ツジマルとヤスヒコ
綾坂辻丸
・主人公
・小説家志望
・関西弁
勘立安彦
・親友
・標準語
・将来の夢は堅実にお役所仕事
ツジマル:ツッコミ。
ヤスヒコ:天然ボケ。
:本編
:とある放課後
ツジマル:「なぁヤスヒコー、なんかアイデアくれやー」
ヤスヒコ:「断る」
ツジマル:「なんやねんケチやなぁ、アイデアあるんならくれや、どうせ使わんやろ」
ヤスヒコ:「それはわからんぞ。俺だって突然「小説家になりたい!」って思うかもしれない。そのためにアイデアを溜めておくのは大事だ」
ツジマル:「ほざけや、ヤスヒコは将来お役所勤めが夢やろが」
ヤスヒコ:「兼業作家なんて世の中大勢いるが?」
ツジマル:「少なくともヤスヒコはそっちちゃうやろ」
ヤスヒコ:「偏見だな」
ツジマル:「じゃあ違うんか?」
ヤスヒコ:「いいや大正解だ」
ツジマル:「…………」
ヤスヒコ:「…………」
ツジマル:「じゃあくれやアイデアー!」
ヤスヒコ:「断る」
ツジマル:「なんでぇ?」
ヤスヒコ:「じゃあ訊くが。それで賞を獲って書籍化して売れたら俺に何割くれる?」
ツジマル:「……そりゃあ、五割くらいは――」
ヤスヒコ:「八割だ」
ツジマル:「たっか! ちょっ……容赦なさすぎん?!」
ヤスヒコ:「当たり前だ。誰のおかげで飯が食えると」
ツジマル:「どんだけ話壮大にするねん……。でもやな、アイデアもらっても話広げたんは俺やん? さすがに八割はきついて」
ヤスヒコ:「お前……、いいか? 例えばツジマルが途中まで書いてる作品に、俺が助け舟として少し助言したのであれば五割はわかる――いや、なんなら二割くらいでもいいほどだ。だけどな、今回は作品の一歩目。すべてを決定づける根幹のアイデアの提供だ。実際は九割でもいいところをまけにまけて八割にしてるんだ、むしろ感謝してくれ」
ツジマル:「なにがまけにまけてや、大阪のおばちゃん相手やったら通用せえへんぞ」
ヤスヒコ:「別に大阪のおばちゃんを相手にしていないんだが。……そもそも、お前は昨日ノリノリでメールしてきたじゃないか。「今世紀最大の超絶おもろいやつきたー!」って」
ツジマル:「だから……、もう嫌や、その話はやめてくれ」
ヤスヒコ:「だからもなにもその詳細を聞いていないが。なんなら気を遣って最初はこの話をしなかったまであるのに」
ツジマル:「その気遣いを最後まで使ってくれ! 俺から話さん感じから察してくれや!」
ヤスヒコ:「なら俺への売り上げ八割還元を約束してくれ」
ツジマル:「がめついなほんまに! ……あぁもうわかった、ええよそれで。――で、ここまで引っ張ったそのアイデアはどんなんやねん?」
ヤスヒコ:「……なぁツジマル」
ツジマル:「あん?」
ヤスヒコ:「お前まさか、本当に俺にアイデアがあると思ってたのか」
ツジマル:「…………」
ヤスヒコ:「…………」
ツジマル:「…………まさか、ないんか?」
ヤスヒコ:「あぁ、微塵もない」
ツジマル:「……なら、なんや今までの茶番は」
ヤスヒコ:「まさしく茶番だな」
ツジマル:「…………」
ヤスヒコ:「…………」
ツジマル:「…………」
ヤスヒコ:「……どうしたツジマル、固まったままだぞ」
ツジマル:「――ほんっまに! ええ加減にせえよお前は!」
ヤスヒコ:「なにをキレてるんだ、そもそも俺にないことなど考えずともわかるだろう」
ツジマル:「考えてもわからんくらいに今俺は追い詰められとんねん! お前何年俺の親友してきてるんや!」
ヤスヒコ:「そっくりそのまま返したいが」
ツジマル:「あーもう! 締め切り一週間後やねんぞ! 文書く手間も考えたら絶望的やっちゅうのに!」
ヤスヒコ:「じゃあ今回は諦めたらどうだ?」
ツジマル:「それは嫌や! 諦めっちゅうのは負けとおんなじや! 今諦めたら俺は二度と筆を取ることができんくなる!」
