろうが。休むことも修行の一つじゃよ」
後ろから師匠が団子を持ってやって来た。団子には、たれがかかっている。ティノはそれを見てそっぽを向こうとしたのだが、腹の音は正直だった。
「腹が減ったら修行はできぬ。何も入ってないから安心せい。流石にスケベなわしも非人道的なことはせんよ」
師匠は団子が乗った皿をティノに渡した。ティノは怪しそうに団子を見ながらも、食べ始めた。ティノが団子を食べる中、師匠が話を始めた。
「嬢ちゃん、かなり強くなったの。二時間動かず魔力を出すのは並大抵の魔力使いじゃあできないことじゃ。そんなことができるのは長年修行を積んだ、おいぼれだけじゃ」
「そうですかね? 私はまだ弱いと思っていますが」
「ちったーポジティブに考えるんじゃ。人は急に強くなれん。強さを目指すのに近道なんて存在しない。ゆっくりじっくり修行すれば、いずれ大きな力となる」
師匠はそう言いながらお茶を飲んだ。そして少し間を置いた後、俺の方を見た。
「ヴァーギン、ちょっと手に取るぞ」
(はい)
師匠は俺を手にし、鞘から抜いた。エクスしか俺は抜けないと思ったのだが、師匠でも俺を抜くことはできるのか。
「ふむ。いい刃じゃのう。高い武器屋でもこんな刃の剣は売ってないぞ」
「ヴァーギンさんの力で、いろんな悪を斬って来たんですよ」
と、ティノが団子を食べてこう言った。だが、俺を見る師匠の目は突如変わった。
「ヴァーギン。ちょっとだけ傷があるぞ」
その言葉を聞き、俺とティノは驚きの声を上げた。師匠は俺の方を見ながらこう聞いた。
「エクスのねーちゃんはそのことを知っているのか?」
(多分……知らないと思います。痛みがあったが、大丈夫だと伝えただけです)
「そうか……たとえどんなに特殊な素材で作られた剣も、寿命というのがあるんじゃな」
師匠はしんみりとこう言った。寿命か……剣となった俺にも寿命というのがあるのだろう。いずれ、傷は広がって刃全体に走り、そして……俺は再び死ぬのだろう。そう思っていると、ティノがこう言った。
「ヴァーギンさんを鍛え直すことはできないんですか?」
この言葉を聞いた師匠は、俺の傷を見て首を横に振った。
「無理じゃ。多分、ヴァーギンに使われている素材はこの世のものじゃない。戻そうとしても、この世にある素材では鍛え直すことはできぬ」
「そんな……」
ティノは残念そうにうつむいた。だが、師匠がティノの方を向いてこう言った。
「どんな手を使っても剣はいずれ壊れる。手入れをして、ちゃんと砥石で研げばその寿命は延びる。だが、ヴァーギンの場合は別じゃ。剣となって生き返るっつー異様なことが起きたからの。本来、ありえないことじゃ」
「確かにそうですが」
「わしも弟子と死に別れるのがつらいぞ。だが、早かれ遅かれ別れの時は来る。絶対にな」
師匠はティノにそう言うと、俺を持って立ち上がった。
「ヴァーギン、この傷は酷い。使ううちに、この傷は広がってお前の寿命をさらに縮める可能性がある。それでもお前は、エクスのねーちゃんに俺を使って戦えと言うか?」
師匠は俺に向かってこう言った。確かに……俺を使って戦えば俺の寿命は縮む。エクスやティノ、ギルドの人たちとの別れの時が早くなってしまう。だが、俺がこの世に戻って来たのはジャッジメントライトを倒すため。そのためなら、俺は命を縮めても構わない。
(いざという時は俺を使って戦えと言います。この命果てても、ジャッジメントライトを、ザム・ブレークファートを倒します)
「それがお前の答えか」
「そんな! そんなことをしたら寿命が!」
ティノは俺の言ったことに対し、いろいろとあるようだ。だが、俺が決めた答えを変えることはしない。師匠はそう察したのか、ティノに近付いた。
「ティノの嬢ちゃん。嬢ちゃんが何を言ってもヴァーギンは答えを変えることはしない。あれこれ言っても、聞きはしないじゃろう」
「そんな……」
(いいんだティノ。ジャッジメントライトを倒す。それが俺の目的だから)
俺はティノに優しくこう言った。ティノは俺の意思を尊重したのか、何も言わなくなった。その直後、エクスの魔力を感じた。
「ただいまー。とりあえずちょっとだけ持って来た」
エクスの手には、紫色に光る鉱石が握られていた。師匠はそれを見て、目を丸くして驚いた。
「驚いた。二日目でこんなに採って来るとは」
「大変でしたよ。魔力の剣を使いまくったせいで、お腹ペコペコ。倒したモンスターを焼いて食べようとしても他のモンスターの横取りされる。でも、横取りしたモンスターは何故か死にましたけど」
「毒があったってことじゃないんですか? と言うか、何を食べようとしたんですか?」
「紫色の気持ち悪い芋虫とムカデ。焼けばどうにかなるかなーって思ったけど」
「いや、どうにもならんって。つーか、あの洞窟の虫型のモンスターは基本毒持ちだから、食べたらすぐに死ぬぞ!」
「じゃあクモがムカデを食べて生きていたのはどうしてですか?」
「毒に対する抗体を持ってるからじゃ! まぁとにかく、疲れただろうから休んでくれ」
「はーい。シャワー浴びてきますけど、覗いたら斬りますからね」
エクスは師匠を睨むように見ながらこう言うと、シャワールームへ向かった。
翌日以降もエクスはあの洞窟へ向かって鉱石の採掘を行った。最初は少量だったが、二日目、三日目と続けて行ううちに、採って来る量が倍になって行った。洞窟に住む危険なモンスターとの戦いを経て、エクスもさらに強くなった。
今、師匠はエクスが採って来た鉱石を見ている。新しい剣でも作るのだろう。と言うか、この人は鍛冶の技術を持っているのか? 剣を作る姿を見たことがないが。
(師匠って剣を作れるんですか?)
(まーの。剣聖と呼ばれるためには、ありとあらゆる剣の技術が必要じゃ。使うための知識はもちろんのこと、作るための知識も必要じゃ)
(そうなんですね)
意外だ。師匠が剣を作れるなんて思ってもいなかった。師匠が住む小屋には鍛冶用の道具なんて置いてないのに。
(それより師匠、どこで剣を作るんですか?)
(わしのとっておきの場所じゃよ)
そう言いながら、師匠はウインクをした。とっておきの場所? 俺はそんな場所の存在を知らないのだが……。
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