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エレベーターの階(怪)

作者: ねこたぬき

 それはある秋の日のことだった。秋といってもまだまだ残暑が厳しく、その日は今にも雨の降りそうな曇りの日で、家を出た瞬間からじっとりとした生暖かい空気が肌を包むような嫌な天気だった。

 

 

 俺が通うK大学は山の上にある。山の上といっても林間学校というわけではなく、大学の周辺には住宅地も広がっている。ただそれでも、大学までの道は険しく、道こそ舗装されてはいるがタクシー一台通るのがやっとの細くて急勾配の道がずっと続いている。もう十月だというのに額を流れる汗が止まらなかった。やっとの思いで坂を上り教室へ向かう。いつも通りの日々になる…はずだった。

 

 

 

 午前の授業が終わり、友達と昼食を食べた後、それぞれの選択科目の教室へ向かうため別れた。次の教室はK410(4号館1階の0号室という意味だ。0号室は大教室で、その他の1号室、2号室は小教室となっている。)なのでエレベーターに乗っていこうと思ったが、エレベーターの前にはすでに次の授業へ向かう学生たちの長蛇の列ができていた。諦めて歩いていこうとした時、ふと、通路の奥の外へ続く非常階段の手前にもエレベーターがあるのに気付いた。見てみれば誰も並んでなかったのでラッキーと思い、ボタンを押してエレベーターを待ち乗り込んだ。他の階に止まることもなくすぐに来た。

 

 乗り込んですぐに1階のボタンを押し、誰も来ないことを確認してドアを閉めた。

 がこん、という音と共にエレベーターは下へ下がっていった。待ち時間の間、読みかけの漫画をスマホのアプリで読むことにした…。

 

 

 

 …集中しすぎて時間を忘れ、すでに2巻分読み切り、いよいよ物語のクライマックスにさしかかろうとするところで急にスマホの接続が悪くなった。画面の左上を見ると圏外の表示が出ていた。このK大学は山の上にあるせいか電波が届きにくい。普段もよくあることなので、もどかしい気持ちになりながらWiーFiを接続しなおそうとしたとき、『ぴんぽん♪』と軽快な音がしてドアが開いた。いったんスマホをポケットへねじ込みエレベーターを出た。

 

 

 エレベーターを出ると、まだ人が来ていないのか廊下にも教室にも電気は点いておらず、とても薄暗くて、非常口の赤いライトだけが煌々と点滅を繰り返していた。それなのに冷房だけはしっかりと作動しているかのように寒かった。

 もともと今日は今すぐにでも雨が降りそうなほど曇っていたので、特におかしいとも思わなかった。暗いのも寒いのもきっとそのせいだろうと思っていた。

 

 

 誰もいないからといってもう一度食堂に戻るのは面倒なので、とりあえず教室へ向かった。長い通路を進み(こんな長かったっけ?)突き当りを右に曲がると、そこに教室はあった。中からはごそごそと物音もするので、他にも誰か来ているのか、と思いドアを開けようとしたがとても嫌な予感がした。このままドアを開けてしまえば取り返しがつかなくなる、そんな気がした。ドアから一度手を離し、ふと上を見上げると、教室のドアにはK401と書かれていた。

 

 

 

 エレベーターにはなぜか0階はない。これは日本に限らず、世界でも同じだ。

 例えば海外では、不吉とされて、13階のないマンションも珍しくはない。日本でもたまに4階のないマンションがある。これも同じ理由だ。4は死とも読めるからだろう。ただ0という数字に関しては不吉だという話は聞かない。それなのに、エレベーターには0階はない。1階の上の階は2階だし、下の階はB1階だ。B1階をマイナス1階とするなら、0階はどこにある?地中にでもあるというのか。今まで当たり前すぎて気にしていなかったが、これはかなり不思議なことではないだろうか?

 

 

 

 何か分からないがとても嫌な予感がしたのでエレベーターまで戻り、一回食堂へ戻ることにした。多少授業に遅れてもいい。とにかくこの場にいたくなかった。

 体が震えそうなほど寒いのにもかかわらず、冷や汗でびしょびしょになりながら、早歩きでエレベーターまで戻った。エレベーターの前に着くやいなや、すぐに上へ上るボタンを押して、エレベーターが来るのを今か今かと切実に待った。上の画面を見ると、すでにB4、B3、B2と各階に止まりながらもゆっくりとエレベーターはこちらの階まで上ってきていた。


 とりあえず落ち着きながら考える。普段使わないエレベーターに乗ったせいで迷ったのだろうか。間違えて隣接している他の建物(3号館とか6号館とか)に来てしまったのだろうか。それはあり得るかもしれない。ただ、K401なんて教室はあっただろうか?

 今まで聞いたこともないし、そもそも0階なんてないはずだ。だって一番下の階は1階で…。

 がばっ、ともう一度エレベーターの上の画面を見る、エレベーターはB1で止まっていた。引きかけていた冷や汗があふれ出る。おかしい!一番下の階は1階のはずだし、そもそもこの学校の建物には地下は存在しない。B1なんて階があるはずがないのだ!

 じゃあどこから来ている⁉︎

 そして一体何が乗っている⁉︎


 焦っていると、エレベーターが動きだした。0階へ向かってきているのだ。とにかく急いで走り、近くにあった柱の陰に身を寄せた。それから息を整える間もなく『ぴんぽん♪』という軽快な音がなった。

 

 

 ドアが開く音がして、中から〝なにか〟が出てきた。

 

 ぞろぞろと。

 ずるずると。

 べちゃべちゃと。

 ぺたぺたと。

 かりかりと。

 にゅるにゅると。

 がらがらと。

 ぴちゃぴちゃと。

 じゅるじゅると。

 どすどすと。

 するすると。

 にちゃにちゃと。

 ざりざりと。

 ぐちゅぐちゅと。

 

 

 柱の陰からそっと顔を出してみると、そこには得体のしれない〝なにか〟がいた。

 声を押し殺すのがやっとだった。あまりの恐怖に手足が震え、金縛りにあったかのように体が固まってしまった。

 それらは皆、K401の方へ向かっていく。それらがエレベーターから遠ざかっていくのを確認してから、なけなしの勇気を振り絞ってエレベーター全速力で走った。

 ドアが閉まるギリギリに滑り込むようにして入った後、急いで『閉める』ボタンを押し、それから1階のボタンを押そうとして、愕然とした。

 

 無いのだ。0階から上の階のボタンが。

 

 慌てて降りようとして、『開く』のボタンを連打したが、がこん、という音と共にエレベーターは徐々に下へ下がっていき始めた。よく見ると、下の方のB9階のボタンが押されていて、さらにその下に高さ30cmにも満たない……がいて、俺を見て、にたぁっと笑い………そうか、0階はゼロ階ではなく、()()()。つまり、()()で………、このエレベーターは…と繋がって…い………て………へと向かうか…ら…俺は…これ…か………………………………………………………ら…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………『ぴんぽん♪』

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

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