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Born from peach

作者: ダイナマイト山村

ももたろさんももたろさん

おこしにつけたきびだんご

 深々と刺さった刀を引き抜く。

力を入れて、力まずに、鋭利な刃先が相手の体から遠ざかれば遠ざかるほど。

自分の体に近づけば近づくほど、肉の切れ目を深くする。


 あたりに赤い血があふれていた。





ムカシムカシ

アルトコロニ

オジイサント

オバアサンガ

スンデイマシタ


 おじいさんは柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に出かけました。

仲良く仕事に出かけた二人。おじいさんとお婆さんはこの日、それぞれの選択に迫られることになります。


 「くそう、毎日毎日」

里山の管理をしているおじいさんは、不満を抱えていました。

一人になれる時だけ。

柴刈りの時だけが、自分の中の負の感情を吐き出せる貴重な時間。


 「くそう。毎日毎日」

川で洗濯をしているおばあさんは、不満を抱えていました。

一人になれる時だけ。

洗濯の時だけが、自分の中の負の感情を吐露できる至高の時間。


 おじいさんとおばあさんには、かつて子供がいました。

名前は太郎。身体能力が高く、頭もいい。

理想的な美男子として里でも有名でした。

18になった太郎は、蛮族の島を制圧しました。

さらわれていたいた女、子供、略奪された金銀財宝を奪い返しました。


英雄。


 そのはずだったのです。

「そのはずだったんだ」

おじいさんはなたをふるいながら、思い返します。

太郎は誰の子だ。新婚だった。

おじいさんは『それ』について疎かったのです。

今ならわかる。

「太郎は誰の子だ」


 英雄となった太郎は、なぜかふさぎ込みます。

蛮族の島で何かがあったようです。

鬼が住むと言われた離れ小島。

蛮族の巣食う島。

里のみんなからは鬼に魅入られたと言われました。


「鬼に魅入られた」

おばあさんは思い返します。

太郎は恐らく知ったのでしょう。

おばあさんはそれでも冷静です。

太郎は私の子。

「太郎は私の子よ」



「おじいさん」

話しかけられてぎょっとしたおじいさんはしりもちをついてしまいます。

「驚かせてすいません。雉次郎と申します」

太郎が島に連れて行った一人です。

「太郎様の望みをお伝えします」



 おばあさんが川で洗濯をしていると、桃が流れてきます。

それは、おおきなおおきな桃です。

明らかに不自然ですが、おばあさんは持ち帰ることにしました。

この異変をおじいさんに伝えなければ。

仲のいいおじいさんとおばあさんでしたが、それは表面上の話でした。

もう20年以上、まともな会話などなかったのです。


 桃から生まれた桃太郎。

すくすくと育ち、15歳になりました。

かつての蛮族の島は、いつの間にか鬼ヶ島と言われていました。

毎夜、毎晩、悲鳴にも似た叫び声が聞こえるとか、聞こえないとか。

そんな不気味な鬼ヶ島の探索を、桃太郎は志しました。


 おばあさんは心配して、ソワソワしています。

それは桃太郎を、ではないように、おじいさんには見えました。

おじいさんは桃太郎を大切に思っていました。

それは雉次郎との約束だけが理由ではありませんでした。

「気を付けて。桃太郎。この先何があっても、自分で決めるんだ。誰かに何かを言われても、使命を背負う必要はない。私が何かを頼んでも。叶える必要はない。おばあさんが何かを願っても。お前は、お前の望みを持ち、何が重要で何を守るのか。自分できめなさい」

