心地好い君の声(同棲男女)
テレビ画面で、恐竜が大口を開けている。
『キシャアアアアッ』
「あああああああ!!!」
隣から、悲鳴が上がった。
映画の中の人物たちの悲鳴よりも大きい。
僕は、画面よりも隣を眺める。
うん、いい顔をしている。
登場人物たちと同じ顔。すごいなあ、その場に居るみたいだ。
僕は彼女とは逆に、楽しく笑っていた。
ガタンガタタンッ
ちらっと見た画面では、恐竜たちが子どもたちを探してうろうろしている。
「無理無理むりむりむり……」
『キュェアァァァッ』
「ああああああああ!!!!」
見つかった子どもたちと同じように、彼女も絶望の声を上げた。
「つ……疲れた……」
見終わったあと、彼女はぐったりとソファーに倒れた。
「お疲れ様。あれだけ叫んでたら、そりゃ疲れるよねぇ」
はい、と水の入ったグラスを渡したら、彼女は、小さな声でありがとうと受け取った。
「何か、いつもごめんね、騒がしくて……」
「家で観る醍醐味だから構わないよ。それに」
僕も自分の水を飲みながら言った。
「君の悲鳴が聞きたくて見てるんだし」
「……そういうとこ、ホント、引く」
「あはは、引いても別れないでいてくれるとこ、好きだよ」
「どーも」
彼女は、嫌そうに言いつつも僕にもたれて来た。
僕は、上機嫌に彼女をギュッと抱き締めた。
END.