必死の猛攻
シクが私を狙って攻撃を仕掛けてきた。この動きを予測した私はヴァーギンさんを構え、シクの動きに合わせて反撃を仕掛けようと考えていた。
「死ねェェェェェ!」
シクは私に目がけて小さな剣を振り下ろそうとしていた。私はシクの動きの隙を見つけ、ヴァーギンさんを振るおうとした。私の動きを見たシクは驚いた表情を見せたが、すぐに笑みに変わった。
「そう来ると思っていたわよ」
やはりそう簡単に攻撃させてくれないか。シクが左手で指を鳴らすと、周囲に発していた氷柱が私に向かって動き出した。
「グッ!」
このままだと氷柱に挟まれてダメージを負うが、その前に攻撃を当てて、シクが解放している魔力を弱めればダメージを減らせる。そう思った私はヴァーギンさんを振り下ろし、シクに攻撃をした。
「なっ……」
私が攻撃をしたことを察し、シクは驚いた表情をした。その直後、シクが発した氷柱が私に命中した。予想通り。氷柱に当たってもそこまで痛くはない。ダメージを落とすことに成功したぞ。
「グッ……ううっ……死にかけがふざけたことを……」
私が思っているより、シクが受けたダメージは大きいようだ。
「この女……必ず……必ず私がぶっ殺してやる!」
シクはそう言って魔力を解放した。私はシクの魔力を感じ、後ろに下がった。アソパの魔力よりも強い!
(どうやら、あの女は本気で戦うようだな)
(ええ。出来る限り戦ってみます。危険だと思ったら、すぐに逃げます)
(その方がいいだろう)
私はヴァーギンさんと話をしながら、シクの動きを見ていた。シクが魔力を解放したと同時に、周囲の地面に霜が付いた。魔力の衝撃波の中に、水が混じっているのだろう。シクは私を見て、にやりと笑った。
「固まってしまいなさい」
と言って、指を鳴らした。その瞬間に、私の体の一部が凍ってしまった。まずい! 気付かぬうちにシクが放った水を浴びていたのか!
(動けるか、エクス?)
(何とか。動かせば氷が落ちますので。だけど……ちょっと寒いです)
まずい。何とか動けるけど予想以上の寒さが私を襲う。暖かい季節だというのに、息を吐くと白い息が出る。シクが魔力を解放した途端に冬の季節に逆戻りだ。私がそう思っていると、シクが小さな剣を持って私に接近してきた。
「これで死になさい!」
シクの動きを見て、私の急所を狙って攻撃するのだろうと予想できた。寒さのせいでヴァーギンさんを握れない。私はヴァーギンさんを使って攻撃を防御するのは不可能だと思い、体を動かしてシクの攻撃をかわした。
「チッ、あんた本当にアソパの奴と戦った後なの? 猿みたいに動き回るわね」
私の動きを見て、シクが舌打ちをしながらこう言った。後ろに下がった直後、急に温かさを感じた。どうやら、寒いのはシクの周りだけのようだ。接近して攻撃するのは難しい。相手の有利な状況で攻撃しなければならないため、高い確率で攻撃のペースを取られる。だとしたらどうする? どうやって……いや、今回はシクを追い込むのは止めておこう。アソパとの戦いの後、多少回復したとはいえ魔力と体力も十分ではない。下手に追い込んだら、やられる。私はそう思ったが、シクは簡単に私を逃がしてくれないだろう。
「逃がさないわよ、エクス・シルバハート!」
どうやら、確実に私を殺すつもりだろう。私はため息を吐き、シクを見た。
シクはやる気のようだ。エクスを確実に殺すつもりで戦いに挑んでいる。一方で、エクスはどうやってこの場から逃げようかと考えているようだ。
(エクス、魔力はまだ残っているか?)
