067 暗躍
テワ国に入国したバール達は、とある一つの小さな集落にたどり着いた。しかし、そこはすでにもぬけの殻となっていた。
「誰もいねえな……」
「ここはもう、若者どころか村の人全員が拐われたって感じだね。」
静まりかえった村を散策するバールとハヤト。
「……いや、これを見てくれ。明らかに何か隠してるぜ」
「これは……」
村を探っているうちに、近くにあった建物の中で、何かを発見した。不自然な場所に置かれている椅子と、陰になっているが、黒ずんだ何かがこびりついている壁。
「これ……血……だよね?」
「多分な。拐われたんじゃなくて、殺されたんじゃないかな。子供の誘拐を隠すために。」
すぐさまディープ達を呼び、この状況を知らせた。
「この向かい側の建物も同じ状態だったわ。一体、何があったのかしら……」
首をひねるディープに、横からアンナが意見する。
「おそらく、虚実篇ではないでしょうか?」
「虚実篇?」
「はい。私の国に伝わる兵法の一つです。攻めるならまず小さな所から。そうすれば守りも薄いため、大きな規模で攻撃するより成功率が高くなります。おそらく他の小さな村も、ここと同じくもぬけの殻となっているはずです。」
バンズもアンナの意見に感心しているようだ。しかし、ある一つの疑問が生まれる。
「なるほど……なるべく誰の目にも触れず、小さい規模で攻略していく方が最終的にリターンが大きくなる……でも、今他の村を探すのは、さすがに危険じゃねえか?」
「そうね、この国自体人口が少ないっていうのもあるから、大人数で移動するのはどうしても目立つ。移動しながら探すのは、かなり難しいわよ。」
「それは私に任せてください。」
この事件には何らかの目的がある。その可能性が生じる反面、避けることのできないリスク。何かいい案は無いかと考えるディープとバンズだったが、アンナには一つ方法があるそうだ。
「私は、頭にパワーを集中させることで半径2キロ圏内ならパワーを出している物体を探ることができます。どんな人間でも生きている限り微量ながらパワーは出るものなので、大体の人数も把握できます。」
そう言って集中し始めるアンナ。その姿をディープ達は見守っている。
「あんたの『特』、とても疲れそうね……」
「…………!」
突然、アンナの表情が変わった。何かに怯えたような、不安な表情。それにディープがすぐに気付いた。
「なにか感じたの?」
「……この辺りにパワーは感じません。そもそも近くに村がないか、あったとしてもすでにやられているでしょう。……ですが、ここから1キロほど離れた所で、5つ……それに比べて少し小さいものも合わせれば、13ほどのパワーを感じます。民間人とは違った種類のものなので、おそらくこの国の者ではないでしょう。」
「てことは……やっぱり裏で何かの集団が動いているっていうこと?」
「目的は分かりませんが、その可能性は高いと思います。この村のことや、最近の失踪事件とも関係しているとみたほうがいいかと。…………でもそれだけではなくて、同じ場所に微かにパワーを出しているものが大量にあります。これは、人が死ぬ間際に出すものととても似ていて……」
「それ、まさか村の人達が……」
先程からずっとディープの後ろについていたベイリーの顔が、恐怖に慄いたのかやがて泣き出す子供のような表情に変わる。
「……まいったわね。もしかしたらと思ってたけど、本当に謎の勢力が存在していたなんて……どうやら戦いは避けられなさそうね。」
「あの……ディープさん、俺らですぐにそいつら倒せないんですか?なんで人が消えていくのかは分からないけど、だったら尚更一人でも助けた方が……」
なんとか話に付いてきたバールが問いかける。今すぐにでも自分たちでなんとかしたい。それがバールの気持ちだった。
「一人でも助けるべきなのは間違ってないけど、対策も何も考えずに関わるのは危険すぎるわ。私達は世界の秩序を守るために戦うの。今特攻しても、この騒ぎを止められる保証はないわ。」
「少しの被害なら……見逃すっていうんですか……?」
ディープの冷徹な判断に、負けじと自らの気持ちを訴えるバールだが、それも軽く跳ね返されてしまう。
「……ええ。そういうこと。相手の行動を把握して、なにが目的なのかを探る。それが今の私達の役目なの。だからとりあえずはここに留まって、体制を整える。ビバ帝国に残った人達にも連絡して、事態に備えてもらうわ。」
失踪事件の裏で何かが動いている可能性が浮上し、それを食い止める必要があると判断したバール達。
世界の混乱を防ぐためという、彼らとって大きな意味を持つ争いが今、始まろうとしている。




