062 おかえり
「やぁ、モエ。もうすっかり師匠だね!」
1人の少年が近づいてくる。小柄で頭の白い少年。その姿にモエは見覚えがあった。
「ハヤト!!」
近づいてきた影の正体はハヤトと言う少年だった。バールと同い年の彼も、六槍師の打診があるほどの腕なのだが、まだ力不足という理由で自ら断っていた。ロスクルド帝国との戦争の後、意識不明となり入院生活を送っていたが、徐々に容態は戻り、つい最近退院したようだ。
「もう回復したんだね!最近どうしてる?……って言うか、なんでここが分かったの?」
弟子の前ではしっかりとした口調の師匠も、同年代の前では以前の話し方に戻っていた。
「ビュウから聞いたんだ。皆頑張ってるって。それで、元気になった姿を見せようと思ってここに来たんだ。」
「ビュウね〜……あの人、いつもムスッとしてるから避けてたんだけど、意外と優しいのね。」
モエが不思議そうな顔をする。するとハヤトが突然、こんなことを言い出した。
「そうだ。ディープさんの所へ一緒に行かない?ボク退院してからまだバールに会ってないんだよね。」
「まだ会ってなかったの?なら早めに会いに行かなきゃね。バールも、結構強くなったんだよ?」
この日の訓練が終わると、2人はディープの元を訪ねた。山奥にある一軒家。辺りに目立つものが無いため、すぐに場所が分かる。
「あら、あんた達。どうしたの?こんな時間に。」
扉を叩くと、すぐにディープが出た。彼女は心配そうな表情を浮かべている。
最近は日が沈むのがとても早く、外灯も少ないこの地区は、すぐに暗くなってしまうのだ。
「バールに会いたくて来ました。バール、居ますか?」
「ごめんねぇ、バールならさっきちょうど走りに出て行っちゃった。多分結構時間かかるから、入って。寒いでしょ?」
すでに冬が始まっていた。2人はディープに手招きされ、家の中へと入って行った。
部屋に入った2人は、中央のソファーに座る。身体が沈みすぎない、絶妙な柔らかさだった。
(うーん……柔らかい……)
モエはバレないように何度も座り直した。ソファーの柔らかさを楽しむように。
「何をやっとるんじゃお主は。」
どこからか聞いたことのある声がする。自分のことだ。と気づいたモエが辺りを見回すと、自分の横にとても小さな老婆が立っていた。
「トキさん?!なんでここに……」
このトキという女性。実は彼女、かつて六槍師だったテツの姉なのである。フグマールの隠れ家では、アカツキ義勇団の師匠として彼らの訓練を任された。
「テツの奴に頼まれてのう。もしワシに何かあった時はお主らを頼む。そう言っておった。と言うことでわしもここで暮らすことになったのじゃ!」
老婆は元気に笑う。その横でハヤトとモエは苦笑いを浮かべていた。
「はい、これ。」
するとディープがある飲み物を用意した。ほこほこと湯気が立ち、とても暖かそうだ。
「それ、トキさんがくれたサラノーワの葉っぱで作ったお茶よ。体温を上げたり、身体の疲労を回復する効果があるんだって。よかったら、飲んでみて。」
「ありがとうございます!」
2人はそのお茶を喜んで飲む。少し渋い味だったが、飲んだ瞬間に身体の芯から温まる感じがした。
「ふぉっふぉっふぉ。あのあたりには不思議な植物が多いからのう。まだまだあるぞ。」
老婆が笑うと、玄関の扉が開く音がした。
「ただいま〜って、ハヤト?!それにモエまで……なんで?」
外へ走りに行っていたバールが驚いた顔をしながら帰ってきた。外では雪が降り始めていたが、彼はだらだらと汗をかいている。
「久しぶり!バール」
そう言ってハヤトは嬉しそうな顔を見せていた。




