第13話
その依頼はとっくに始まっていたのでまずは合流するために道なりに進んでいく。なるべく早く追いつくためもちろん時間を止める。
行動を開始して10分ほどで目的の貴族と、その護衛についている騎士を見つけ時間を戻す。
俺は気配や姿を悟られる前に創作能力を自分自身に付与する。これは俺の気配や姿を確認し、脳で誰かがいると理解するその刹那の時間を無限に繰り返すようにしたもので、故に俺が俺であると認識することは無い。
ここから目的地までこのスピードで行くとおよそ5時間といったところだろう。それまで周りに注意しながら護衛を続けるのはとても簡単なものではない。彼らに何も怒らなければいいんだけどな。
俺も依頼に同行して3時間ほど経過しただろうか。護衛隊は少し薄暗い森の中へ入っていった。
「だいたいこういうときって何か起きるんだよな」
俺の勘は当たっていた。
森へ入り、周りを注意しながら進んでいた護衛騎士が周りを警戒し始めていた。彼らもただ一般の能力持ちではなく試験で選ばれた俺らとは違うエリート集団だ。そんな彼らも警戒をするほど何か異変を感じていたのだろう。
その直後、枝や葉が擦れる音が激しくなり複数の何かがそこにいることをその場にいる全員が理解する。
「ははっ!これは大変なことになりそうだ」
その場に誰がいようとバレるわけにはいかないため念のため今よりも距離を取る。
「敵襲だ!敵の数は不明、だが複数いるのは確実!」
一人の報告により護衛騎士が守りを固める。さすがだ、統制がとれている。
だがそんなことはただ一瞬の思い込みだった。
「『リムーバル』」
護衛騎士の呪文だろうか、だが誰一人唱えたようには見えなかった。まさか――。
「んっ!!?おい!あいつはどこに行った?!」
一人の護衛騎士が瞬きの間に消えていってしまった。おそらく先程の呪文は敵だったのだろう。
その後、一人の騎士がいなくなったことで焦る周りの護衛騎士は次々と消えていった。『リムーバル』という言葉とともに。
見たところ消滅させているわけではなく、どこかへ飛ばしていると言うのが正しいだろう。
あっという間に壊滅した護衛騎士。彼らに守られていた貴族も同じく消されてしまうのか。
そう思っていたが案外こういう勘は当たらないようだ。
「いや、良くやってくれた。これで私もヴィーナス王国の貴族としてこの国を捨てることができる」
そう言って馬車の中から貴族と思しき男が出てくる。おそらくそういうことなのだろう。
「私のことはこの場で何者かに殺されたということにしておいてくれ」
「それは私ではなく――様に直接伝えろ」
風が強く吹いてよく聞こえなかった。
「はぁ、それぐらいいいじゃないか、私もあまりあの方のことは知らないのだよ」
「――今回だけだ」
あの方とは誰のことだ?ヴィーナス王国と言っていたからまさかリズベルか?
まぁ今はそれよりもあの貴族がヴィーナス王国と繋がっていたこと、護衛騎士を簡単に倒せるほどの実力をあの集団は持っているということ、そしてルイベルトの言っていたやつらだということを理解した。
「とりあえず今日はもう遅い、一旦帰ろう」
そうして、特に考え事もすることなくギルドへついた。
「おかえり、どうだった?貴族の護衛を陰ながら見守るのは」
「んー問題だらけだったよ、ルイベルトが言ってたヴィーナス王国について関係あるっぽい」
「ほうほう、それは興味深いね。そろそろルイベルトも来るからそれまで待って、情報交換してみたらいいかもよ」
「そうだな、もしルイベルトと同じような内容なら依頼として受けれるからな」
ルイベルトが来るというおよそ30分後まで依頼を見たりして時間を潰した。
そしてルイベルトがギルドに入ると同時にリールとデルクもギルドに来た。
「マリーナ、カナト、緊急招集だよ。不可視の部屋に行くよ」
リールがやっと見つけたと言いながら緊急招集だと伝えに来た。
「何かあったのか?」
「詳しいことは後で、今は急いで行くよ」
「あぁ、分かった」
今日も移動すること多いしやること多いで疲れる1日だ。
不可視の部屋についた俺たちはそれぞれ席についてローズベルク国王が来るのを待った。
「やぁ、フローレス、緊急招集に応じてくれてありがとう。さっそくだけど理由を説明する」
「はい」
「まず、先ほどここからヴィーナス王国の国境付近へ向かった貴族が殺された。また、その貴族の護衛騎士もどこかへ消えてしまった」
おいおい、それはついさっきのことだろ?よくこんな早くそれを把握できたな。
「そこで、この貴族殺害は――」
「はい、俺が前言っていたヴィーナス王国からの刺客かと思われます」
ルイベルトがこれまでの情報をみんなへ伝える
「やつらはヴィーナス王国の神の使い、リズベルの手下と思われ、隣国であるこのアース王国を第1の標的にしている様子です」
「と言うことだ。これらのことはSランク依頼として公にはしない。そのためこの依頼は君たちに直接任せたい。いいかい?」
「もちろんです。ですがその前に2ついいですか?」
「ああ、構わない」
俺はさっきのことを訂正する。
「貴族が殺されたと言っていたんですが正確には殺されたんではなくヴィーナス王国に協力するためこの国を捨てたんです。実際その現場を見てたので間違いないです」
「貴族の情報部隊からは殺されたと聞かされたが?」
「その貴族は、俺は死んだことにしてくれ、そうヴィーナス王国の刺客に言っていました」
「そうか、それならばもう一つ頼み事を聞いてくれ。その貴族をこの国のために――」
「了解しました。では2つ目です。どうして貴族が襲撃にあったことをこんなにも早く知っているんですか?」
これが1番気になる。
「貴族には1人、情報を伝達する者をつけている。何か貴族に異変があればすぐに教えるよう伝えてあるのだよ。もちろんこれも秘密組織の1つのため貴族たちは知らない」
「そうでしたか、ありがとうございます」
俺だけだろうか、気になることがあるのは。なぜ殺されていないのに殺されたと伝えたのか。それに殺されたことにしろと言っていたあの貴族。何か関係がありそうだな、とにかく早く片付けなければいけないな。
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