俺がこう聞くと、エクスは小さく頷いた。
(少量残っています。逃げるつもりなので、使い切らないようにしていますが)
(そうか。だが、後ろを向いて逃げ出しても、あの女は必ず後を追いかけて来るぞ。だとしたら、あの女の動きを止めることに魔力を使え)
(動きを止めることに……分かりました。気合でどうにかします)
エクスはそう答えると、俺を構えてシクを睨んだ。シクはエクスがやる気だと判断し、エクスを見て笑った。
「本気の私と戦うつもりなのね。それなら、正々堂々と戦ってあんたを殺したってことになるわねぇ!」
「私は死なないわよ」
エクスがこう言った直後、シクがエクスに襲い掛かった。シクが近付いた瞬間、周囲が少しだけ凍り付いた。俺もそうだが、エクスの体の周りも少しだけ凍り付いた。だが、エクスは動かない。動かないことを察したシクは、にやりと笑った。
「死ね!」
叫んだ後、シクは小さな剣をエクスに向かって突き刺そうとした。その瞬間、エクスは俺を構えてシクの右肩を突いた。
「なっ……」
「接近してくるのを待ってたのよ。そうすれば、無駄な体力を使わなくてすむからね」
攻撃を受けたシクはエクスの言葉を聞き、悔しそうな顔をした。攻撃を与えることに成功したが、この一撃でシクはまだ倒れない。シクは倒れた後、再び立ち上がってエクスに接近した。
「今のはまぐれだ! 今度こそ、殺してやる!」
「隙だらけよ!」
エクスは再び同じ方法でシクに攻撃を仕掛けた。次の攻撃が命中したのはシクの左足の太もも。ここに攻撃を受ければ、動くのに支障が出るだろう。
「グウッ! チッ……」
攻撃を受けたシクは立ち上がろうとしたが、左足の太ももに受けた傷が深く、まともに立つことができなかった。
「クッ……ソォ……」
悔しそうにシクは呟くと、エクスを睨んだ。
「エクス・シルバハート! 次に会った時がお前の最期だ! その時は必ず……お前を殺す!」
戦えないと判断したのか、シクは魔力を解放して逃げ出した。エクスは逃げたシクを追うことをせず、その場に座り込んだ。
「はぁ……はぁ……どうにかなった……」
(確かにどうにかなったが、無茶しすぎだ。後でちゃんとティノの所に戻れ)
(はい……すみません)
エクスは俺にこう言った後、その場で横になった。さっきの攻撃はエクスの予想通り、確実に当てたものだ。だが、あの攻撃でシクを倒すことはできなかった。今回は俺たちに運があった。疲れ果てた状態で連戦をし、倒せなかったとしても生きて戦いを終えた。それだけで、俺は十分だと思う。それに、アソパ以外の幹部の力を確かめることができた。
シクとの戦いの後、私はその場で寝てしまったようだ。目が覚めた時、心配そうに私の顔を覗き込むティノちゃんの顔が目に入った。
「エクスさん! 大丈夫ですか!」
「うん、平気」
私はあくびをしながら上半身を起こした。いつものように体を起こしたのだが、体にだるさはなく、痛みも引いていた。ティノちゃんが手当てをしてくれたのだろう。
「ありがとうティノちゃん。手当てしてくれたんだね」
「いえ。手当てをしたのはギルドの戦士の皆さんです」
ティノちゃんがこう言うと、その後ろにいたギルドの戦士の人たちが頭を下げた。いつの間にこんな数の戦士が。
「小屋から逃げた戦士が応援を呼んでくれたんです。私たちが小屋で戦っている時は魔力が強くて迎えなかったそうですが、魔力が収まった時に小屋に来て、倒れていた私を助けてくれたんです」
「そうだったのね。ティノちゃんを助けてくれてありがとう」
「いえ、倒れた人を助けるのが、戦士として当然の義務なので」
と、ギルドの戦士たちは丁寧にこう言った。とりあえず、目標であったアソパを倒すことには成功した。だが、まさかこのタイミングでジャッジメントライトのボス、ザムと残りの幹部が現れるなんて思ってもいなかった。予想していなかったけど、あいつらの力をこの身で体験できてよかった。今のままではあいつらに勝てない。幹部であるシクとレパンはどうにかなると思うが、ザムの強さの底が見えない。もう一段階強くならねばならない。さて……ひと段落したらまたあのエロジジイの所に行こう。今回のことを話ししておいた方がいいと思うし。
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