桃太郎はうなずきます。


 犬。猿。雉。

桃太郎の仲間になります。


 鬼ヶ島には意外とあっさり入ることができました。

ただし、次郎と名乗った船頭が最後に言った言葉が少し気になりました。

「因果を断ち切る刃。それは力ではなく意思です。誰かの不幸は誰かの幸せかもしれません」


 島にはたくさんの建物がありましたが、人影はありません。

誰かが住んでいる生活感がありません。

桃太郎は犬、猿、雉に調査させます。

犬若いぬわか10歳、猿取さるとる12歳、雉風きじかぜ13歳。

彼らはみな親のない子。鬼ヶ島へ向かう道中で出会った子供たちでした。

キビダンゴをください。


 それはおじいさんが教えてくれた合言葉でした。

「お前を助けてくれる仲間がいる。キビダンゴという合言葉を忘れるな」


 結局島の中央にある大きな屋敷以外にだれも住んでいないことがわかりました。

順調が過ぎる。

桃太郎は感じています。

それでも行くしかありません。

桃太郎が、自分自身で決めたことだから。


桃太郎は自ら割腹した鬼と対面しました。

「父さん」

と涙します。

「これでいい。ありがとう。私は流れる鬼の血に耐えられなかった。これで、救われる」


 船頭の次郎がいろいろと教えてくれました。

昔、蛮族の島がありました。あらゆる里や村から女子供をさらい、自分たちに都合のいい教育を施し、子を産み、増やしました。


 蛮族の王はしたたかでした。人さらいは最小限にしていました。島が敵視される事を恐れたのです。

それでも、勢力の拡大も画策していました。

娘たちを里や村に送り込み島の血や思想を国中に増やしたのです。


 ある里に送り込まれた娘は、父親を愛していました。

島から最も近い里に送り込まれたその娘は、嫁いだ後も毎月島に報告といっては戻り、父親に関係を迫りました。


 やがて生まれた子供。しかし、父との子。

決して伝えられない秘密。

島の思想も中途半端にしか伝えられませんでした。


 蛮族が悪鬼にしか思えなくなった太郎は父親に相談します。

母親と父親がぎこちない事に、太郎は気づいていました。

母にしか言えないこと。

父にしか言えないこと。

どちらにも、言ってはいけないこと。


 鬼退治にむかった太郎。そこで、自分の本当の父に会います。

母の真実を知ります。

自分の真実を知ります。

殺した鬼は、殺した父は、殺した一族は。

まぎれもなく人間でした。

圧倒的に人間でした。


深々と刺さった刀を引き抜く。

力を入れて、力まずに、鋭利な刃先が鬼の体から遠ざかれば遠ざかるほど。

太郎の体に近づけば近づくほど、肉の切れ目を深くする。


 あたりに赤い血があふれていた。





 雉次郎はおじいさんに太郎の真実を語ります。

「大きな桃に太郎様のご子息を託します。これは太郎様の意思。もし、ご母堂が桃を無視したり、沈めたり、ご子息の身に何かがあったらその時はこの計画の終わり」

おじいさんはじっと聞きます。

「ただし、どれだけ訝しもうが桃を家に持ち帰ったならば」


「俺を殺してくれ」


 おじいさんは桃太郎を育てました。

雉次郎の支援もあって何不自由ありませんでした。

計画のために。血のつながらない息子を殺すための計画のために。

それでも、おじいさんは大切なことを教えます。

「自分の意思で生きろ。最後は自分で選べ」


 犬若、猿取、は桃太郎の弟でした。

雉風は雉次郎の息子でした。


 皆計画のために生まれ、育てられましたが、桃太郎は提案します。

鬼を退治したことにしよう。

父が蛮族から奪った金銀財宝を持ち帰ろう。

我々は英雄になろう。

嘘でもいい。

そして、良きことをしよう。

里のために生きよう。村のために生きよう。国のために生きよう。


 沢山の人の無念を超えて。

ここから始めよう。

知らなくてもいい事。知ってしまったこと。知りたいこと。

自分たちが背負っていこう。

誰かの為ではなく、自分たちのために。


 後世に伝わっていくうちに少しづつ代わっていった物語ですが。

これが本当のお話。


 里に戻った桃太郎は抱き合うように倒れる父と母、いや祖父母を見ます。

その胸には赤い花が咲いていました。

心優しい鬼、父親の胸に咲いた花と同じものでした。




 























長くなっちゃいました。

ありがとうございました。

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