07●『ハリー・ポッター』の、児童書偽装作戦に学ぶ。
07●『ハリー・ポッター』の、児童書偽装作戦に学ぶ。
では、「60代向けラノベ」って、具体的にどんな作品なのでしょうか。
お年寄り向けにお年寄りが活躍するお話では、断じてありません。
歳をとったからといって、老人ホームや介護施設での爺さん婆さんのマウンティング合戦やご臨終を看取られるお葬式ドラマなんて、できれば死ぬまで読みたくありませんね。私個人の感想ですが。
読まずに死んでも私は後悔しないでしょう。好きな人はいるかもしれませんが。
そこで、まずは「60代向けラノベ」の外見……装丁の体裁はどうあるべきなのか、考えてみましょう。
中身はラノベそのものです。
表紙もアニメタッチでOKです。
そもそも40年前の1980年代に、美少女や美少年があふれ始めたラノベの文庫をオンタイムで読み込んできた、「当時の若者」なんですから。
ただし、お色気は抑え気味で。露骨なパンチラやバストポロリは歓迎されません。
かといって、お堅い抽象画である必要もありませんね。若者の関心を惹く範囲で、やり過ぎない程度に、でしょうか。
参考になるのは、書籍の『ハリー・ポッター』シリーズです。
この作品、1997年に発表されてから、瞬く間に世界の子供たちに浸透していきました。
海外で発売された際の表紙は、明らかに子供向け、マンガチックとしか言いようのないイラストで、大人の目からしたらヘタウマな印象です。
あくまでも、読むのは子供たち、「児童書」として位置づけられていたのです。
しかし、1999年の末に日本国内で発売された表紙は、《《児童書としておかしくはないけれど、大人が手に取っても恥ずかしくない、シャガール的な名画調の雰囲気も漂わせたイラスト》》になっていました。
つまり、「見た目は大人、中身は児童書」という、名探偵みたいな、とてもテクニカルな体裁だったのですね。
どうしてそうなったのか、マーケティングの意図は明白です。
①中身は児童書であり、書店でも児童書の棚に置かれる。
②しかし、読むのは子供だけでなく、むしろ大人が熱心に読むだろう。
③それゆえ、大人にも抵抗なく、しかし児童書としても成り立つイラストにする。
④お金を出して買うのは大人なのだから。
たぶん、そういうことだったのでしょう。
もともと、「書店で買うのは子供でなく大人」だったからです。
それにしても大胆な販売方法でした。
シリーズ後半にもなると、前後編をビニールパックして五千円也。
どう見ても、子供が出せるお値段ではありません。
「一応タテマエは児童書、だけど買うのも読むのもホンネは大人」
すなわち、「児童書に偽装した大人買いの本」
そんな感じでしたね。
海外では、最初はもっぱら子供が買って読んだようです、しかし……
この国、ニッポンでは、最初から主要な読者は「大人狙い」だったのです。
おそらく、「いい歳をした大人でもハリポタは読む」という確信が出版社の側にあったことは間違いないでしょう。
日本の、大人の読者はこのファンタジーをすんなりと受け入れるだろう……と。
その素地は出来上がっていました。
1983年、東京ディズニーランドが開園。
1989年、ジブリアニメの『魔女の宅急便』公開。
魔法や魔女に関するイメージは、明るくポジティブに、大人たちに受け入れられていました。
作品が楽しく、面白ければ、大人だって魅せられて読む。
ニッポンの大人たちは競って買いました。
いちおう児童書だったのですが、子供のいない大人だって熱心に愛読したことでしょう。
「60代向けラノベ」も、そのようなもの。
見た目のチャラさやセクシーさを適度に抑えれば、中身はラノベそのものでいいはずです。ただし、中高年のためのラノベ。
そんな本、出会ってみたいものです。
【次章へ続きます】