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 東街に建てられた無駄に大きな空き家に冒険者たちは集まっていた。普段は誰も住んでおらず、住民も出入りしない。大規模なレイドの作戦会議をするとき以外は、ほとんど利用されることがない建物だ。


 今宵は大規模なレイドが決行されるので、空き家のなかには大勢の人だかりができていた。


 暑苦しい人ごみが苦手なハリスは、はしっこのほうに避難している。こういうとき一人だと楽だ。パーティがばらけないように気を使わなくていい。自由に動きまわれる。一人とはつまり自由だ。この自由を謳歌しよう。


 広間の奥に設置された演壇にはエンダーが立って、レイドの内容について説明をしている。


 今回のレイドはデスヘイムに攻め入り、ネミアがいる魔城を攻略する、いわば攻城戦だ。ネミアを討ちとれば参加者全員に辺境伯から報酬金が支払われる。大した活躍をしなくても、行くだけで金がもらえるわけだ。その代わり死のリスクは高い。命の保証はされない。


 参加メンバーは二百人の冒険者。パーティに換算すれば、だいたい三十組から四十組くらいになる。前回シルフィアたちが参加したレイドの実に四倍だ。それだけの戦力を投入しなければ、ネミアは討てない。


 参加するメンバーは回復術師ないし光系の攻撃魔術が使える魔術師が多い。デスヘイムはアンデッドの巣窟だ、彼らが攻略の鍵になる。


 スレイン、カンナ、オリックの復活した三人の勇者も姿形は違えどアンデッドだ。光系の魔術が絶大な効果を発揮する。それでも勇者たちを倒せないようなら、ネミアを狙うしかない。術者であるネミアさえ倒せば、復活した勇者たちも消滅するはずだ。無理して勇者たちを倒す必要はないが、ネミアを狙えば当然勇者たちが妨害してくる。いや、勇者たちだけじゃない。アンデッドもだ。目的達成は至難を極める。


「とまぁ、ここまでが大まかな概要だ。わかったか? わかんねぇ奴は後でそこらへんの奴に聞け。んで、具体的な作戦だが」


 エンダーはさっさと話を進める。時間がないので、ついてこれない者はおいていく。


 デスヘイムの魔城には正門と裏門がある。そのことは大半の冒険者が知っていることだ。


 百二十人の冒険者が陽動隊として荒野にはびこるアンデッドを蹴散らしつつ、正門から堂々と魔城に進攻する。敵の注意が正門に向いている隙に、残り八十人の別働隊が裏門から侵入してネミアを討つ。


 ネミアがラターシャを襲撃した際に使ったのと同じ戦法だ。ばれる可能性は高い。ていうかばれる。なので陽動隊のほうにはネミアが食いつかずにはいられないエサを用意する。


「陽動隊には俺も加わる」


 エンダーがおとりを買って出たことに、ホールに集った冒険者たちはざわついた。みんなエンダーは別働隊に加わると思っていたからだ。


「そう驚くことじゃない。俺ほどおとりになるのに相応しい人間はいないだろ。なんたってネミアは俺を憎んでるからな。必ず捕らえようと戦力を集中させてくる。ネミアが大量のアンデッドを正門に送り込んできたら、別働隊はからめ手で攻めろ」


 八十人の冒険者でネミアを討ちとれということだ。


 エンダーが敵戦力の大半を引きつけるといっても、ネミアは数体の下僕を手元に残しておくはずだ。三人の勇者たちだってそばにひかえているかもしれない。それでも討ちとれるだろうか? だろうかじゃなくて、やるしかない。そのためのレイドだ。


 だが作戦には問題がある。エンダーにかけられた呪いだ。はたして弱体化したエンダーが、どこまでおとりとしての役目をまっとうできるか……みんな憂慮している。


「なんだおまえら? まさか俺の剣が呪いなんかで鈍るとでも? 断言するがな、あんな呪いなんて屁でもねぇぜ。アンデッドの二百体や三百体くらい楽勝だ。それにな、久しぶりに滾ってるんだ。こんなに熱くなったのは魔王との決戦以来だぜ。負けるわけねぇだろ。そう思わないか?」


 エンダーが気炎を燃やして問いかける。その熱気はこの場に集った冒険者たちにも伝わった。薪をくべた炎のようにみんなの闘志が燃えあがり、冒険者たちは拳をあげて喚声を叫ぶ。


 うるさくて頭が痛くなる。ハリスは両手で耳の穴をふさいだ。


 エンダーのあれは虚勢だろうか? たぶんそうだ。エンダーは確実に弱体化している。でなきゃシルフィアに装備一式をゆずったりしない。


 でも気炎を燃やしているのも本当っぽい。絶対にネミアを倒せると、エンダーは信じている。ここに集った冒険者たちを、みんなのことを信じている。


 あれだけの自信が持てるのは、やはり勇者だからか。それとも自信を持たないと、勇者なんてやっていられないのか。








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