第18話
「よし、じゃ行こう」
俺の掛け声とともに、リールとルイベルトと馬車に乗り、刺客たちと商人の集合地点であるヴィーナス王国との国境付近へ向かう。
一応馬車の中には商人の原寸大の人形を置いている。もし商人がいないことがバレると想定外のことが起こりうるかもしれないからな。
この道を往復するのはこれで3度目だ。景色なんて見飽きたしそれを見ながら長時間の移動は正直めんどくさい。できるなら瞬間移動をしたい。
そんなことを考えてる間にも2人は作戦を立てていた。
「――うん、だからルイベルトはその時に相手の能力を無効にしてほしい。できるでしょ?」
「あぁ、それは問題ない。でも自分で言うのもなんだが俺は必要だったか?時間を止めれる二人がいれば俺の役目ないと思うんだが」
3日前の励ましなど無かったかのようにネガティブになっているルイベルト。結局いつもと変わらないようでなによりだ。
「いや、必要だぞ。もしリズベルが異変に気づいて俺たちと出会うことになれば俺とリールよりルイベルトの能力が役に立つかもしれないからな」
もちろん可能性は低い。だが貴族がアース王国を裏切ったあの日からの違和感の正体がまだ分からない。それが1番問題でリズベルの能力が関係していたらなおのことルイベルトが必要だ。
「まぁなんであれ、10分でも能力を無効にできるなら俺らからしたら心強いからいるだけでも役には立ってるぞ」
「ホントかよ……」
「――カナトって褒め上手だね」
「どこがだよ、全然だろ」
「だってほら、ルイベルト適当なとこ見てるけど少し表情が柔らかくなった」
「んー、俺には分からないけど――」
「そのうち分かるよ。フローレスのみんなとはこれからもたくさん関わるからね、慣れだよ」
「そうだな」
ルイベルトの調子も万全にして作戦を再確認する。
「ルイベルトとリールはそれぞれ馬車の左右斜め後ろについてくれ。俺は馬車の前につく」
「分かった」
「今回は刺客たちを捕まえることが目的だからやりすぎには注意してくれ。それとルイベルトが能力を無効にしたタイミングで俺とリールが1人ずつ時間を止めて拘束するからミスしないよう集中して早く終わらせる」
「止めるのはその1人の人間だけの時間だよね?」
「あぁ、もう能力を使いこなせるようになったリールならできるだろ?」
「うん、でも失敗したらごめん。先に謝っとく」
「大丈夫、そのときは俺がなんとかする」
「ありがと」
失敗はありえる。だからそれを頭に入れて何が起きても想定内にすませなければいけない。
「俺も失敗するかもしれないから謝っとく」
便乗して保険かけるなよ。
「ルイベルトは自分で何とかしてくれ。男なら自分の身は自分で守るのが常識みたいなもんだろ?」
「はぁ、チームってなんだろうな」
最近はルイベルトをいじるのが1つの楽しみになってきたかもしれない。
「2人とも、目的地見えてきたよ」
リールに言われて見た場所はあの日と同じように嫌な予感を感じた。頼むからリズベル本人はいないでくれよ。
「じゃ定位置につくか。2人とも周りに注意するんだぞ」
「カナトもな。触れられることはないといっても絶対はないからな」
「あぁ」
馬車から出た俺たちは常に周りを警戒しながら普通の護衛騎士を演じ、森の中へ足を踏み入れる。
リールによると刺客は5人全員が同じ能力らしい。だがそれ以外はリールの能力でも分からないことがある。それが意味することは1つだ――。
森へ入って10分たっただろうか。そろそろ目的地につくころだろう。そこで俺は咳払いをし2人にも目的地につくことを知らせる。その後すぐリールが咳払いをやり返し、計画通りにいくと3人が理解した。
それと同時に周りがざわつき始め、俺は戦闘態勢へ移る。
「『リムーバル』」
聞き覚えのある声と呪文が俺たちの戦闘開始の合図となる。
「ルイベルト!」
背後にいる敵に気づいていない様子のルイベルトにリールが呼びかける。その呼びかけがルイベルトを押すようにギリギリで触れられるのを回避する。
「助かった!」
「気をつけてってあれほどいったのに」
「ルイベルト!リール!やつらは気配を消すのがうまい。だからリールはルイベルト、ルイベルトはリールの背後を守れるよう向き合って対応するんだ!」
「了解!」
馬車の後ろでお互いの背後を警戒してルイベルトの能力発動条件をクリアするため守りやすい態勢をとる。
「ルイベルト、私の背後に敵が来たらすぐに能力を発動させて」
「分かってる!」
ルイベルトはまだ創作能力を使いこなせない。そのためシングルタスク状態の今は能力発動に集中するしかない。それを把握しているリールは集中するように促したのだろう。
こうなれば向き合う2人より、なにもしていない1人の俺を狙うのが簡単だと思う敵はなんの捻りもなく俺に狙いを定めてきた。
気配を感じづらい、だから背後に回られる。だが、それが逆にお前たちの首を締めてるってのにな。
「ルイベルト!」
俺はルイベルトにこちらを見るように呼ぶ。よし!これでルイベルトの視界に1人の敵が入った。
『アブソリュート』。俺は能力を止められた敵の時間を完全に止める。
ルイベルトの能力発動条件は敵を視界に入れること。その後視界に入った敵の能力を無効にするよう創作されている。
「1人拘束した!よくやった、ルイベルト!」
「あぁ、こちらこそだ!ナイスだカナト!」
初めて成功した創作能力に喜ぶルイベルト。その背後に敵が回り、触れるまで残り30cm。やばい――。
「――油断したらダメって言ったでしょ。次は助けないからね」
「あぁ、すまない。また助けられたな」
一瞬でルイベルトに詰め寄り自分の方へ引き寄せるリール。ナイスだ。
この調子でいけば問題なさそうだな。なるべく早く終わらせたいしここは煽っとくか。
「おい!お前たち奇襲したくせに手こずってどうする!」
こいつらの癖はもう分かってる。煽られたこいつらがする次の行動は――。
2人で俺の背後と目の前に同時に詰め寄ってくる。完璧に読み通りだ。
「ルイベルト!」
ルイベルトがこちらの敵を視界に入れる。そして無能力の2人とも拘束する。
「あと、2人だろ?早く来いよ!」
さすがに俺1人に向かってくることはもうないだろう。おそらく後は――。
ルイベルトの背後に移動し、同時にルイベルトの背後に敵2人が回る。さすがに警戒していたルイベルトは即座に振り向き能力無効化する。
「はぁ、最初からそれだけ警戒してたら良かったものを」
仕事増やすなと不満をぶつける。まぁひとまず一件落着というやつだな。
「よし、これで全員無効化できたな、お疲れ様だ。それでお前たちはこれからが地獄だからな」
そう言って2人同時に拘束する。
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