ヤスヒコ:「大袈裟だな」
ツジマル:「大袈裟やない! それくらいでやらんとおもろいもんは書けへんってことや!」
ヤスヒコ:「その姿勢たるや素晴らしいが、実際なにも手についてない点では威勢だけ良いって感じだな」
ツジマル:「なぁなんでそんなこと言えるん?! お前ほんまにヤスヒコか? 十年来の親友か?」
ヤスヒコ:「そうだが?」
ツジマル:「そうやったな知っとったよわかっとったとも! もう疑いたくなるくらい辛辣なんは知ってるとも!」
ヤスヒコ:「それは何よりだ。これからも仲良くやろう」
ツジマル:「ほんまええ性格しよるな自分! でも絶交する未来が見えへんからいっそ怖いわ!」
ヤスヒコ:「それは何よりだ。死ぬ時も一緒に逝こう」
ツジマル:「さらっと怖いこと言うなや!」
ヤスヒコ:「ところで小説のアイデアは浮かんだか?」
ツジマル:「この流れでそれよう聞けたな?! 閃くタイミングあったか?!」
ヤスヒコ:「一旦アイデア出しというところから思考を外すことで脳内をリセットし新鮮な状態を経ればいけると思ったのだが……」
ツジマル:「その考え方はわかる! ありがとう! でもな? ヤスヒコが言うリセットってクールダウンってことやろ? この流れに俺がクールダウンできる余裕があったかっていう話やねん」
ヤスヒコ:「ないのか?」
ツジマル:「お前の中の俺はどんだけ冷静やったんや! ツッコミ! もう連チャンで突っ込んでたやん?! クールダウンの対義語出した方が正確なくらいやったぞ?!」
ヤスヒコ:「ヒートアップだな」
ツジマル:「対義語出さんでええねん!」
ヤスヒコ:「対義語かはわからんぞ。……ちょっと調べてみるか」
ツジマル:「ええよ調べんで! 今いらんやんその作業!」
ヤスヒコ:「何を言う。ここからアイデアに繋がるかもしれないじゃないか」
ツジマル:「ここからどうアイデアにつながるねん! 俺がただツッコんでバテてるだけやん!」
ヤスヒコ:「……もう漫才の話でも書いたらどうだ?」
ツジマル:「それ! 俺が昨日思いついてメールしたやつ! もう打ち明けるけども! それやったらものっそいさむなったからやめたんや!」
ヤスヒコ:「なんだ、わりといいアイデアかと思ったのだが」
ツジマル:「それが昨日の自分や! 思い出すのもはずいからもうやめてくれ!」
ヤスヒコ:「そうか。……あ、ちなみにクールダウンの対義語はウォーミングアップだそうだ」
ツジマル:「え、じゃあなに? これまでのウォーミングアップなん? 本番これからなん?」
ヤスヒコ:「怒涛のツッコミがウォーミングアップとは。さすがだな」
ツジマル:「どういう意味?! もはやバカにしてるやろそれ!」
ヤスヒコ:「純粋に褒めている」
ツジマル:「それはそれで複雑やけどな!」
ヤスヒコ:「で、アイデアは浮かんだか?」
ツジマル:「だから定期的に出すんやめてやもう! わかった! もう今日はええから! 帰ろ! 帰ってご飯食べて寝よ、な?!」
ヤスヒコ:「……まあ、ツジマルが言うなら仕方ない……」
ツジマル:「なんでちょっと残念そうやねん! お前別にノリノリちゃうかったやろ!」
ヤスヒコ:「そうだが、ツジマルがアイデアを思いついた時に楽しそうに話すのは見てて気持ちがいいからな。そういう意味で残念だ」
ツジマル:「おまっ……! なんでそんな恥ずかしいこと言えるん?! ちょっと帰りづらくなるやん!」
ヤスヒコ:「なにを言っている、帰るんだろう、さっさと帰るぞ」
ツジマル:「切り替えはやっ! え、俺の感動は?! あっさりしすぎてへん?」
ヤスヒコ:「残る時は残る、帰る時は帰る。定時退社の基本だ」
ツジマル:「いや知らんけども! あーもうわかった! 準備するからちょい待って!」




