第15話
目的地へとついた俺達は馬車を近くに止め幽冥の中へ姿を消す。そのときには周りに人はいないようで、刺客とやらはヴィーナス王国へ帰ったのだろう。
「ここだ――」
この場所で合っているはずだが馬車は見当たらず、それどころか戦闘の形跡もなかった。
「カナト、本当にここか?空目とかではなく」
「あぁ、確かにここだ、しっかり覚えてる」
「そうか、でも何もないなら調査することもできないぞ」
確実にここで見た。だが、それを証明できるものがなにもない。貴族のことといい、これといい引っかかる点が多すぎる。リズベルの能力が関係しているとしたらどんな能力か想像すらつかない。
これは頼らざるを得ないな。
「リール、何かわかることはないか?」
「んー、カナトの言うことが本当ならここに馬車がおいてあるはずでしょ?でもないなら、それを消したとかじゃないかな」
そうだ。奴らは一人ずつ護衛騎士を消していた。それが人間以外にも使えるのなら――。可能性はある。
「奴らは呪文とともに護衛騎士を消していたんだ。行き先はわからないがそれを使って馬車も痕跡も消したかもしれない。リール、少し力を貸してくれ」
「うん、いいよ」
「リムーバルという呪文使いはどんな能力を使うのか、それとそいつらの居場所を教えてくれ」
「わかった。えーとね、リムーバルは【ものを移動させる能力】の呪文で、それを使う人は今、ヴィーナス王国とアース王国の国境付近でアース王国側にいるみたい。人数は5人でここから馬車で3時間ってところかな」
「ありがとう。おそらくそいつらがヴィーナス王国の刺客だ。そいつらの次の行動はわかるか?」
「4日後にここで襲われた貴族と協力関係の商人がそいつらと会ってヴィーナス王国に行くみたい。それでそのときにSランクの依頼として出されるよ」
「それならまずその商人を捕まえ、代わりに俺たちが潜入する。護衛役は俺とルイベルトがするからリールは馬車の中でその商人の役を頼んだ」
「分かった」
とりあえず4日以内にその商人を見つけることが俺らの目標だ。簡単に捕らえれるだろう。
でもなぜこれほど不自由のない生活のできるこの国を裏切るのかわからないな。
「前マリーナが言ってたけどこの国は害を及ぼす能力を持って生まれてくることはほとんどないんだよ。だから幸せだと感じる人は多いけど、逆に貴族と平民の差もほとんどないから威張りたがりの貴族はこの国を捨てて他の国に行っちゃったんだ」
「俺の考えてることも分かるのか?」
「ううん、人の気持ちとかはわからないよ。でもカナトの不安な部分だけは分かる。多分、この世界でカナトが不安になりすぎないように私はこの力を手に入れたんだと勝手に思ってる」
「そうかもな、リールのおかけでこの世界で俺は俺のままでいれてるからな」
「そう言われると照れる。キスでもする?」
「いや、しないよ!」
リールには自分の気持ちを制御する機能がないのかもしれない。なぜにこんな強引なのか恋愛を知らない俺には理解ができなかった。
「はいはい、羨ましすぎてうざいからとりあえずギルドに戻ろうぜ」
「ルイベルト来た意味なかったね。私とカナト二人で来ればもっと良かったのにな」
「お、おいそれ以上ルイベルトをいじめるなよ」
まぁ、確かに二人ならリールはグイグイくるかもしれないがそういうのに疎い俺は戸惑って終わりだな。
歩いて馬車のとこまで戻り、そのまま森をあとにする。
帰りの馬車でも他愛のない会話をして、笑っていじって楽しい時間を過ごした。
「ただいま。マリーナ」
「え!?カナト今、ただいマリーナって言った?」
「いや言ってないから。なんだ?言ってほしいのか?」
「うん!」
「お、おう、そうか。じゃ次からな」
「いぇーい!」
すんなり承諾するのかよ。これはこれでみんなと親しみやすくなってきたって感じれるからいいな。
「それで、手がかりはどうだった?」
「なかったけど、役に立つ情報は手に入れた」
「おぉー、収穫あったんだね、良かったじゃん」
「あぁ、でも移動とかで疲れたから続きは明日からになるかな」
「そっか、じゃ私も今日は受付もう終わるからご飯食べに行かない?」
初めてのマリーナからのお誘いを断るわけにはいかないが、後ろの視線が圧を増してるんだよな。
「あぁ、いいよ。でもリールも一緒でいいか?」
「うん!いいよ!じゃちょっとまってて」
そう言ってマリーナは仕事道具を片付け始める。
「なんだよ、ご飯ぐらいいいだろ」
「私は独り占めしたいタイプだからだめです。ついていきます」
「ほんのちょっとぐらい我慢してくれればいいものを――」
「カナトはマリーナのこと好き?」
「マリーナもリールも可愛いと美人で対だからどっちも良さがあるからどっちも好きだな」
「そっか、それは嬉しい。マリーナはいい子だからマリーナも大切にしてね。ほんの少し私の方が手厚くお願いするけど」
年上が年下みたいなこと言うからギャップを感じる。
「同じぐらいです。残念でした」
ムスッと拗ねる顔は今までで1番心臓の鼓動を早めた。
「おまたせ!もうお腹ペコペコだから行こう!」
そうして、いつもの食事屋についた。みんなここの常連なのだろうか。
「さっきカナトがマリーナのこと好きだって言ってたよ」
この女恐るべし。
「えぇ?なんかの冗談でしょ?」
「まじです。本当です」
「えぇ!!本当なの?!これは驚いた!じゃ両想いってこと?!」
結局見た目は違くても類は友を呼ぶだな。マリーナも制御する機能がないようだ。
「リールから潜在能力値が測りきれない人が神の使いとして来るって伝えられたときはどんな人かと思ったけど、こんなかっこよくて笑顔が爽やかで優しい人だとは思わなかったよ」
「照れるからやめてくれ。それに――」
いや、優しくないことはないのか?無意識体質らしいから全くわからない。
「俺はかっこよくないぞ」
「私達からしたら全然かっこいいよ」
この世界は前の世界の倍以上の幸せを女の子からもらっている気がする。
「ありがとうございます。でもマリーナはリールのこと気にしてないのか?」
「あぁ、私も独占したい人だけどリールほどじゃないから大丈夫。それに私は今日からカナトの部屋で一緒に寝るって決めてるから!」
「これまたいきなりだな!なんでそうなるんだよ!」
「いいじゃん、いつもリールと行動すること多いから寝るときだけは一緒」
「じゃ私もベット運んでおく」
「リールはだめだよ、いつもカナトといるじゃん」
「でももっといれるならそっちのほうがいい。それに隣の部屋だから簡単に移動させれるし」
「そうなの!?リールばっかりずるい!」
女の子同士の男の取り合いってこんな感じなのか。ちょっとかわいく思えるな。
「分かったから、喧嘩やめ。もう好きにしていいから」
「はーい」
独占欲ってありすぎるのも悩みどこだな。
「とにかく寝るのはいいから二人ともリールのベットで寝てくれよ」
「くっつければ3人で寝れるからカナトを真ん中にして寝ればいい」
「もうそれでいいよ」
今日は体力より精神的に疲れる日だった。明日から忙しいのに。トホホ。
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