divide0 プロローグ
ーーーーー西暦2020年 夏・東京ーーーーー
「ありがとうございましたー」
うだるような暑さの中、俺はいつものように学校帰りにコンビニに寄り、お気に入りの缶コーヒーとチョコレートを買って家に帰ろうとしていた。
いつも通りの毎日。
普段と違うことと言えば、昨日から軽い痛みを自分の頭部に感じていることぐらいか。
「今日はやたらと信号に止められるな、、、」
自転車での通学に信号は天敵だ。徒歩と違い、1度止まってしまえばそこからまた漕ぎ出さなければならない。
特にこんな蒸し暑い夏の夕暮れには、少しでも長く風を感じていたいというのに、止まってしまえばただ暑さに身を焼かれるだけとなってしまう。
昼間に溜め込んだ熱を放出するアスファルトからの熱気に耐えながら信号を待っていると、1台のトラックが此方に猛スピードで向かってくるのを視界の端に捉えた。
「ブオォォォォォォォォォォォォォォ」
ハンドルを切り返すどころかクラクションすら鳴らす様子がない。居眠り運転だろうか。
兎にも角にも慌ててその場から離れようとする。
しかし、日頃から通学の足として自分を助けてきてくれた自転車が、今回ばかりは足枷となってしまっている。
「!!!」
ーーーーーー
ーーー熱い
全身を焼けるような痛みが貫く。
そしてその感覚を僅かばかり紛らわせてくれるアスファルトの熱に何処か感謝の念を抱きながら、周囲に意識を向けようと努める。
ーーー騒がしい
ーーーそりゃそうか、、、、
女性の悲鳴、自分にひたすら呼びかける男性の声、救急車を呼ぶ人の声、野次馬の足音。
次第にその周囲の喧騒すら意識から遠のいていく
ーーー俺、死ぬのか、、、
不思議にも世間で言われる走馬灯などと言うものを見ることはなかった。
しかし最後、意識が途切れるその刹那、彼の脳裏にある言葉が過ぎる。
「ーーーはじめまして」
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次回 divide1 ヒーローにはなれない