061 安寧
あの大陸戦争から3ヶ月後のビバ帝国。そこには、荒れた土地で巨大な岩を砕いている1人の少年がいた。
「ふぅ……かなり硬いやつも粉々にできるようになったな。」
この少年、バール。幼い時に家族を失い、街を彷徨っていた所をとある女性に保護され、以来そこで生活している。
「はい、あと50個ね。」
その女性がバールに指示を出している。彼女の名はディープ。実は彼女は、世界を救った英雄として、六槍師という称号を与えられる程の実力者だ。現在はバールの師匠として、弟子とともに訓練の日々を送っている。
「えぇ〜?!……ったく、どこにそんな岩があるんだよ〜……」
「ん?今なんか言った?」
ボソボソと愚痴を零すバールに、ディープがすぐさま反応する。長い茶色の髪を手でとかしながら、弟子の失言を鋭く突く。師匠には逆らえないバールは、焦りながら次の岩を探しに走った。
「はぁ……はぁ……。やっと終わった……。えーと次は……」
「わんわん!」
ディープの隣にいた一匹の大きな犬がこちらへ走ってきた。どうやら訓練に参加したいようだ。
「わかったわかった。よし、じゃあラキオも行くぞ!」
「わん!」
そうして走り出す少年と飼い犬の姿をディープは温かな目で見つめていた。
あれからというもの、世界の混乱は収まり、人々は幸せな生活を送っていた。が、その代償は見逃せないほど大きかった。
六槍師の大半を失い、その弟子の集団であるアカツキ義勇団でも多くの戦闘員を失ってしまった。六槍師の空いた席は、弟子達が繰り上がりで埋めることになるのだが、世間からの疑問の声は避けられなかった。
そしてその繰り上がりで六槍師の座についた1人の少女。彼女もまたとある場所で弟子に稽古をつけていた。
「いい?もう一回羅天術のおさらいをするわよ?」
「はい!師匠!よろしくお願いします!」
元気の良い弟子に指導するのは、モエという小柄な少女だった。背中まで伸びているであろうその黒くて艶のある髪を、ひとつに結んでいる。
羅天術。古くから争いに用いられてきた戦闘術だ。この術を習得することが戦闘員になる最低条件だった。
「まず、羅天術には六つの種類があることは覚えた?難易度の低い順からもう一度説明するわね。一つは『拳』(けん)。パワーを一箇所に溜めて、その部分の身体能力をアップすることができるの。例えば、足に溜めてスピードやジャンプ力を高めたり、拳に溜めてパンチ力を強化することができるわ。」
「次に、『静』(せい)。これは回復用の術で、パワーを集中させた部分の怪我を修復することができるの。ただし、病気を治療したり血液量を増やしたりはできないし、攻撃用の術を出した後に使えば、その次の攻撃力に影響が出るわ。だから基本、戦闘員は使わないの。」
モエの説明を真剣な表情で頭に入れる弟子達。その光景を遠くで1人の少年が見つめていた。
「次は『成』(じょう)。パワーで物体を覆い、強化することができるわ。例えば、この石ころに成を使って飛ばすと、あそこの木の枝を折ることだってできる。」
モエは近くに落ちていた小石を拾い、軽くパワーを込めて近くの木に弾く。細い木の枝は、完璧に折れてしまった。
「そして『波』(なみ)。パワーを衝撃波に変えて攻撃することができるわ。なかなか近づけない相手に有効ね。エネルギーの弾のようにすることだってできるけど、コントロールが難しい。」
「次は『創』(そう)。パワーを形にすることができるの。例えばこうやって剣を作ったり、極めると自分の分身を作ることもできるわ。ただしこれも加減がとても難しいのと、形を保つことにとても体力を消費するわね。」
「最後は『特』(どく)。これは他の五つの術を極めた者に生まれる、特別な力ね。その人の育ってきた環境によって大きく左右されるわ。例えば私なんかは医療の発達した国で産まれたから、どんな怪我でもすぐに治すことができる。どちらかと言うと戦闘向きじゃ無いけどね。」
彼女は軽く笑い、仕切り直した。
「はい!以上が羅天術の六つの種類よ!実際の戦闘ではこれらをいかに上手く組み合わせて戦うかが鍵になるの。頭に叩き込めた?そしたらさっそく実践に移るよ!」
溌剌と訓練に励む師匠と弟子達。
先程、遠くでその姿を見ていた少年の影は、いつの間にかこちらへ近づいてきていた。




